第55話 デートの時間です
「情報収集はこんなもんか。シュナイクの話も聞けたしな」
「そうですね、今頃はカエルレウムでしょうか」
「元気でやってくれてたら、いいな」
テオとレイシーは獣人族の種族や習性など、今まで調査できなかった部分まで調べていた。
その調査の際に、シュナイクの情報まで拾ったのだ。
主に貧困層の獣人族を人助けしていて、みんな一様に感謝していた。
そのうちのひとりが漁師をしていて、海王が治る魚人族の国、カエルレウムに送っていったらしい。
「よし、それじゃぁ、そろそろ買い物の時間にしようか」
「はい! それでは、後ほど宿屋で」
そういった瞬間、すでに姿は見えなくなった。
「アイツ……
そういうテオも、とても軽い足取りで先ほど見つけた、ブルトカールの土産物屋にむかっていった。
***
「ノエル様……あの、本当にこれで観光に行くんですか……?」
「うん、もちろん。よく似合ってるよ」
ノエルは速攻で、洋服屋にアリシアを連れていった。試着室から出てきたアリシアは、恥ずかしそうにスカートをつまんでいる。
ミントグリーンの花柄のワンピースに、レースのボレロを羽織っていた。サイドだけ編み込みにしておろした髪がサラサラと肩から落ちる。
「じゃぁ、行こうか」
ノエルは、いまだに戸惑っているアリシアの手を引く。そのまま何気なく手をつないで、メイリルの街へ繰り出した。
(ど、どうしよう! どうしよう! ノエル様と手をつないでる! 現在進行形!! 何ですかコレ、私を萌え死にさせるつもりですか!?)
「アリシア、どうしたの?」
あまりにも無口なアリシアに、ノエルは声をかけた。
理由はわかるけど、折角ふたりきりになれたのに……何とかアリシアを笑顔したい。
「そうだ、魔道具専門店に行ってみる?」
「えっ! いいんですか!?」
「ふふ……いいよ。アリシアが喜ぶなら」
そう言って、すでに笑顔になっているアリシアにつられて、笑顔になった。
仕事も何も関係ない、気も張らなくていい、こんな貴重な時間はほとんどない。そんなノエルの笑顔にアリシアは、一瞬、確実に心臓が止まった。
(はうああ!! 何、いまの笑顔!? 一瞬、心臓止まったわ!! ノエル様が天使すぎるっっ!!)
魔道具専門店を出たあとは、メイリルで人気のお店に入った。そこで話題のスイーツを注文して、ひと休みしている。
「ねぇ、アリシアは結婚とか考えていないの?」
「へ? 結婚ですか? いや、まったく考えてませんね!」
「…………そう」
アリシアの父親から出された条件は、口説いたり気持ちを伝えたりせずに結婚する気にさせたら認める、というものだった。たまに聞いてみるけど、全っ然、その気にならないらしい。
「僕はアリシアならいい奥さんになると思うよ」
「そうですか? うーん、想像できません。それに……」
(結婚したら、ノエル様とこんな風に過ごせなくなる)
「誰か好きな人でもいるの?」
「すっ! 好きな、人!」
わかってるけど、僕もそろそろ我慢の限界なんだよね。多少強引でも、条件さえ破らなければ問題ないでしょ。
「好きな人がいるなら、その人と結婚すればいいんじゃない?」
「いやいやいや! 無理ですよ!」
(私ごときがノエル様と? いやいやいやいやいや、釣り合わないから!)
「なんで? 相手は平民なの?」
「いいえ」
「じゃぁ、王族?」
「いいえ」
「じゃぁ、身分差は問題ないよね。あ、まさか既婚者?」
「いいえ!」
「じゃぁ、相手にすでに婚約者がいるの?」
「……いいえ」
「じゃぁ、なんで無理なの?」
「……なんでって、私じゃ釣り合わないですよ……」
(こうしてふたりで過ごせる時間があるだけで、充分なんだから)
ほんとコレ、いますぐ口説きたい……! ていうか、あの条件、体良く断るための条件なんじゃないかとすら思うね。
「いや、条件的にも問題ないし、アリシアはあの二番隊の隊長なんだから、問題ないんじゃない?」
「…………そう、ですかね」
「その好きな人に他の婚約者ができる前に、気持ちだけでも伝えてみたら?」
「…………っ!」
「別に直接じゃなくても、父君に相談してみたらいいんじゃない? 結婚したい人がいるとか言ってさ」
「他の……婚約者……」
(そうだよね、ノエル様くらい素敵な人なら、すぐに他のーーーー)
ノエルは最後に少し元気のないアリシアに、ゴールドのラインの入った青いリボンをプレゼントした。それはすごく喜んでくれている。
これで少しは貪欲になってくれるといいんだけど……そもそも、僕の気持ちに気づいてないのが問題だよね。どうやって口説かず告白せず、僕の気持ちに気づかせようか……?
この後、エレナがいい仕事をすることになるのを、ノエルはまだ知らない。
***
「ただいま戻りました……」
「あら、おかえりなさい。楽しめた?」
同室のエレナが優しく出迎えてくれる。
宿屋に戻って、アリシアは部屋のベッドに倒れ込んだ。バックやら、途中で買ったお土産やらも、ベッドの上にドサッと置いたままだ。
「はい……楽しみました」
「あら、このリボン……」
「あ、それ、ノエル様が私に似合うからって、プレゼントしてくれたんです」
「あらあら、それはもう我慢の限界が近いのね」
「……? 我慢? ノエル様に何かあるんですか?」
もし私のせいで我慢させてるなら、なんとかしないと! まだノエル様の側にいたいんだから! せめて、ノエル様に婚約者ができるまでは————
「えぇ、アリシアは気がつかない? リボンの色」
「青と……ゴールド……ノエル様の色ですね?」
「そこまではわかっているのね。男性が自分色の贈り物をするって、独占欲の表れよ」
「……独占欲? ノエル様が? 私に? なぜ?」
この調子だものノエル様も苦労するわね、と思いながらエレナは、そっと背中を押してやることにした。
「好きな相手だからに決まってるでしょう?」
「ええっ!! まさか! そんな訳……」
「アリシア、私がそう言っているの。間違いないわ。ヴェルメリオに帰ったら、お父上に相談してみなさい。きっと上手くいくわ」
「いや……そんな……」
「わかったわね?」
「はいっ!!」
エレナの強い押しもあり、ヴェルメリオに戻ったアリシアは父親に相談すると、翌日にはノエルの正式な婚約者になっていた。アリシアはその事実を聞いて、あまりの衝撃で三日間も寝込んでしまった。
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