第49話 やりたい放題・その1
「それでは、オークションは以上で終了です」
一気に会場がざわつき始める。結局ドルイトス伯爵の一人勝ちで終わった。それでも変異種を目にできたのだから、損はないと口々に話していた。
「最後にひとつ、お知らせがございます」
エレナの言葉に、ざわめきが止んだ。貴族たちは、次回の告知か何かかと、期待している。
「この時より、この会場にいる全員、我ら
そういうと、エレナもテオもレイシーも、目の前の空間が歪み隊服姿になった。聖神力を解放して、純白の翼を広げている。ベリアルが空間を歪ませて、違う景色を見せていたのだ。
ベリアルとグレシル、そしてライルとアシェルが会場を取り囲むように、姿をあらわした。
「なっ! なんだと!?」
「ふざけるな! お前らの指図など受けん!!」
「アルブスなど聞いた事もないぞ!」
「私は帰らせてもらうぞ!」
「そうだ、バカバカしい! 我々はこの国を支える貴族だぞ!」
そう言ってひとりの貴族が、出口にむかって歩きだした。その足元に、バチンッと紫雷が落ちる。
会場は一気に静まりかえり、レオンの声が響きわたった。
「黙れクソ貴族ども。文句があるならかかって来い。お前らは俺が
レオンの黒髪が揺れて、紫の瞳が淡く光る。聖神力を解放して、会場中の貴族や奴隷商人を威嚇した。
これに煽られた、奴隷商人のひとりがレオンにむかって炎の槍をはなつ。レオンはそれを片手で受け止めて、握りつぶした。
「なんだ、こんなもんか。獣人族って大したことないな」
この言葉に獣人族たちの、高いプライドが激しく反応する。自分の種族に誇りを持つ彼らには、耐えがたい侮辱の言葉だった。
会場の中は殺気にあふれて、激昂した貴族たちが次々とレオンたちに襲いかかってきた。
コンサート会場を舞台にした、大乱闘の始まりだ。
レオンに攻撃を仕掛けたのは、ヒョウ種の貴族だ。風魔術で数十個の風の弾丸を放ってくる。
「レオン! これ持ってきたわ!」
エレナが見覚えのある、黒い剣をレオンに投げつけた。それをキャッチした瞬間に、聖神力を流し込む。
「さすがエレナだ! ありがと!」
黒い刃の刀をスルスルと引き抜くと、紫雷がバチバチと漏れでていた。ルージュ・デザライトに来た頃に拾った刀だ。とてもよく馴染むので愛用している。
「黒龍、いくぞ」
刀は淡い紫の光を放って、レオンに応える。意思があるような、不思議な刀だ。
飛んでくる風の弾丸は、黒龍を一振りしてなぎ払う。
間髪入れずに、風の刃がレオンを襲った。翼をはためかせて、一瞬でヒョウ種の貴族の目の前に移動した。
「なっ……!」
左手で貴族の首をガツッとつかみ、聖神力を解放する。
「
死なない程度に加減して、まずは一匹片付けた。
動かなくなったヤツは、床に放置でいいか。混戦状態だし、面倒だけどこの方法でいくしかない。
「次は誰だ?」
三人の貴族が同時に襲いかかってくる。ハゲタカ種の獣人たちだ。両腕を翼に変えて、強烈な蹴り技を繰りだしてくる。
ひとり目の蹴りを受け止め、そのまま勢いを殺さず反対側のハゲタカ種に投げつける。
「ぐわっ!」
「ギャッ!!」
「グヘッッ」
壁に叩きつけられたところで、まとめて『
「ほら、どんどん来いよ。来ないならこっちから行くぞ?」
そう言ってニヤリと笑うレオンに、獣人族たちは本能で身の危険を感じとった。
(こいつは……ヤバい奴だ————!!)
***
「おい! こいつ弱そうだぞ! この女からやろう!!」
少し小柄な悪魔族の少女を取り囲んで、四人のハイエナ種の獣人族たちが攻撃をしかける。
器用に連携をとって息つく暇もないほど、次々と十六本の手足がグレシルに襲いかかってきた。
「こんなの、当たりさえしなければ余裕だし☆」
と言って、全て
「切り裂く
数秒後、身体中を切り裂かれて動けなくなった、四人のハイエナ種が床に転がっていた。
「きゃっ!」
一息ついたグレシルに襲い掛かったのは、サイ種の大男だった。巨体から伸びる太い腕に胴体を掴まれて、宙に持ち上げられる。
両手でギリギリとウエストを締め上げられて、うまく息ができなかった。
「さすがの悪魔族も、この力技には抵抗できんだろう!」
「ぐっ……うぅ!」
グレシルはなんとか魔力を使おうとするが、痛みと苦しさでうまくいかない。
(やば……意識が……)
その時、獣の唸る声が聞こえた。
「ガルル……ガオオォォ!!」
一瞬、その獣の
「躍る
大男は、その衝撃でうしろに吹き飛んだ。グレシルは膝をついて、呼吸を整える。そっと寄り添ったのは、獣化したライルとアシェルだった。
「ライル、アシェル、ありがとう!」
「ガルルル……」
(大丈夫?)
「ガオオォォ!」
(アシェル! 来るぞ!)
大男は、身体ごとライルたちに突っ込んできた。その巨体が勢いをもって、強力な武器になる。大男が突っ込んだあとは、椅子がバラバラに砕けていた。
(当たったらダメージ大きいんだろうけど、これなら……)
(これなら、ボクたちでも余裕で避けられる)
日々の訓練で、アリシアの風魔術のスピードに慣れていたライルたちは、余裕でヒラヒラと避けていた。
あの毎日の訓練は正直ツラかった。そして、手を抜いたのがバレた時のアリシアは、本気で恐ろしかった。よく頑張ったと思う。
「くそっ! あちこち避けるな!! 避けるばかりで、まともに攻撃もできないのかっ!!」
攻撃しようとしていたグレシルに、ライルは視線をむけた。訓練はしていないが、本来の力で使える能力もある。
(ちょっと試してみたい……!)
グレシルは、一瞬考えたあとコクリとうなずいた。どうやら気持ちは伝わったみたいだ。
「ガウッ……グルルル」
(アシェル、ちょっとオレ試してみるな)
そう伝えて、大男の前にでる。身体の中を駆け巡る、熱い炎を感じとった。ライルの口から炎がわずかに漏れでていく。
炎の
「ガオオォォォ!!」
(あっ! ヤバい、やりすぎちゃった!?)
ヒヤリとした、その時、今度は大男の上半身が凍りついた。後ろを振り返れば、アシェルの口から冷気が漏れでている。
「ガウッ、グルル」
(ボクもできたよ! これで大丈夫かな?)
「ひゃー! 二人ともすごいね! この調子で三人でどんどん倒しちゃおう!」
「「ガオオッ!」」
((はーい!!))
三人はサクサク貴族や奴隷商人たちを、倒していった。
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