第3話 カウントダウン開始

「何事だ!? 今の爆発音は——」


 先ほどレオンに有罪の宣告をして、部屋を後にしたばかりだというのに、裁判室から爆発音が聞こえてきた。私は何事かと急いで戻り、勢いよくドアを開けて飛びこむ。


 しかし、目の前にひろがる惨状に言葉がつづかない。


「何があったのだ……まるで、爆破でもされたようではないか……」


 机や椅子はバラバラに吹き飛び、黒焦げになっている。転移魔法を使うように指示をだしていた隊員たちは、四方の壁際かべぎわでうずくまりピクリとも動かない。

 他にも数人の隊員たちのうめき声が、あちこちから聞こえてくる。


 が無傷で、異様なまでに目についた。


「うわっ! 何だこりゃぁ……」


「シュナイク様! 何が、あったんですか……?」


「おい! 隊員が倒れてるぞ! 誰か三番隊の奴らを呼んできてくれ!」


 証言に協力した部下たちが駆け寄ってくる。私がよく面倒を見ている者たちだ。私の命令に忠実に従い任務をこなしてくれる、頼もしい存在だ。


「私が駆けつけた時にはこの状態だ。一体なにがあったのか……」


 回復や補助に特化した三番隊の隊員たちが裁判室にはいると、テキパキとした動きで治療をはじめてゆく。

 邪魔にならないように部屋の隅で治療のようすをみていた。


「誰か意識のあるものはいないか?」

 

 すこし落ち着いたようなので、三番隊の隊員に声をかけてみた。一刻も早く状況を整理したい。

 隊員は眉間にシワをよせて、ぶっきらぼうに答えた。


「……全員、怪我はひどくありません。壁に強く打ちつけられて意識を失っていたようです。あぁ、あちらの隊員なら話ができそうですよ」


「そうか、では引き続き治療をたのむよ」


 三番隊の奴らは躾がなっていないな。あとでフィルレス隊長に抗議せねば。

 彼女が示した先にいる隊員に声をかけた。彼は青ざめた顔で、すこし前の出来事を話しはじめる。


「手枷が……封神ふうしんの手枷が壊れて……。レオンの……聖神力があふれて……。本当に、間に合っ……よかっ……た」


「手枷が壊れた……? 手枷自体に絶対物理防御もかけているのに、そんなはずはないだろう」


「本当……なん、です! ヒビが入って……どんどん壊れて……」


 その状況を思い出したのか、青い顔色からさらに血の気が引いてゆく。もはや死人のように白かった。


「ヒビか……吸いとる聖神力が許容量をこえればあるいは……だが、そんな話など聞いたことがない。もともと不具合があったのではないか?」


「……不具合……? いえ……ちゃんと、確認した……はずです」


「まぁ、大体のことはわかったよ。話が聞けてよかった。正式な報告は後日でかまわないから、君も回復に専念してくれ」


 それだけ告げて裁判室を後にした。補佐官のニコラスも後をついてくる。自分専用の執務室にもどり、張りつけていた穏やかな微笑みをくずす。


 奥歯をぎりぎりと噛みしめて、つよく握った拳を執務机にダンッと叩きつけた。


 なんてことだ……! レオンの奴め、最後まで面倒なことしやがって!


 あんな事したら私に責任が掛かるではないか!! 総帥に毒矢を放って、全権の委任を受けるまではスムーズだったのに!!

 ノエルが動けないあいだに、私がアルブスの総帥になるための実績に水を差しやがって!!


 まったく、レオンは私がアルブスに入隊した時から、めざわりなヤツだったのだ。いつもいつも周りからチヤホヤされて、アルブス最強などと持ち上げられて! 何が最強だ!!

 周りと連携が取れないから、たった一人ではらっていただけではないか!!



 まぁ、総帥やつのお気に入りだったレオンを追い出せたのは計画通りだったが……。

 あまりに上手くいきすぎて、途中で笑いそうになってしまった。俯いてなんとかやり過ごしたが、誰も気づいていなかったな。

 ふん、愚鈍な奴らめ。


 手枷については……おそらく管理がずさんで、劣化したものを使ったのだろう。あれを聖神力で破壊できる人間など聞いたことがない。


 ……そうだな、管理を怠った者に責をおわせるか。

 そうすれば、悪魔を追い出した私の実績に傷がつくことはないな。

 よし、決まりだ————


「ニコラス! タイタラスとバーンズも呼んでくれ。先程の裁判室の件の処理が決まった」


 扉の向こうに待機している補佐官に声をかける。扉をノックした後、「失礼します」とニコラスが入ってきた。


「承知しました、シュナイク様。……先程の内容でよろしいのですか? 正式な報告はまだ——」


「報告など体裁をたもつために受けるだけだ。どうでもよい。。わかるな?」


「あっ! はい! すぐに呼んでまいります」


 何かを察したようで、ニコラスはバタバタと駆け出していった。

 いまいち理解力が欠けているようだが仕方ない。私にとっては命令に忠実な部下が必要なのだ。


 すべてを私の手中に収めるために。




     ***




「ふふ、カウントダウン開始だね」


 この瞬間から、シュナイクの破滅へのカウントダウンがひっそりと始まっていた。指折り数えるのは——輝く金髪に碧眼の天使だった。




 ————カウントダウン、5



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