第17話 裏切られた男

【西暦2060年10月下旬 東京都品川区北品川 二階電脳堂本社ビル 午前11時50分】


「それにしても驚いたな。社長自ら生放送の特番で商品紹介を行うなんて」

「広報係の社員がやる予定だったのに、社長の鶴の一声で急遽変更されたそうだ。

 ……でも、社長の気持ちも解る気がするよ。

 何せ今回発表する新製品のスマートフォンには、社運を賭けているだろうからな」


 二階電脳堂の技術を結集して作られた、全く新しいスマートフォン。

 『N-Pro(エヌプロ)』。

 プロフェッショナルとプロジェクションと言う2つの意味を持つ商品名。

 高性能・高品質・軽量・低価格と言った理想を追い求め、体現するまでに努力を重ねる。

 その新商品発表にテレビ放送を用いるのは珍しい事では無かったが、丸々1つの特番にするのは初めての挑戦だった。

「カメラの位置を調整して、社長が移動してもスムーズに追いかけられる様にしておけ。

 コレは生放送なんだぞ。ヘマをすれば我々が責任を負う事になる」


 皇国の国民ならば知らぬ者はいない『東都Sテレビ』。

 テレビ局の中では最も強い力を持ち、唯一『皇国に所属する国全て』で番組を放送する事が出来る。

 この生放送は台湾・樺太及び北方領土・パラオ・プエルトリコにおいても同時に放送される事が決まっていた。

 プエルトリコに至っては自治権が譲渡される前と言う事もあり交渉が難航したが、何とか話がまとまる。

 そういった記念すべき放送と言う事もあり、国民の殆どがこの特番に注目していた。


「12時から30分時間を取っています。

 スマートフォンでも視聴が可能である為多くの国民がこの番組を目にする事になるでしょう」

「そうだろうな」

 二階堂にかいどう臣人おみとはそう言うと、天井に目を向けそのまま周囲を見渡した。

 (私の言葉によって、この国の未来が変わると思うと不思議な気持ちだ。

 皇国は鳳翔会との全面対決を強いられ、大きな被害を受ける事になる。

 当然、自衛隊側にも組員側にも死傷者が出るだろう。一般市民が巻き添えになる可能性もある。

 しかし、それでも私は娘を奪われた恨みを晴らさずにはいられんのだ)

 

 自分の後継者にさせようとすら考えていた娘の死。

 幼い頃から今に至るまで過保護なまでに愛情を注ぎ、時には叱り、様々な事を教えてきた。

 自分の半身を持っていかれた様な喪失感。

 娘のニューマンを作っても失ったものは補えず、哀しみや怒りが悪戯に増すだけだった。

 何故娘が死ななければならなかったのか。間違いなく彼女はこの会社を牽引する存在になれたのに。

 そして今まであやふやだった物事が、『鳳翔会の幹部組員による殺害』と言う事実によって一気に明るみに出てきたのだ。


 全ては、鳳壮一を窮地に立たせたいと言う復讐心。

 自らを罰しなければならないと言う良心から計画されたものだった。

 (許してくれと言っても、到底許されないだろう。

 私は何の罪も無い高校生の未来を握り潰した。その数は最早数える事など出来ない。

 彼等の無垢な魂と引き換えに私と会社は莫大な利益を得た。

 暴力団と分け前を折半すると言う形で……もうそれも、終わりにしなければならない)

 第三次世界大戦が終わった後でも、領土的野心を剥き出しにしているロシア。

 そんな国を富ませたと言う事実もあった。一時の大金が彼の目を曇らせてしまったのだ。

 臣人は全てを無にして清算する事で、もう一度己の心と向き合いたいと考えていた。


「放送開始1分前です。社長は所定の位置に立ってスタンバイしていてください」

 歴史的瞬間を見届けようと集まった報道陣の数は凄まじいものだった。

 社員達もこの一大イベントを成功させる為に全力を尽くし、後は本番を迎えるだけとなっている。

 そういった群衆の中に、加藤と雲雀の姿もあった。

「及び腰となった政府を本気にさせるには、こうするしか方法が無かった。

 大きくなる脅威は、本当に手に負えなくなる前に叩き潰す必要がある。

 君には、辛い思いをさせてしまったな」

「いえ、私も父には更生してもらいたかったですから。

 二階電脳堂が歪んだまま成長していっても良い事なんて何もありません。

 悪いものは全部無くして、残ったものでまた始めるのが一番良いと思うんです」


 覚醒剤を売り捌いて、その金で製品を売ってさらに儲ける。

 その悪しき循環を食い止める為には、社長自らが暴露するしかない。

 加藤と雲雀の思惑はそれぞれ異なっていたが、進むべき道は同じだった。

「本番5秒前。4、3、2、1……」

 もう引き返せない。加藤に全てを打ち明けた事で、退路は断たれたのだ。

 加藤は生放送中に自白すれば情状酌量の余地ありと見なされるだろうと進言している。

 臣人は自分の罪が減刑されれば、それも少しは会社の為になるだろうと思っていた。


「皆さんこんにちは。二階電脳堂社長の二階堂臣人です。

 本日は、今まで無かった画期的な新製品N-Proを、この場を借りて皆様に御紹介させて頂きたいと思っております」

 朗らかに笑いながら、予め机の上に置かれていたスマートフォンを手に取る臣人。

 机の上には様々な色のスマートフォンが置かれ、カラーバリエーションが豊富である事を視聴者にアピールしていた。

「このN-Proの最大の特徴は、スマートフォンのモニターに映った画面や映像を壁やスクリーンに映し出せると言う点です。

 しかも、30インチ相当の大きさになっても画面や映像がぼやけたりいたしません。

 高精細な画面をオフィスや御自宅で活用する事が御出来になります」


 臣人は背後の白い壁に画面を映し出し、それがどれだけ美しいか視聴者に確認してもらう。

「オフィスにおいてはプレゼンテーションの時に。もう面倒な機材は必要ありません。

 ホワイトボードの前にスマートフォンをセットするだけ。

 自宅でも気軽にホームシアターを楽しむ事が出来ます。

 それを可能にしているのがN-Proの中に入っている極小・軽量マザーボードの『NPX』です」

 臣人はそう言った後、机の上に置かれた小さな薄い板の様な物を手に取る。


「このNPXの軽量化・高性能化によりN-Proは100gと言う驚異の本体重量を実現致しました。

 6インチの画面を最大の明るさにしても10時間連続使用が可能と言う小型バッテリー。

 急速充電により僅か30分で100%充電完了と言う使い勝手の良さ。

 グローバル化を見据え、全ての国の言語に話した言葉を翻訳する機能も付いております」

 臣人は思いついた適当な言葉をスマホに向かって喋り、スワヒリ語に翻訳してもらうと言うパフォーマンスを行った。

「さらに、我々が発売してきたPCからでもUSBケーブルを購入してもらう事によって充電が可能。

 我が社のPCをお持ちの方は、PCの電源をONにしたまま家を出ても安心。

 貴方のPCをN-Proによって遠隔操作する事が可能です。

 PCの電源を操作するだけで無く、PCの画面を映し出す事も可能。

 通常スマートフォンでは楽しむ事が出来ない高スペックを必要とするゲームですらN-Proで楽しむ事が出来ます」


 PCさえ買えばハイスペックなPC用ゲームをスマートフォンで楽しめると言う機能。

 高性能PCに興味の無かった層にPCをアピールしつつ、N-Proを購入してもらうと言う作戦。

 まさに隙の無い完璧な戦略だった。

「N-Proの本体価格は5万円。

 月々2000円でネットを含めた様々なサービスを御利用になれます。

 ですが今回この生放送が終了した後30分以内に御予約頂いた方に限り、本体価格を2万円分値引き致しましょう。

 つまり、予約頂いた方は3万円でこの多機能かつ高スペックなN-Proを購入する事が出来ると言うワケです」

 通信販売番組の様な『お得感』を出す事によって確実に予約を取る作戦。

 これから投下する爆弾の被害を少しでも抑える為、放送中からでも予約可能であると謳っていた。


 30分番組の中で、謝罪に使える時間をどう割くべきか。

 臣人にとっても、そして加藤達にとってもそれは重要な問題だった。

 短過ぎても謝罪にならず、長いと途中でカットされる恐れがある。

 情報が鳳翔会側に漏れる事を恐れ、テレビ局には本当の事を伝えていない。

 他の既存商品を紹介しながら、臣人は適当なタイミングを窺っていた。


「以上で、商品紹介は終わりにさせて頂きます」

 残り時間3分。加藤達警察は数名が何処から暗殺者が動いたとしても対応出来る様動き出す。

 彼を黙らせるのは遠距離から銃弾を放ち息の根を止めるしか方法が無い。

 臣人は窓から狙撃出来ない位置に立っているので、殺すには報道陣に紛れ込むしか無かった。

「最後に、1つだけ大切な話があります。私の『罪』に関するものです」

 臣人がそう喋った瞬間、加藤達に緊張が走る。

 誰かが拳銃を懐から取り出すなら今しか無い。

 そう考え全員が身構えたが、報道陣は『寝耳に水』とも言える告白に戸惑うだけだった。


「私はロシア・鳳翔会と言う暴力団組織と手を組み、ブルーウィンターと言う覚醒剤を皇国に密輸する悪事に手を染めていました。

 我が社が販売しているPCの中にブルーウィンターを隠してこの国に持ち込んだのです」

 報道関係者は呆気に取られ、どうするべきか悩んでいる。

 (カメラを止めるべきか?)

 (馬鹿、驚天動地の大スクープだぞ。皇国を代表する家電会社の不正が明るみに出ようとしているんだ。

 最後までカメラを回し続けろ。今日は徹夜になるだろうから、覚悟しておけ)

 臣人は演技力も一流だった。同情を引く為に顎を引き涙を流さず神妙な表情をする。


「悪魔との取引に私は屈してしまいました。新商品をどんどん作る事が出来る。

 我が社が飛躍する為の元手を得る事が出来る。甘い囁きに耳を貸し、我が社は……

 いえ、私は堕落してしまいました。これは全て私の独断であり、私の責任です」

 このタイミングで彼は目に涙を滲ませ、天を仰ぎながら口をへの字に曲げた。

「ブルーウィンターは人間の脳を一時的に向上させますが、最終的には破壊してしまう薬です。

 男子・女子問わずこの薬はこの国を将来背負っていくであろう若者達に配られました。

 被害者がどれだけいるのか見当もつきません。

 私は近い内に辞任し、早急にこの会社を正しい方向に導いていける後任を探さなければならないと思っております」


 テレビの前の視聴者は、恐らく突然の告白に何が何やらと戸惑いを隠せなかった事だろう。

 しかし二階電脳堂の番組が終わり、それに関連するニュースが急遽放送されるとその『熱』は伝染病の様に広がる。

『暴力団と関係があったって言ってたけど、つまりそれって暴力団も潰さなきゃ問題は解決しないって事だよな?

 会社の社長を辞任、いや会社丸ごと潰れたとしても悪の親玉が存在している限り脅威は無くならないんだからさ』

『しかも、多くの若者にかなりの量の薬物を売りつけるって……それはもう国家転覆に近い所業でしょ。

 暴対法だなんて甘い事を言ってる場合じゃないわ。テロ組織と認定すべきよ』

 国民が真実を知り騒げば、世論もそれに追随しなければならない。

 被害を食い止める為の火消し等と言っている場合では無くなった。最早消せる規模の炎では無いのだ。

 警察の上層部は加藤達のスタンドプレーに憤りを隠せなかったが、悠長に構えてはいられなかった。


「二階堂の告白は、加藤君が仕組んだと言う話が出てきているじゃないか。

 無理やり火を付ける様な真似をしおって。何を考えているんだ奴は。

 もしこれで国民に被害が出る様な事になったら目も当てられんぞ」

 警察の最高権力者であったとしても、この流れを食い止める事が出来ない。

 鳳翔会との『全面対決』に乗り気では無かった彼等であったが、部下達は前向きになるべきだと主張した。

「しかし、コレは寧ろ吉報であると捉えなければ。

 国民の怒りは現政府から鳳翔会へと移り、ニューマンへの批判も有耶無耶になった。

 ココで鳳翔会討伐に自衛隊のニューマンを投入して奴等を鎮圧すれば、ニューマンへの批判など今後一切起こらなくなります。

 皇国の方針としても、今回の全面対決はプラスであると考えるべきです」


「そう単純に考える事が出来れば良かったのだがな。相手も愚かでは無い。

 最終的には東京都をまるごと消滅させる事が出来ると言う核爆弾で我々を脅してくるだろう。

 ニューマンの力で構成員を無力化したとしても、追い詰められた鳳壮一が何をしでかすか解ったものでは無い。

 だからこそ今戦うべきでは無かったのだ。

 奴等の爆弾が何処にあるのかを調べ上げ、組織の中に警察関係者を潜り込ませて無力化する。

 その段階を踏まずに戦いに踏み切る等馬鹿のする事だ」

 警察も核爆弾の情報は掴んでおり、窮鼠が噛んでくる事を危惧していた。


 ロシアは彼等に武器や核を与えて皇国の国民同士での同士討ちを画策している。

 鳳翔会は彼等なりの義憤にかられて動いているのだが、実際はそういった黒幕の操り人形でしかなかった。

「事ここに至っては、国民の声を無視するワケにはいかんだろう。

 ニューマンがどれだけの期間で彼等を制圧出来るかは不明だが、とにかく自宅から一歩も外に出るなと通告すべきだ。

 戦時体制に突入し、外に出た者に命の保証は無いとハッキリ明言しておかなければな。

 すぐにマスコミ各社に対してそういった情報を伝えろ。早急にだ」

「了解致しました」

 警察と自衛隊。そしてこういった国難の為に働く数多くのニューマン。

 腹を括って戦わなければならないのは解っていたが、それと同時に核爆発を防ぐ為の動きも水面下で進行していた。


「私の口から話せる事は全てお話させて頂きます」

 撮影機材が置かれたままになっている本社ビル内では社長への取材が続いていた。

 警察が二階堂臣人を逮捕しなければならないのは当然だが、彼よりもその周囲に気を配らなければならない。

 私服警官が部屋内の報道陣に注意しながら、窓の外からの狙撃にも注意を払っていた。

「彼をこの建物の外から出す時も、最後まで決して気を緩めるな。

 彼は鳳翔会とロシアの関係、密輸の方法やそれに至るまでの経緯、鳳個人との取引等全てを知っている重要人物だ。

 今現在も勿論だが、連行・移送する際も暗殺されぬ様全力を尽くして任務にあたれ」

 加藤はそう言った後、壁によりかかって物思いに耽っている雲雀に近付いた。


「君のお父さんを悪いようにはしない。守り抜いてみせる」

「……本当にコレで良かったんでしょうか。

 国を二分してしまう様な戦いに、罪も無い人々を巻き込んでしまう事になるかもと思うと……」

 雲雀は被害が大きくなる可能性を憂慮していたが、加藤はそこまで過度に心配してはいなかった。

「勿論、人の命が失われる事は避けられないだろう。

 だが……鳳翔会が掲げている『大義』が人々に認められる為には、一般民衆の死があってはならない。

 奴等はあくまで自衛隊と事を構え、自分達の思想を暴力で通したいと考えているハズだ」

 加藤の発言の意味が解らず、困惑する雲雀。

 それは、暴力団にも暴力団なりの正義がある事を示すものだった。


「鉄砲玉使って、二階堂の奴にお灸を据えますか?」

「いや、もう奴の事はどうでもいい。俺達のおかげで甘い汁を吸えていたと言うのに裏切りやがって。

 まさか、自分の利益を全て捨ててまで暴露に走るとは思わなかったぜ」

 警察と同じ様に腹を括らなければならないのは鳳翔会も同じだった。

 自宅でTVを見ていた鳳は、放送終了後すぐに本部の地下施設に移動する。

 この場所は『核シェルター』と『作戦指令室』、さらには『食料貯蔵庫』の役割を兼ねていた。


「いいか、俺達はあくまでこの国の政府のやり方に反対し、組織ごとぶっ潰してそれに代わる事を目指している。

 その為には国民からの信頼を得る事が大事だ。

 ブルーウィンターの影響で俺達への信頼はマイナスになっているかもしれねぇが、上を破壊すれば流れは確実に変わる。

 一般市民を無駄に殺したりするな。

 屋内に踏み込んで震えている奴を殺害しても何の意味も無ぇ」

 鳳翔会の最終目標は皇国の政権を担う事。

 国民をある程度抑えつける必要はあれど、無意味な虐殺を行えば今度は自分達が権力の座から引き摺り下ろされる。

 元々、『皇国のやり方は間違っている』と思っていた鳳にとって、国民から無駄に反感を買うなどあってはならない事だった。


 国家を転覆させる為の必要悪としてブルーウィンターのばら撒きに走った。

 とにかく戦力を集めるには金が必要だった。

 汚れた金でも何でも、ロシアならば受け取り、代わりに軍備を整えさせてくれた。

 全ては、『自分の理想とする国民を守る為の国』を作る為に。

 矛盾を抱えているのは彼自身も解っていた。それでも歩みを止める事は出来なかった。

 理想の為に殉じてくれと言っているに等しかろうと、金が無ければ何も始まらなかったのだ。

 鳳はこの戦争に勝ち、ニューマンを自分達の管理下に置きたいと考えていた。


「ニューマンとまともには戦えませんぜ」

「だからお前達にこれを渡しておく。ニューマンの機能を停止させる為のリモコンだ。

 ただし半径100m以内にいるニューマンにしか効果が無い。

 堂々と購入出来るものでもなかったから数も少ねぇが無いよりはマシだろう」

 ニューマンの製造方法に関する秘匿体制は盤石でも、脇は甘い。

 停止装置を製造しているエヴォリューションから盗むのはそこまで難しくは無かった。

 各地に展開して指揮を執る幹部達にそのリモコンが手渡される。

「馬鹿げた話に聞こえるかもしれねぇが、この戦いはお互い国民に対して配慮する形で行われる。

 奴等が食料品を買って家に溜めておける様に準備期間を設け、その間に俺達も戦える様にしておくんだ。

 つまり、戦闘を始めるタイミングは俺達も自衛隊も変わらないと言う事だな」


 国民に危害を加えないと言う暗黙の了解の下で行われる内乱。

 思わず笑っても不思議では無い内容ではあったが、彼等はあくまで本気だった。

 この戦いは『どちらが強く、どちらに正義があるのか』を示す為のもの。

 そして追い詰められた時は核を使って脅し、滅ぼされない様に交渉を行う。

 いざこういった状況に陥った時にやるべき事は全て把握しており、すぐに動く事が出来た。

 規模や軍勢は少ないかもしれないが、機動力が高くなるのが少数で戦う利点にもなる。

 鳳翔会はこの戦いに勝利し、皇国を丸ごと乗っ取って『正しい政治』を行うと言う夢を追っていた。


「アメリカ合衆国と連合国が共同で開発した攻撃用ドローンと自爆ドローンは既に何時でも出撃させられる準備が整っております。

 ニューマンのスナイパー部隊も待機させておりますので、戦闘自体は我々の勝利に終わるでしょう」

「問題は核爆弾だ。爆弾が新宿区の何処か……地下にある事だけは我々も把握している。

 核恫喝をされれば、我々はそれ以上奴等を攻撃する事が出来なくなるからな。

 一番の重要事項は核恫喝そのものを無効化出来るか否かだ」

 皇国の政治家達も自衛隊の勝利を確信していたが、東京都全域を吹き飛ばす核爆弾の脅威には頭を悩ませていた。

 ニューマンの特殊部隊を現場に送り込もうとはしているが、鳳の『自暴自棄』を止められるかどうかは解らない。

「交渉役になる様なニューマンがいれば良いんですがね……

 なるべく相手を刺激しない姿をした者。つまり自衛隊所属では無いニューマンが好ましいでしょう」

「一般人が所有しているニューマンを利用して相手を油断させると言う作戦か?

 現状、有効な方法が見つからん以上検討してみる価値はありそうだな」


 政府が鳳翔会との全面対決に及び腰であった理由がまさに核恫喝であった。

 東京都を丸ごと破壊されれば、国会議事堂も首相官邸も消滅する。

 政治を担う中枢が無くなれば皇国に敵対している勢力を喜ばせるだけだ。

 腫れ物に触る様な話題であった為、彼等も大きくなっていく鳳翔会を指を咥えて見ている事しか出来なかったのである。

「ベストは勿論、鳳壮一を殺害してスイッチを押させない事ですがベストが常に達成出来るとは限りません。

 最悪の結果だけは防がなければ。その為にも我々は全力を尽くして任務を遂行するつもりです」

「我が国の未来を決める戦いだ。この戦いで鳳が生き残れば政情は極めて不安定な状態になる。

 どんな手を使ってでも鳳の命を奪ってくれ。核の脅威に脅かされている国民の命を救ってほしい」

「はっ」


 誰かの命を救う為に誰かの命を犠牲にする。

 お互いに『殺し合い』と言う環境に身を置かなければならない以上、その矛盾からは逃れられない。

 政府も重い腰を上げなければならなくなった今、物怖じするわけにはいかない。

 争いとはまず国民が望み、政府が決断し、怒涛の如く流れていくものである。

 鳳翔会の排除を望んだ皇国の民達は、『自分達の戦い』に突入しようとしていた。

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