第14話 苦肉の策と蘇る記憶
【西暦2060年9月下旬 日台帛連合皇国 東京都大田区 エボリューション本社ビル内応接室】
お互いに、悩み行き詰っている状態だった。
学校の授業が終了した後、美輪光輝は加藤虎征に連絡を取り本社前にて合流。
美輪彰浩と話をする為の場を整える。
加藤は連続通り魔殺人事件の犯人を捕まえられず定年が迫ってきており余裕が無い。
一方彰浩の方はニューマンに対する世間のバッシングがかなり強まっている状況だった。
「政府も『ニューマン不要論』が人々の間に浸透しつつある事に恐れを抱いている。
ニューマンを民間においても売買して経済を回そうと言うのは今の皇国の基本理念だ。
ココが覆されれば国防に悪影響が出る事は避けられない」
彰浩は総理大臣直々に『事態の解決』を早急に行う様通達されており、失敗すれば自身の首すら危うい。
加藤も数々の殺人事件を解決してきた刑事として、己が関わった最後の事件を未解決のまま終わらせたくは無かった。
「美輪さん、ニューマンが人々の役に立ち社会に貢献する存在である事を強くアピールするべきです。
連続通り魔殺人事件を解決する事が、ニューマンに名誉挽回のチャンスを与えてくれる。
ニューマンによる凶悪犯の私人逮捕。それを成功させる為にも、彼女の復活が必要不可欠なのですよ」
連続通り魔殺人事件の被害者の中で唯一2箇所の刺し傷があり、犯人の顔を見た可能性がある女性。
警察は彼女の脳スキャンデータと身体データをどちらも入手しており、彼女を蘇らせる事が出来る。
問題は、彼女の両親に全く許可を取らぬまま彼女を復活させようとしている事。
それと、ニューマン1体を製造するのに必要な1億円を用意出来ないと言う事だった。
「……遠藤沙奈の両親は、自分達の娘をニューマンとして復活させる事にあまり乗り気ではありません。
彼等に黙って彼女をニューマンとして蘇らせた事が露見すれば、問題になる事は間違いない。
そこは、私が全責任を負いましょう。どうせもうすぐ刑事では無くなる身ですからね」
沙奈を無断で復活させれば、道義的な問題のみならず民事訴訟に発展する可能性もある。
マスコミも騒ぎ立て、警察の信用が低下してしまう可能性も高い。
そのリスクを背負ってでも、加藤は連続通り魔殺人事件を解決したかった。
正攻法で調べても犯人の手掛かり・痕跡が殆ど発見出来ず、捜査本部も頭を悩ませている。
遺留品の1つである『ブルーウィンター』も、犯人を確定させる程の証拠品にはならなかった。
「私が全ての罪を被れば良い。問題は、ニューマンを購入する為の資金です。
一介の刑事に過ぎない私が1億円を用意するのはかなり無理がある話でして……
私の持ち家を売り払っても、用意出来るのは1000万円が限界でしょう。
何とかそれで手を打ってもらえないでしょうか」
加藤はずっと独身で通してきた為家を失ったとしても周りに迷惑をかける様な事にはならない。
ただ、1億円を捻出する事は出来ないと繰り返し彰浩に説明した。
「父さん、今ニューマンの立場が危ぶまれているんだ。
のんびり迷っている暇は無い。早く動かないと取り返しのつかない事になるよ」
「だが、私が1000万円でニューマンの製造に応じたと言う前例が生まれるのは非常に不味い。
1000万円でも作れるのだと誤解され、顧客が1億円を払ってくれなくなる。
私は金の亡者では無い。今の技術力でニューマンを作ろうとすればそれ程の値段がかかってしまうのだ。
1000万円では電子頭脳を作る所までで止まってしまう」
「ニューマンがこれから一般客に売れなくなるかもしれないと言う時に妥協すら許さないと言うのはあんまりです。
私達既存のニューマンも敵視され、最悪廃棄処分に追い込まれるかもしれない。
それは貴方が一番解っている事じゃないんですか?」
必死に光輝や凛が説得しても、彰浩はなかなか首を縦には振らなかった。
黙って秘密裏にニューマンを作る事は百歩譲って良しとしても、値切りは許されない。
一括現金払いを徹底している以上、そのルールが破られ規則そのものが形骸化する事を彰浩は恐れていた。
「家を売るのでは無く、家を担保にして1億円を消費者金融から借りると言うのは?」
「闇金位で無いと1億円は借りれません。東京都一帯の闇金は鳳翔会の管理下にあります。
私が刑事であると解れば警察内の情報を提供しろと脅されるでしょう」
「ともかく、現金で1億円をこの場で用意出来なければニューマンを製造する事は出来ません。
公で作るにしても、秘密裏に作るにしてもです。
資金調達が出来ないと言うのであれば、お引き取り願いたい」
「父さん!!幾ら何でも頭が固過ぎるだろう。
父さんが置かれている状況を考えてくれ。
このまま事態が好転しなければニューマンの販売そのものが不可能になってしまう」
彰浩はルールを破る事を極度に恐れるタイプの人間だった。
ひたすら真面目に生きてきたが、逆を言えばそれは社会の規則からはみ出る事に不安を感じると言う事でもある。
政府が決めた価格設定を自ら覆す事は、厳格に生きてきた自分を否定する事だと彼は考えていた。
「ニューマンを1000万円では作れない。
そこを覆せないと言うのなら、1000万円で作れるものは無いんですか?」
光輝に同行し、応接室の壁によりかかって話を聞いていた凛Ⅱが唐突にそんな言葉を投げかける。
光輝は振り返り、それはどういう意味なのかと尋ねた。
「1000万円で作れるもの?」
「1000万円で電子頭脳が作れる。後は器となる本体ですよね。
それを簡略化すれば予算が削れるでしょう。上半身だけとか、最悪首だけとか。
ニューマンを作ろうとするから1億円かかる。違いますか?」
凛Ⅱにそう言われた彰浩は、暫くの間顎に手を当てて考え込んでいたが僅かに顔を上げる。
「いや、上半身でも頭でも予算オーバーだ。1000万円で電子頭脳のみだからな……」
「それなら、その電子頭脳をパソコンの様な機械に接続して受け答え出来る様にすると言うのはどうでしょう。
器が大幅に安くなります。1000万円に数十万円足すだけで済むと思いますけど」
つまり、耳と口の機能だけ備えていれば証言が出来る。
証言する事だけに特化した構造であれば安く出来るだろうと言っているのだ。
「確かにそれなら作れるが……」
彰浩はまだそういったものを作る事を躊躇っていた。
それはニューマンを芸術品の様に作り上げてきた男としてのプライドの問題である。
彰浩は多くの機能を取り払い、簡略化した低性能の『ニューマンもどき』を作る事に対してかなりの抵抗があった。
職人として妥協せずに物を作り続けてきた自分が、金が用意出来ない顧客の為に劣化品を作らなければならないとは……
そう考えていた彰浩であったが、光輝の『決意』が彼の心を動かした。
「父さん、俺が父さんの後を継いで『未完成品』を必ず完成させてみせるよ。
勉強して技術も獲得して、エヴォリューションで働ける人間になる。
だから父さんは何も気にせず、加藤さんの力になってほしい」
「光輝……」
息子が、自分の後を継ぎニューマンを製造する技術者になると宣言した。
父親が決めた道を歩む事に抵抗していた光輝がニューマンを守る為に腹を括ったのだ。
自分の息子が強い決意で臨もうとしている時に、父親が無様な姿を見せるワケにはいかない。
「解った。ニューマンとは呼べない『未完成品』を作ろう。
ただ、予算はどうしても1000万円ではオーバーしてしまう。
1100万円ならば何とかなるだろう」
「1100万ですか。それなら、知人に頭を下げてでも何とか用意しましょう。
私はこの事件の解決に心血を注いでいるんです。
この9月にもまた被害者が出た。奴は警察を嘲笑うかの様に犯行を重ねている。
これ以上の凶行が続けば、女子高生が外出する事すら困難になってしまうでしょう」
連続通り魔殺人事件の恐ろしい所は、襲われる場所も時間もバラバラであると言う事だった。
少し人気の無い路地を歩いているだけで、昼でも夜でも女生徒が胸を刺されてしまう。
警察が犯人を逮捕出来ていない現状に対し、危険を殊更に煽る者や警察を批判する者も増えていた。
警察もまたエヴォリューションと同じ様に、この事件によって苦境に立たされていたのだ。
この事件を解決する事が苦境を打破する唯一の方法。
加藤はそう思っていたからこそ、己の財産を差し出してでも事件解決に全てを賭けていた。
「後は、証言者となってくれるであろう沙奈さんがどれだけの事を知っているかよね」
「祈るしか無い。俺達は加藤さんと共に一縷の望みに縋っているんだ。
彼女から犯人に直接結び付く様な手がかりが聞き出せなかったら、全て終わりだよ」
同じ目的の為に乗った船が途中で座礁すれば、ただ無残にも沈んでいくだけだ。
警察やニューマンへの非難は強まり、既存の権力への不満が爆発する。
さらに炎上させようと薪をくべているであろう鳳翔会の動きも大きな影響をおよぼしていた。
「後は全て、美輪さんにお任せします。どうか1100万で『証言者』を生み出してください」
「解りました。私も技術者としての自負があります。
やると決めたからには最後までやり遂げますよ。息子も『大人』になってくれましたし」
彰浩にとって最も嬉しかったのは、息子が自分の後を継いでニューマンを作る技術者になるのが確定した事だった。
経験や技術が誰かに引き継がれなければ、彼がやってきた事が無駄になってしまう。
息子が継がなければ何処かから優秀な人材を引っ張ってこなければならなかったが、本音では血の繋がった者に継いでもらいたかったのだ。
「光輝。私が作った『紛い物』をお前が『本物』に仕上げる事が出来れば、それがお前が技術者としてやっていける証拠となる。
それが可能となる様に、私も出来る限り協力しよう。エヴォリューションの所長に就任出来る様頑張ってくれ」
父親の期待や、父親の後を継ぐ事で手に入るであろう大金の事も光輝にはどうでも良かった。
目の前にいる凛Ⅱが自分の前から消えてしまったらそれに耐えられる自信が無い。
最初は所詮ロボットだと心の中で馬鹿にしていた部分もあったが、今は違う。
人々から愚かだと罵られようとも、自分は機械に恋しているのだ。
自分に出来る事ならどんな事でもして、彼女を救わなければ。
光輝がそう思うのと同じ位、凛Ⅱも彼の役に立ちたいと考えていた。
遠藤沙奈の『ニューマンもどき』の製造は、彰浩以外の技術者が一切関わらない秘密裏での作業となった。
誰かから情報が洩れれば、沙奈の両親が製造中止を求めて怒鳴り込んでくるだろう。
沙奈の証言には『ブルーウィンター』の情報が手に入ると言う期待があった為、暴力団に露見するのも危険である。
その為、作業は1日の工程が終了し自分の時間が取れる時間帯に行われる事となった。
完成するまでは、加藤がエヴォリューションに訪ねてくるのも禁止。
この企てに関与している美輪光輝と凛Ⅱ、清川凛も人にこの計画を喋らないと言うルールが徹底される。
特に光輝と凛はそわそわしている態度をクラスメイトに見せない様気を付けなければならなかった。
(100万円のパソコンに1000万円分の電子頭脳を搭載して、喋れる機能だけ付加する。
正直、これが限界だ。彼女は動く事も、物を見る事も出来ない。
暗闇の中でただ意識を持っているだけ。
こんな出来損ないを作るのは気が引けるが、光輝が私の後を継ぐと言うのだからやらねばなるまい)
歩くどころか、動く事すら出来ず、声を発する事しか出来ない存在。
物を物として見ている彰浩でも、虐待の様だと感じられるものだった。
人間は闇の中に何十時間もいると気が狂うと言う。
このニューマンもどきは絶望しても、狂う事すら出来ないのだ。
光輝がニューマンとして作り直すまで、彰浩は彼女を長い眠りにつかせようと考えていた。
「完成しましたか」
「ニューマンより作る手間はかかりませんからね。
ただ、自由時間に作る事しか出来なかったのでそこで時間がかかってしまいました」
彰浩が『ニューマンもどき』を作り始めてから1週間後、遂にそれは完成した。
証言を行う為だけの機械。
遠藤沙奈の記憶と人格を持ち、聴力しか存在しない為会話する事しか出来ない。
それでも加藤にとっては、彼女の記憶を聞き出すのは人生を賭けた博打であった。
1100万円の金を払って、得れるのは犯人を捕まえたと言う達成感のみ。
去り行く老兵である加藤に、昇進や昇給の機会は訪れない。
当然、有効な話を何も聞き出せず空振りに終わってしまう可能性だってある。
近くにいた光輝と凛Ⅱも、彼女が重要な情報を知っている事を信じて祈っていた。
(これが空振りに終わってしまったら、短期間でニューマンの株を上げる事柄は他に無い。
既にニューマンバッシングは政府も困る所まで進んできている。
何かを変える一手が無ければこのまま皇国は波に飲み込まれていくだけだ)
彼等が遠巻きに見つめる中、彰浩は『ニューマンもどきPC』の電源を入れた。
「頼むぞ」
「任せてください。私もこの道30年のベテランです。
完璧な似顔絵を仕上げてみせますよ」
加藤の隣には、似顔絵を担当する刑事が椅子に座って待機していた。
証人から顔の特徴を聞いて似顔絵を描くのも警察官の仕事の1つである。
いわゆる『似顔絵師』を担当している警察官が署内におり、彼等が描いた似顔絵をもとに犯人を炙り出す。
似顔絵は江戸時代から続く捜査の基本とも呼べる代物だった。
蛍光灯の明かりに照らされた室内で、異彩を放つPC。
2060年にもなるとモニターは超薄型、本体は外付けハードディスク程度の大きさで済むがこのPCはまるで旧式の様に見える。
モニターと本体が一体となった、立方体に近い形をしたかなり大きめのPCだ。
電源を入れた後画面が真っ白になり、外側に設置されたスピーカーから声が聞こえてくる。
『……ココは何処?真っ暗で何も見えない。私は死んだの?それとも生きているの?
誰か、私の呼びかけに答えて!凄く怖い』
確かに残酷だと光輝は思った。
彼女は自分が人間として蘇ったのではないかと考えている。
目が見えず、身体を動かす事も出来ず、狼狽するしかない。
全身不随の状態で、病院のベッドの上にいると想像している可能性もあった。
「最初に断っておくと、君は既に死んでいる。
君は遠藤沙奈の記憶と人格を完璧にコピーしたパソコンだ。
いずれココにいる美輪光輝君が君をニューマンに作り直してくれるだろうが、今は我慢してほしい」
このPCは側面に取り付けられているスピーカーで人の声を聞き取り、返答する事が出来る。
表情も解らない為彼女の心境を把握するのは難しかったが、震えた声からは怯えが感じられた。
『貴方は?』
「私は警察の者だ。加藤と言う名字だけ覚えてくれればそれで良い。
君は連続通り魔殺人事件の被害者の1人であり、犯人の顔を目撃した可能性がある。
犯人逮捕に繋がる重要な証言が君から聞き出せると思っているんだ。
君が見た事を全て私に教えてほしい。君だって犯人の事が憎いだろう」
遠藤沙奈は加藤に言われるまま、証言と『自供』を行った。
怪しげな男からブルーウィンターを購入し、テストの度に『ドーピング』を繰り返していた事。
頭痛と吐き気に悩まされる様になった頃、白昼堂々通り魔にナイフで刺された事。
騙していた両親への謝罪を挟みながら、彼女は語り続ける。
彼女がニューマンであったなら、恐らく涙を流していただろうと思われた。
「出来ました。上手く描けたと思います」
証言をもとに作成された犯人の似顔絵。
それを見た時、加藤はこの顔を何処かで目撃している様な気がした。
(こいつと、何処かで会った事がある。思い出せ……
確か通り魔事件が発生する前に、俺が歌舞伎町を巡回している事があった。
その時に会ってちょっとした世間話をしたんだ。
相手は俺が警察関係者であると気付いていた様だからな)
少し長く逆立っている髪。側面は短く刈ってある。
鋭い目つき、かなり大きな鼻、厚ぼったい唇。
額や頬にはぶつぶつが目立ち、端的に言えば蛙の様な風貌をしていた。
「クソッ、駄目だ。誰だか解らん。
ただハッキリしている事があるとすれば、恐らく何処かの組関係の人間だ。
鳳翔会に関わっている人物である可能性が極めて高い。
本部に戻って、鳳翔会に所属している組員の中にこの顔の男がいないかどうか調べる様伝えてくれ」
「了解しました」
似顔絵を描いた警察官はその場から立ち去り、加藤は引き続き事情聴取を続ける。
その後多くのやり取りこそあったが、結局ブルーウィンターを渡した男に関する情報は曖昧だった。
『ごめんなさい。
眼鏡をかけていて、スーツを着ていた事は覚えているんですけど正確な顔は覚えていなくて……
名刺を渡されたんですけど、そこに書かれていた名前も忘れてしまいました』
本人が人間だった頃に忘却した記憶は、電子頭脳の記憶力でも容易には取り戻せない。
特に彼女の場合、記憶の一部が薬の副作用によって失われていると言う事情もあった。
「いや、連続通り魔事件の犯人の顔を見ていて私達に教えてくれただけでも大きな収穫だ。
ブルーウィンターも未成年を対象にして売り捌かれていると言う実態が判明した。
恐らくこの覚醒剤の販売にも鳳翔会が関わっているだろう。これも放置してはおけない」
高校生に対して鳳翔会が薬物をばらまいていると言う事実だけでも、警察が組を潰せるきっかけになりうる。
問題は、これら全ての情報が女子高生の『証言』でしか無いと言う事だった。
「これからどうなさるんです?」
「ブルーウィンターがこれだけ大量にばらまかれていると言う事は、当然何処かから運ばれてきたのだろう。
飛行機か船か。その動きを押さえて、組事務所に大量のブルーウィンターがあれば奴等をまとめて捕まえる事が出来る。
連続通り魔の方は、確たる証拠が何も無いのだから現行犯逮捕するしか無い。
君達の力を借りるのが一番安全だし、ニューマンの失われた信用を回復する事も可能だと思うんだが」
加藤は凛Ⅱの方を見ながらそう言い、彼女も決意に満ちた表情で頷いた。
「私なら、刃物で刺されようが殴られようが平気です。
私と凛が囮になって犯人を誘い出し、私達が狙われる様に仕向けます」
光輝は不安げな顔をしていたが、彰浩は心配している息子に声をかける。
「ニューマンは外皮が人間と同じ様な感触であるだけで、中身は非常に頑丈に出来ている。
耐久テストとして、マシンガンの弾を受けたり刃物で貫こうとしてみたりトラックに衝突させたりするが全て耐えるのだ。
手榴弾や地雷の爆発にも耐える。そうでなければ、ニューマンを軍事利用する事など出来んからな」
ニューマンは既に国家の防衛を目的として大量に作られており、基地ではそういったニューマンが24時間体制で見回りを続けている。
彰浩にとっては単なるニューマンのテストに過ぎなかったが、光輝はそれでも不安を拭う事が出来なかった。
「凛Ⅱ。雲雀さんにも協力してもらおう。
彼女だって民間のニューマンが破棄されるかもしれないと言う状況に怯えているハズだ。
囮が3人になれば、1人あたりの負担も軽減されると思う」
凛Ⅱは二階堂雲雀との交流を続けており、彼女もまたニューマンバッシングに対して不安を抱えている者の1人だった。
「コウ君、雲雀さんだったらきっと快く引き受けてくれると思うわ。
私と彼女と凛で、犯人が私達を襲う様に誘導すれば、私人逮捕出来るんですよね」
「ああ。現行犯においては私人逮捕が認められている。ニューマンでもそれは変わらない。
まずはこの顔の男が何者なのかハッキリさせ、行動パターンを把握する所から始めなければ」
進むべき方向は決まった。
失敗は許されない。自分達の行動や選択が、ニューマンの未来をも左右する。
凛Ⅱは己の肩に重責がのしかかっている事を感じて緊張していたが、加藤は微笑みその緊張を解こうと努力した。
「自然体でいればいいんだ。我々が手伝える事は全て引き受ける。
民間人に動いてもらうと言うのは私もあまり褒められたものでは無いと思うが、君達はとても頑丈だからね」
この作戦は、ニューマンが犯人を逮捕しなければ成立しない。
警察もニューマンバッシングには否定的な立場で、殺人事件の捜査等においてもニューマンを使用したがっていた。
「犯人を捕まえば、本物の『清川凛』の仇を取る事にもなる。
そして、ニューマンの未来を守る事に繋がっていくと言うのなら、怯んでなんかいられないわ」
凛Ⅱの決意に、光輝はもう何も言うべきでは無いと考えじっと彼女を見つめる。
(俺は凛Ⅱの所持者だけれど、凛Ⅱの意志は尊重してやりたい。
彼女は自分と、多くのニューマンを守ろうとしているんだ。だから……)
加藤も何か言いかけたが、電話がかかってきた為スマートフォンを耳に当て対応する。
「そうか。やはり該当者がいたか。御苦労だった。
俺が戻る前にそいつの顔写真を用意しておいてくれ」
似顔絵が得意な警官が、鳳翔会及び関連する組に所属する組員をリストから調べていたのだ。
そして特徴が一致する人物が発見された。
当然、これからは犯人の有力候補であるその人物を監視していく事になる。
「遠藤沙奈の証言をもとに作成された似顔絵と、顔が酷似している人物が見つかった。
鳳翔会の下部組織にあたる神原組の若頭、
まずは我々が黒田の動きを調べ、連続通り魔殺人事件の犯人としての動向を見せるのか確認したい」
半年以上も尻尾を掴ませなかった犯人に、遂に辿り着いた。
亡くなった被害者の証言と言う法廷では通用するかも解らない証拠。
この証拠を確かなものにする為には、監視を続けて別の証拠を掴む以外には無い。
勿論、それは『女性に襲い掛かる』と言う実力行使の瞬間を作り出す事である。
「きっと上手くいくわ」
凛Ⅱは作戦の成功を疑わず、加藤もまた犯人逮捕にこぎつけると思っていた。
それが人々に大きな脅威をもたらす巨大な『地雷』である事に、彼等はまだ気付いていない。
ニューマンが皇国の為に戦う『Xデー』が、人々の知らぬ間に近付きつつあった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます