第13話 火をつける者達

【西暦2060年9月中旬 日台帛連合皇国 東京都港区台場 テレビ局スタジオ内】


 伊藤洋太が起こした『殺人事件』は連日ニュースで取り上げられ、大問題となっていた。

 それは『連続通り魔殺人事件』が霞んでしまう程である。

 何故問題となったのか。

 それは『殺人を犯しても裁く事が出来ない』と言う壁にぶち当たったからだ。

 通り魔は捕まりすれば間違いなく法の力で裁く事が出来る。

 だが今回の事件は『証拠が無い』と言う事実によってその犯行は立証不可能となっており、波紋を呼んだ。

 ニューマンが人々に危害を加えるかもしれないと言う恐怖。

 煽りやデマもネット上にばらまかれ、世間は大騒ぎになっていた。


『少年Aがニューマンの力を借りて4人もの同級生を殺害した。

 そういう疑惑がある事が問題となっていますが福島さんはどうお考えですか?』

 昼のニュース番組もこの事件一色となり、ニュース番組に福島と美輪がゲストとして招かれている。

 いじめ問題を取り扱う『学校安全推進委員会』のトップも椅子に座っていた。

『私個人といたしましては、由々しき事態であると認識しております。

 警察としても少年Aの犯罪を立証する事が出来なかったのは痛恨の極みですが、それは彼がニューマンだったからです。

 ニューマンは当然、人間離れした力を持っている。

 つまり、従来の犯罪捜査では想像も出来ない殺害方法を用いてくると言う事です』


 福島は伊藤の素性を明かす様な事はしなかったが、それ以外ではとことん彼の罪を糾弾するつもりだった。

 そこまで彼が躍起になる理由はただ1つ。模倣犯が続出する事を防ぐ為である。

 この事件を知って『この方法ならば確実に罪に問われる事無く人を殺せる』と考える人間が出れば社会は崩壊してしまう。

 やった者勝ちの犯罪など決して許してはならない。

 伊藤洋太のニューマンを野放しにしている今、大切なのは『次』を絶対に防ぐ事だけだった。


『ニューマンは人間並みの優れた知能と、人間を超越した怪力で人を殺せる。

 さらには、物的証拠を残さない『完全犯罪』をも成し遂げる事が出来る。

 こんな事がまかり通る様になれば、皇国の未来は危ういとしか言いようがありません。

 ニューマンの販売に関しても、私は大幅に見直すべきだと考えます』

 皇国が推奨しているニューマンの製造に対して、堂々と『NO』を突き付ける福島。

 民主主義が主流となっている皇国において、国民を味方につければ必ず風向きが変わると信じていた。


『美輪さん、やはりニューマンは危険な存在なのでしょうか?

 国民からは『ニューマンが認められていては怖くて外も歩けない』と言う声もあがっている様ですが』

 ニュースキャスターが美輪彰浩に話を振る。

 美輪は福島の方を一瞥した後、くだらないと言わんばかりに欠伸をした。

『福島さん、隠し事をして持論を展開すると言うのはあまりにも卑怯ではありませんか?

 今回、ニューマンの罪を暴く事が出来なかったのは明らかに警察の初動捜査に問題があったからです。

 私の息子に疑いの目を向け、随分と高圧的な態度で接したそうですね。

 疑うべきものを見誤るから、真犯人に証拠隠滅の時間を与えてしまったんでしょう』


 討論と言うより、誹謗中傷合戦の様相を呈してきたニュース番組。

 だが昼のワイドショーの時間帯に行われている番組はこういった展開の方が視聴率は上がる。

 ニュースキャスターも制作スタッフも、この流れを止めるつもりは無かった。

『それは、疑うだけの要素があったからです。

 傍らにニューマン。アリバイ無し。目撃者無し。

 この状況で疑うなと言う方が不自然でしょう。

 そもそも、貴方が少年Aのニューマンを作りさえしなければこんな事にはなっていないんです。

 この事件を未然に防ぐ事が出来たのは、エヴォリューションだけだったのでは?』


 エヴォリューションの責任を問う。

 それも福島がこのニュース番組に出演する事を決めた理由の1つだった。

 エヴォリューションが危険な会社である事をアピールし、国民の感情を煽る。

 世間が『ニューマン製造反対』の気持ちに傾けば、こういった犯罪は無くなると福島は考えていた。


『我々だって、対策を講じています。

 そもそもエヴォリューションは金さえ積めば誰のニューマンでも作る等と言う事はしていません。

 犯罪歴・家族関係・本人の思想。

 客の要望を受けてからこれらを全て調べてもらい、問題が無いと判断してから製造を開始するのです。

 今回はその全ての調査を少年Aがかいくぐった。

 勿論、彼が殺人事件の犯人であると言う仮定が真実であった場合ですが。

 学校側がいじめの事実を全く認識しておらず、周囲もいじめを把握していない。

 これでは調査をしても彼の心の闇を暴く事は出来ないでしょう。

 我々は超能力者では無い。人の心まで見抜く事は到底無理なのです』


 ヒートアップしている両者に割って入る形で、学校安全推進委員会の会長が口を挟む。

『単なる殺人事件としてでは無く、いじめの果てに起こったものだと言う事を忘れてはいけません。

 人の心は他人には見抜けない。それはその通りです。

 ですから我々はそれを見抜く努力をしていじめ被害者の心に寄り添い続けなければならない。

 少年Aは単なる暴行では無く、性的暴行を受けていたと言う事実も報じられている様ですがそれは事実ですか?』

 彼の発言に対して、福島は目を逸らしながら答える。

『確かに、少年Aが加害者4名から性的暴行を受けていた疑いがあるのは事実です。

 ですが、殺人自体が許される事では無いと言うのもまた事実でして……』


『貴方は少年Aが殺人事件を起こしたと言う『事実』のみを大きく取り上げている。

 それはあまりにも卑怯なのではありませんか?

 通り魔が人を刺し殺すのと、ずっと虐げられていた人間が我慢出来ずに反撃した。

 殺人の事実は同じなれど、その心情に違いがあるのは明白です。

 福島さん、ニューマンが殺人事件を起こしたと言う部分だけを取り上げてニューマンを非難するのはフェアではありません。

 私には少なくとも少年Aに対して情状酌量の余地があると考えます』


 会長の発言に福島も反論を行う事が出来ず、押し黙ってしまう。

 伊藤は加害者に蹂躙され続けていた。それに我慢出来ず暴発してしまった。

 こういった論調になっていくのは福島にとって都合が悪い。

 福島にしてみれば『殺人事件が増えるのを防ぐ』と言う意味でアンフェアな意見を出したのであり、彼も悪では無い。

 手段を選ばずに治安を守ろうとしているだけであり、彼も間違っているとは言い難かった。


『広瀬さん、少年Aに情状酌量の余地があると言うのは間違いの無い事だと思います。

 ただ、我々皇国の国民としては『危険』を未然に防ぎたいと言う思いがあるのです。

 この事件の善悪はそれ程関係ありません。

 国民が知りたいのは『今後この様な事件が起こらない様にする』と言う一点だけではないでしょうか』


 ニュースキャスターは公平な立場を装いながら、番組の視聴率を上げる為火に油を注ぎ続ける。

 あくまで争点は『やったもの勝ちの完全犯罪を今後防げるのか』

 そして『防げないのであればやはりニューマンは危険なのではないか』と言う点なのだと強調した。

 キャスターはそう言った後、再び美輪に意見を求める。


『エヴォリューションは様々な取り組みをされていますが、こういった犯罪に対する対策は用意されているのでしょうか?

 犯罪を犯しても証拠が無く無罪になる。もし模倣犯が現れた場合、全力で防ぐ必要があると思いますが』

『電子頭脳に記憶を移植する際、中身を閲覧する事は出来ないのか?

 それが出来れば問題無いじゃないかと言う声も上がっている様ですが、それは不可能です。

 人間の脳細胞は電気信号によって記憶のやり取りがなされており、そういった構造を再現する事は出来る様になりました。

 しかし記憶の一部を映像化する等の行為は今の所無理であると言うのが現状です。

 結論としましては、エヴォリューションは現行の体制でやっていくしか無い。

 我々の調査までもすり抜けてくる相手に関しては手出し出来ないのですよ』


『何を言っているんですか。未成年への販売を禁止。

 クラウドファンディングで集めた資金によるニューマン購入の拒否。

 出来る事は沢山ある。それをしないで『対策は無理』と言うのは犯罪を助長する行為に他ならない』

 福島は美輪に嚙みついたが、彼はその提案を一蹴した。

『福島さん、それをしたらどうなります?

 今まで当たり前の様に出来ていた事を突然止めると言うのは自由の阻害になってしまいます。

 未成年に販売する事は犯罪ですか?

 クラウドファンディングで集めた資金でニューマンを購入するのは犯罪ですか?

 我々はディストピアで生活しているワケでは無い。

 自由と平和を愛する皇国で生きているのですよ。

 勿論、こういった事を国民投票で議論する余地はあるでしょう。

 それでも私は、『禁止賛成』とする国民の声は少ないと思いますがね』


 スタジオ内が一瞬静まり返る。

 美輪の言っている事が間違っていない事を全員が理解していたからだ。

 1つの物事を禁止すれば、芋蔓式にどんどんやれる事が狭まっていく。

 じゃああれも駄目、これも駄目と言う事になれば国民の自由が奪われる事にも繋がりかねない。

 国民も愚かでは無い。禁止に反対する勢力は確実に増えるだろう。

 だからと言ってニューマンを野放しにしていいのか?と言う問題に立ち返るのだった。


『むしろ、事件の再発を防ぐのであればいじめの根絶を目標にするべきでしょう。

 校内の自由と言う観点で設置を見送っていた監視カメラを設置する。

 いじめを隠れて行えない様にする方が優先です。

 特に加害者が少年Aを連れ出していたと言う屋上にカメラを付けるのは全国的に実施すべきでしょう。

 それだけでいじめが減ります。いじめが減ればこういった事件も起こらなくなる』


『その形でいじめを根絶するのは難しいでしょう。

 場所がトイレになればカメラの設置は極めて難しい。

 学校の外で暴力が行われればそれまでです。

 私は今回の事件によって、そういったいじめ加害者の横暴を阻む『抑止力』が生まれたと思っているんですがね』

 美輪はワザと話を大袈裟にする事で、本質から人々の目を逸らそうとする。

 だがニュースキャスターも視聴率が取れるならと彼の話に皆が耳を傾ける様に誘導した。


『抑止力とはどういう意味でしょうか?

 まさか殺人事件がいじめ問題の解決に繋がるとでも……』

『いえ、まさにその通りですよ。殺人は許される事では無い。

 それは全ての国民の共通認識です。では何故いじめは根絶出来ないのか。

 いじめは『許される事では無い』とされながら黙認されている。

 周囲の生徒も教師も見て見ぬ振り。そして被害者を虐める事に対して何のリスクも無い。

 無抵抗な相手を殴れるのならば粗暴な人間は皆そうするでしょう。

 いじめがこの世から無くならないのは、戦争がこの世界から無くならないのと同じ理由です』


 美輪はそう言った後周囲にいる者達の顔を見回し、にこやかに笑ってみせる。

『では、いじめ問題に関して何らかの抑止力が登場したのならばどうなるでしょうか。

 今回、少年Aが引き起こした疑惑がある殺人事件は、ニューマンの購入に抜け道がある事を証明しました。

 勿論これからいじめる側もクラウドファンディングやいじめ被害者がニューマンに入れ替わっているかどうか等対抗策を練るでしょう。

 それでも完全にこの戦い方を阻止するのは難しい。

 ニューマンがいじめ加害者である自分を殺しに来るかもと考えた人間がいじめを続けるものでしょうか?』


 ニュースキャスターは返答に困り、咄嗟に福島の方に視線を向けた。

 福島は納得出来ないと言った表情で、美輪の考えに対して反論する。

『殺人を抑止力にする等あってはならない事です。

 江戸時代に仇討ちは認められていましたが、この現代社会において復讐が合法化されればとんでもない事になる。

 社会の乱れは国の乱れに繋がるのですぞ!?』

『福島さん、いじめっ子の心の片隅に『復讐されるかも』と言う気持ちが生まれればそれで良いのです。

 確かに今回4人もの高校生が死ぬ痛ましい事件が起こりましたが、だからこそ彼等の死を無駄にするべきではありません。

 いじめと言うのはストッパーの壊れた暴走する機械です。

 自分が殴ろうが蹴ろうが反撃が来ないと思っているから平気で人に暴力を振るう事が出来る。

 今、『命を奪われるかもしれない』と言う事件が起こった。

 これからいじめ事件は確実に減っていくでしょう。少年Aの裏技を禁止しない限りはね』


 一見筋は通っている様に見えるが、結局殺人を容認または肯定するのと同じではないか。

 福島はそう言おうとしたが、その前に学校安全推進委員会の会長が口を開いた。

『私は美輪さんの意見に賛同します』

 福島も唖然として言葉が出なくなり、ニュースキャスターも呆然としている。


『私は今まで、数多くの恐ろしいいじめ問題と向き合ってきました。

 彫刻刀で背中をズタズタに引き裂く。

 弁当の中に大量のゴキブリを混入させ無理やり食べさせる。

 凍った湖の中に穴を開け、その穴に放り込んで凍死させる。

 金属バットで頭を殴り、植物人間状態に陥らせる。

 それらは全て実際にあったいじめのケースです。当然死者も出ている。

 こういったいじめが蔓延している事自体が社会の乱れと言うべきでしょう。

 この痛ましい事件を少しでも減らす事が出来るのならば私は何だってしたい。

 恐怖に歪んだ死に顔を数多く見てきた私がいじめの根絶を願っているのです。

 抑止力が働くのならば、多少の無茶は通すべきだと私は考えます。

 皆さん、『いじめの復讐』の抜け道を放置しておく事が悪なのでしょうか?』


 涙を目に浮かべながらそう語る会長の言葉に、その空間全体が静まり返った。

 福島もその気迫に飲まれそうになったが、何とか耐えて持論を展開する。

『確かにいじめ問題は深刻ですが、問題の核を勘違いしてはいけません。

 争点はあくまでも『ニューマンが人を殺して完全犯罪を達成出来る』と言う危険さにあるのです。

 政府がそういった法整備をしない限り、国民にとってニューマンは危険な存在のままでしょう。

 美輪さんもニューマンの回収・廃棄を免れたいと思うのであればその辺りを真剣に考えていただきたい』


 ある意味、福島の言葉は問題の総括と締めくくりであった。

 キャスターも頷き、ゲストの3人に対して話しかける。

『ニューマンが私達の生活を脅かす存在であってはならない。これは間違いの無い事実です。

 皇国がニューマンを積極的に取り入れようとしている以上、国民の安全は守られるべきでしょう。

 しかし一方でいじめが深刻な社会問題になっていると言うのもまた事実です。

 現時点で発覚したニューマン運用の抜け道を『抑止力』と捉えるか、それとも『単なる犯罪』と捉えるか。

 視聴者である皆様からの意見をお待ちしております』


 ゲスト3名がその場から退席し、次のニュースが報じられる。

 その間にもネット上では様々な意見が飛び交っていた。

『いじめ行為が無くなっていじめっ子が死ぬんなら、俺達にデメリットなんかねぇじゃん。

 どんどん死んでもらおうぜ。流石に無差別殺人とか企もうとする奴は事前審査ではねられるだろ』

『いやいや、心の中で『無差別殺人やってみてぇ』って考えてるだけの危険思想持ちの奴がいたら事前審査じゃ解らねぇよ。

 そういう可能性を全部排除したいんなら、別の審査基準を設けるしかねぇよな』

『そうは言ってもハードルが爆上がりしたらニューマンを買える奴がいなくなっちまうだろ。

 現状、抜け道がある位でいいんじゃね?そこばっかり突く奴が続出したらその時考えようぜ』

 若い男性はどちらかと言えば楽観的な意見が多かったが、女性はあからさまな拒否反応を示していた。


『小さな子供もいるんです。

 ニューマンが人を殺して廃棄処分もされない可能性があって、その可能性を残しておくなんてとんでもない。

 エヴォリューションには早急に対策してもらいたいです』

『大体、国防以外でニューマンを一般層にも購入させようとしているのが間違っているのでは?

 自衛隊に所属しているニューマン以外はすぐに処分する必要があると思います』

 過激な意見も飛び出し、困った事に多くの女性がその意見を支持している。

 自分と家族の身の安全を考えて出た発言とは言え、清川凛にとっては笑っていられない状況だった。


「父さんも随分余計な事を言ったもんだ……大人しくエヴォリューションに落ち度があったって謝罪しておけば良かったのに。

 非を認めたくないからって言い訳を並べ続ければ、さらに燃え広がるだけだろう」

「コウ君。世論がニューマン排除に傾けば私達は廃棄されてしまうわ。

 私だけじゃない。雲雀さんだって……どうすればいいのかしら」

 自宅でテレビを見ていた光輝と凛Ⅱ。

 光輝はスマートフォンでSNS内の意見を閲覧していたが、事態は確実に悪い方向へと向かっている。

 このまま世論が『ニューマン反対』の方へと流れれば、凛の命すら危なくなる状態だった。


「コウ君……」

 泣きそうな顔で凛Ⅱが光輝の目をじっと見つめてくる。

 彼女は清川凛本人では無い。それは光輝にもよく解っていた。

 それでも、自分に助けを求めている者を見殺しにはしたくない。

「反対する世論を覆す方法はたった1つ。

 ニューマンが社会に貢献出来る存在であると世間にアピールする事。

 簡単に言えば、人間にとって『使える』か『使えない』かどうかなんだ」

 青臭い言い方をすれば、『正義の味方』になれば非難や糾弾は収まっていく。

 光輝は人間がニューマンを自分達の仲間であると認めれば、炎を消化出来ると考えた。


「具体的にどうすればニューマンが社会に貢献すると認めさせる事が出来るの?」

 凛Ⅱにそう言われ、光輝は顎に手を当てて真剣に悩む。

 大事な局面だ。少しでも判断を誤れば、さらなる致命傷になりかねない。

 かと言って、地域の清掃・ゴミ拾いの様なチリを積もらせていく様なやり方ではどう考えても間に合わないだろう。

 一気に、そして容易にこの流れを食い止める様な偉大な功績。

 そして、それを先に思い付いたのは凛Ⅱの方だった。


「コウ君、私を……オリジナルの『清川凛』を殺して今も捕まっていない連続通り魔。

 あいつは今のニュースと同じ位世間の注目を集めているわ。

 ニューマンが犯人を私人逮捕したとなれば、風向きも変わってくるんじゃないかしら」

 凛の提案は確かに今の悪い流れを変えそうではあったが、光輝はまだ弱いと感じる。

「ニューマンの問題一色になっている世間の目を、連続通り魔に向けさせる必要があるな。

 SNSだけじゃ無く、マスコミにも事件の事を取り上げてもらわないと。

 タイミングが大事だ。判断を誤れば話題逸らしだと逆に炎上しかねない」


 加藤が警察に働きかけ、警察側が動けば連続通り魔に関する『特番』が組まれるだろう。

 そこから日を置かずに犯人が逮捕されなければ、世間はその特番を『茶番』だと一蹴してしまう。

 ニューマンが特番直後にすぐに犯人を私人逮捕した。

 ニューマンは社会に貢献する事が出来ると言う強いメッセージを発信する必要がある。

「加藤さんにも、父さんにも動いてもらう必要がある。

 加藤さんは何が何でも連続通り魔を逮捕したい。

 父さんは一般家庭用のニューマンが売れなくなると言う事態を回避したい。

 利害が一致している以上、団結してもらわないと」


 美輪光輝はかつて坂本龍馬が薩長の仲を取り持った時の様に、『仲介役』を進んで行おうとしていた。

 ロボットだろうが何だろうが、目の前にいる凛Ⅱも、そして清川凛も失いたくない。

 世間を欺く事になろうとも、彼の心は『彼女を守りたい』と言う思いに支えられていた。

「俺にしか出来ない事がきっとあるハズなんだ。

 凛Ⅱがずっと俺の隣にいられよう様に全力を尽くして、必ず悲劇を回避する。

 もう、君が側にいない世界なんて見たくない」


 初めは、『所詮偽物だ』と思っていた。

 だが愛着が沸けばそれは本物と同等の価値があるのではないか。

 自分の隣にいて、太陽みたいに微笑んでくれる存在。

 常に自分を励まして、沈んだ気持ちを元に戻してくれる存在。

 光輝にとってニューマンは最早『単なるロボット』では無かった。

 離れがたい関係、自分の感情の核に近付いていたのだ。


「コウ君、有難う。私に出来る事があったら何でも言って。力になりたいの」

 凛Ⅱも命の危機が迫っている事を間近に感じている。

 世間のバッシングに勝ち、国民が進む道をどうしても変えたい。

 彼には、父親と加藤を結び付ける事で解決の糸口が見えるのではないかと思っていた。

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