第10話 復讐代行ニューマン

【西暦2060年1月 日台帛連合皇国 東京都大田区 北馬篭きたまごめ白水高校校舎内】


 最初に、恐怖と苦痛があった。

 泣き喚き、必死に懇願した。それでも許してもらえなかった。

 それがずっと続いた。徐々に感覚が麻痺していき、苦にならなくなった。

 殴られても蹴られても自身の尊厳を奪われても、心がただ冷たくなっていくだけ。

 静かな怒りと憎しみだけが、蓄積され爆発しそうな程膨れ上がっていた。


「最高だったぜ」

 塚間つかま弥次郎やじろうはそう言うとズボンのベルトを締め、倒れている少年の服を掴んで引っ張り上げる。

 既に少年の瞳からは光が完全に失われ、その奥には底が見えない程の闇が広がっていた。

「また可愛がってやるからよ。その時はちゃんと屋上に来いよ」

「塚間さんを怒らせると後が怖いからなぁ」

「俺達も楽しませてもらうぜぇ。他の奴等にばれるんじゃねーぞ」

 取り巻きとして塚間の側にいる者達。

 山田やまだ直樹なおき木村きむら省吾しょうご小網こあみ篤志あつしの3名だ。

 彼等は皆伊藤いとう洋太ようたよりも背が高く、力も強かった。


 彼は高校入学直後から1学年上の塚間達に目を付けられ、虐めを受けている。

 今年から彼等が3年生、伊藤が2年生になるのだが、後1年もこの状態が続くなど彼にはとても耐えられなかった。

 塚間達が筋金入りの同性愛者であった事もありサンドバッグ代わりに殴られる、財布の中身を奪われる等の行為はそれに比べればまだ生温い。

 毎日の様に屋上に呼び出されて玩具にされると言うのは筆舌に尽くしがたい苦しみだった。

 彼等は異常者だった。

 人が恐怖に怯え泣き叫ぶ姿を見る事に快感を覚えるサディストであり、伊藤はその犠牲となっていたのだ。

 逆らう気持ちも消え失せていた。

 今、彼の頭の中を占めているのはどうやって自分の望みを叶えるのかと言う点だけだった。


 (1億円を捻出する方法。しがない高校生でしか無い僕が、どうやってその費用を稼ぐ?

 非現実的では無く、実現出来る形で。それをクリアしなければ先には進めない)

 もう、生への執着も無かった。

 大事なのは復讐であり、自分の身を犠牲にしてでも彼等を葬り去ると言う哀しい決意だけだった。

 ゴミにたかる蠅の様な連中を、決して生かしておくワケにはいかない。

 それと同時にどうやって目的を達成するか。彼の心は完全に砕け散り壊れていた。


 既に下校時間となっており、彼の身体を思う存分堪能した塚間達は学校を後にしている。

 塚間の虐めは巧妙で、学校内で伊藤が虐めを受けていると言う事実すら周囲には全く気付かせなかった。

 彼の瞳が濁っている事に万が一気付いた者がいたとしても、塚間達に辿り着く事すら困難であったろう。

 むしろ、今の伊藤にしてみればそちらの方が好都合だった。

 自らが欲する『完全犯罪』を成し遂げる為には、その繋がりを誰かに知られてはならない。

 彼等が屋上から飛び降りて『自殺した』と言うシナリオを書く為には、自分が彼等とは無関係である事を装う必要があった。


『いいか。衣服の乱れは絶対に直しておけよ。

 先公に泣きついてみろ。生涯後悔させてやるからな』

 ただの高校生とは思えなかった。

 学校関係者で無ければ入れない屋上へと続く扉の鍵を偽造し、誰にも気付かれる事無く開け閉め出来る様にした。

 頭の良さも凶暴性も理解出来るレベルを超えている。

 学校の外で喧嘩になった他校の生徒が、その後謎の火災によって家族ごと死んだと言う事件すら起きていた。


『俺に逆らう奴等は皆殺しだ。解るだろお前にも。

 目撃者がいたとしても殺しちまえば証拠なんて残らねぇんだよ』

 それらは全て塚間自身が伊藤に語っただけの事であり、学校内では噂にすらなっていない。

 すぐに手が出る粗暴な男と言う認識だけで、避けられてはいたがまさか虐めを行っているとは思われていなかった。

 こういう化け物を相手にするのだから、こちらも化け物にならなければ勝機は無い。

 伊藤はありとあらゆる書籍を購入してニューマンの機能を調べていた。


「あれ、まだ残ってたんですか。珍しいなぁ」

 教室内で勉強をしていた美輪光輝は、伊藤に声をかけられそちらの方に目を向ける。

 目に光こそ無いが、虐められている様な印象は全く受けなかった。

「君は?」

「1学年下の伊藤って言います。あと数ヶ月で2年生ですね」

 窓の外では、陸上部の練習が行われている。

 短い夕闇の中、家に帰る前に今日の授業内容をまとめておくのが彼の癖だった。


「進級だもんな。俺ももうすぐ3年生か。来年は卒業……

 親父と同じ道に進むべきか、それとも違う道を選ぶべきか。

 卒業後の進路も気になってくる時期だ」

 光輝の父親が『エヴォリューション』に勤めている事は周知の事実となっている。

 ニューマンを作っている会社で、開発のトップを任されている人間の息子。

 余程だらけた人生を歩まなければ成功間違い無しだと囁かれていた。


 (僕も貴方を利用させてもらいますよ、美輪先輩)

 伊藤は強かだった。彼と同じ学校に通っているのは幸運と言っても良い。

 塚間の様な悪魔に目を付けられたのは不運であったが、この際そこはどうでも良かった。

 彼に聞けば、ニューマンの事は大抵解る。

 その日から伊藤は何度も放課後の教室に足を運び、彼から情報を得ていった。


「ニューマンが犯罪行為を犯さないかって?」

「はい。僕、ニューマンの事を色々調べているんですけどそこが気になっていて」

 最初は勉強の邪魔だと感じていた光輝であったが、屈託の無い笑顔で話しかけてくる伊藤を邪険に扱えなかった。

 まるで美少女の様な綺麗な顔。華奢な身体。滑らかな肌……

 その気が無い人間ですら見惚れてしまう様な魅力が伊藤にはあった。

 光輝は次第に彼と打ち解けていき、かなり突っ込んだ質問をされても答える様になっていく。


「物事に100%はありえない。だけど、100%に近付ける努力はするべきだ。

 まず、人がニューマンを購入する時点でチェックが入る。

 犯罪歴が無いかとか、名前を偽っていないかとか。

 その人物が犯罪を起こさないであろうと判断された後、ニューマンの製造に入る。

 そうすれば、その確率は大幅に下がるだろ?」

 伊藤は頷いたが、さらに質問を行った。

「それでも、ニューマンが犯罪を犯しそうになったら?」

「……ニューマンの犯罪行為を抑制する為の方法は2つ。

 1つは半径100m圏内に限られるけど、特殊な電波を発生させてニューマンを無理やり停止させる方法。

 ニューマンの電子頭脳にエラーを起こさせて思考能力を完全に奪う。

 脳死みたいな状態になるから後は確保して廃棄処分にするだけだ」


「そんな事が出来るんですか……」

「電波発生装置のメカニズムは秘中の秘で、他の国には一切製造方法を教えていない。

 ニューマンの製造方法自体も教えてないけど。そしてもう1つは」

 光輝は呼吸を整える様に息を大きく吐いた後、言葉を続ける。

「ニューマンには暴力阻止装置が内蔵されていて、人に暴力が振るえない様になっている。

 目で見た人間に危害を加えようとすると自動的に全ての機能が強制シャットダウンされるんだ。

 ただ、それだと外国の脅威が皇国を襲った時に役立てなくなるから、抜け道はあるけどね」

「抜け道?」

 本心を全く見せる事無く、あくまで『知識として知っておきたい』素振りを見せる伊藤。

 光輝は彼の質問に裏の意図が隠されている事を見抜けなかった。


「ニューマンが勝手に持ち主の側から離れられない様に、バッテリーの交換箇所が背中側にある事は知ってるだろ?

 それと同じで、背中側に暴力阻止装置の解除スイッチが用意されている。

 政府が製造を推進してる自衛官のニューマンに関してはずっと解除されてるよ。

 解除されていれば人間に危害を加える事が可能になる。だから100%の安全は無いって事さ」

「へぇ……僕ももしもの時の為にニューマンが欲しいですよ。

 自分が万が一死んだ時、父さんや母さんを悲しませたくないですから」

 伊藤はそう言ってニューマンへの憧れを口にしたが、光輝はあくまで現実を見据えていた。


「父さんは1億円をキャッシュで払わないと絶対にニューマンを作らないと公言してるからなぁ。

 ローンも組めないし、その壁が大きいよ。1億円を借金して用意するなんてまず無理だからね。

 危ない筋の金融会社だって、ニューマンを作って本人は自殺なんて逃避行動を取られたらたまらない。

 今はそれが解ってるからどんな所だって貸さないよ。高校生がニューマンを買うなんて出来ない」

「そこを何とかするって事は出来ないんですかね?」

 自分が強く望んでいると言うより、茶化す様に伊藤はそんな疑問を投げかける。

「無茶言うなよ。親がとんでもない金持ちだとか、宝くじで大金を当てるとかじゃなきゃ無理だ。

 危険なアルバイトをしても1億は稼げない。後はあれだ。寄付でも募ればいいんじゃないか?」


 光輝はあくまで冗談でそう言っただけだったが、伊藤の頭に閃きが生まれた。

 それは具体的な作戦へと変化し、取るべき道がハッキリと見えてくる。

 (そうか。その方法なら1億円を稼ぐ事が出来るかもしれない)

 1億円を手に入れる事さえ出来れば、己を犠牲にした復讐が果たせる。

 生への執着は既に捨てていた。今の伊藤は、4人をこの世から消す事しか考えていなかったのだ。


「やっぱり無理なんですかね」

「無理だよ。今は諦めろ。大人になって稼いで、40歳前後になってやっと買えるかどうかって値段だ。

 今お前がすべき事は、稼げる大人になれる様に一生懸命勉強する事だよ」

 光輝は伊藤の未来を見てそう言ったが、彼自身の未来は無いも同然だった。

 勿論、光輝がそんな彼の心の内に気付けるハズも無い。

「勉強の邪魔をしちゃってごめんなさい。僕はもう帰ります」

「気を付けて帰れよ。交通事故に遭ったりなんかしたらその夢も叶えられなくなるしな」


 生きて夢を掴めと説く光輝の顔を、伊藤は直視する事が出来なかった。

 あまりにも眩し過ぎる。この世に絶望している自分とは全く違う世界の人間。

 だからこそ、彼は光輝が幸せになる事を心の中で祈った。

 (美輪先輩。貴方は貴方の道を歩んで立派な人間になってください。

 僕はきっとその姿を見る事は出来ないと思いますが、いつまでも応援しています)

 伊藤は計画を実行に移す為、学校を出て自宅へと戻っていった。


 ニューマンによる復讐代行を匂わせるクラウドファンディング。

 アングラなクラウドファンディングサイトで直接的な文章は何も書き込まず、他者の反応を窺う。

『自分は虐めを受けています。その虐めから逃れる為にどうしてもニューマンを購入する必要があるのです。

 リターンは普通ならば絶対にお目にかかれない素晴らしいものを用意しております。

 その内容を決してココには書く事が出来ません。

 渡した内容を口外・公開する事も全面的に禁止させて頂きますが、それでも良いと思える方の支援をお待ちしております』

 本心は別の所にある。ニューマンが人を4人も殺すと言うショッキングなニュースを披露しよう。

 金さえ払えば、リスク無しで犯罪に加担出来るぞ?伊藤は暗にそう言っているのだ。

 言い訳に使う『リターン』も既に用意しており、出資者に迷惑をかけない様配慮していた。


 このクラウドファンディングはネットを通じて多くの『愉快犯』の目に留まる事となり、その界隈で大きな盛り上がりを見せる。

『おいコレ、どう考えてもニューマンを購入した後やる気だろ。1億集まったら祭になるぞ』

『リターンの内容が想像出来るのウケルwww俺、1万突っ込むわ』

『じゃあ俺5万円入れよっかなwニューマンが殺人を犯したら皇国国内では初の事態になるんだろ?

 俺達がそれを支援してやったとなったら、胸が熱くなるなwww』

 ショッキングなニュース、凄惨な事件が起きる事を望んでいる悪意に満ちた連中はどの時代にも一定数いるものだ。

 その結果、曖昧な情報を正しい形で受け取った者達の手によって2ヶ月間かかったが無事に目標金額分の金が集まった。


 このクラウドファンディング自体は、『錯誤』があったとして幾らでも誤魔化せる。

 伊藤自身は『虐めから逃れる為にニューマンが必要』と書いただけで、殺人等全く書いていない。

 おどろおどろしい背景のデザインやフォントを使い、それを匂わせているだけで決定的な証拠を掴ませる気は毛頭無かった。

 つまり『金を出した側が一方的に勘違いをしているだけ』と開き直ればそれ以上の追及は不可能になる。

 完全犯罪を成立させる為には、あらゆる事に気を配り常に程好い緊張感を保たなければならなかった。


 自分がクラウドファンディングの為に作った銀行口座に振り込まれた1億円と言う額。

 寄付を募ればいいと提案した光輝の言葉に、伊藤はただただ感謝する他無かった。

 (美輪先輩のアドバイスで最大の壁は突破出来た。リターンの一部も既に出資者全員に送っている。

 後戻りはもう出来ない。後はしかるべき時が来るまで待つだけだ)

 本当はすぐにでも実行したかったが、塚間達に自分の策謀が見抜かれていないかどうか様子を見なければならない。

 本名を隠し匿名で1億円を集めた伊藤であったが、何処から情報が洩れるか解らないのだ。

 彼は決行を2060年の9月と定め、自分の人生に幕を下ろす日を逆算して考えていた。


【西暦2060年8月 日台帛連合皇国 東京都大田区 エヴォリューション本社内】


「ココに1億円を用意しています。紙幣は全て本物です」

 夏休みの間、彼は塚間達の従順な奴隷を演じながらずっと機会を伺っていた。

 どんなに暴力を振るわれようが心を穢されようが冷たい氷の心で耐え続ける。

 この時の為と我慢をし、彼等に気付かれぬままニューマンの注文までこぎつけたのだ。

「君に犯罪歴が無いか数日かけて調べさせてもらったよ。

 怪しい噂は全く聞こえてこなかった。問題は……そのお金をどうやって用意する事が出来たかだ」


 美輪みわ彰浩あきひろはキャッシュさえあればどんな人間のニューマンでも作る。

 思想に問題があったり、犯罪さえ犯していなければ一切差別はしないと宣言していた。

 だが、未成年が突然大金を持ち込んできたとなればその出所は聞いておく必要がある。

「クラウドファンディングで資金を募りました。

 自分は酷い虐めに遭っていて、地獄から抜け出す為にどうしても僕のニューマンが必要なんです。

 1億円の他に脳スキャンを行う費用も自前で用意しました。

 どうか、虐めっ子達に気付かれる前にニューマンを作ってください。お願いします」


 深々と頭を下げる伊藤。

 今まであった事実を述べ、腹の中にあるどす黒い闇は一切見せない。

 彼に見えている可能性がある部分は、決して嘘をついたり話を盛ったりはしなかった。

 ココで彼を騙せるかどうかで、自分の運命が変わる。

 断られたら全てが終わると言う状況で、伊藤はひたすら彼が自分の要望を受け入れる事を祈っていた。


「解った。君の言っている事に嘘偽りは無いと信じよう。

 これから脳スキャンをしてニューマンを作るとなると1週間はかかるが、それでもいいかな」

 彰浩の言葉が一瞬信じられず、まじまじと彼の顔を見つめる伊藤。

 溢れ出す滝の様な涙を抑える事など出来なかった。顔を覆ったままただ泣き続けた。


「有難うございます。これで地獄の様な日々から抜け出せます」

 誤魔化しはあるが嘘は何1つ言っていない。

 彰浩を騙す為に正直な心情を隠す事無く見せ付けた。

 この涙も感謝も、全てが真実でありそれが同情を誘ってくれる。

 だが彰浩は彼の言葉を完全に信用してはおらず、自らの保身も考えていた。


 (彼に万が一やましい心があって、逃げ切るつもりだと言うのなら私も逃げ切ってやる。

 こんな結果になるとは思いもしなかった。私は騙された側だと主張すれば良い。

 彼等はその主張を崩す事は出来ず、私が1億円を儲ける事が出来たと言う事実が残るだけだ)

 狐と狸の化かし合いだ。損をする事が無いから、伊藤の話に乗っているだけに過ぎない。

 彰浩はそれに加えて合理的にものを考える男だった。

 何が自分にとって得になり何が不利益をもたらすかをしっかりと弁えている。

 この先に待つのが『誰か』の破滅だったとしても、彼がそれを気にする必要はまるで無かった。


 ニューマンの製造が開始され1週間が経過するまでにも、諸々の苦難があった。

 計画が進行している事を悟られてはならない。憐れな人形を演じ続けるのみ。

 伊藤は努力を続けた。虐めっ子達は己の命の終わりが近付いている事など知りもしなかった。

「これが君のニューマンだよ。

 1週間前に脳スキャンを行った時までの記憶が完璧に再現されている。

 このニューマンをどう使うかは君の自由だ。ただし、犯罪に手を染める事は許されないぞ」


 目を閉じて眠っている『もう1人の自分』を目にしながら、伊藤は頷いてみせる。

「解っていますよ」

 暗黙の了解があった。

 彰浩は彼がこのニューマンを犯罪に用いるであろう事を承知しており、黙認した。

 (彼は虐めっ子達を殺害しようとしている。その後でさらなる凶行に走る可能性は少ない。

 私は世の中の正義全てを盲目的に信じるのは愚かだと思う。

 君がそうしたいなら、存分にやるがいい。社会のゴミは排除されるべきだ)


 人を殺害する事は悪だと言うのは社会共通の認識であり、絶対的正義である。

 だからその絶対的正義に基づいて、死刑の廃止等が叫ばれるのだろう。

 彰浩は人の心を壊す悪党が幅を利かせ、弱者がいたぶられる世の中が正しいとは思えなかった。

 そして、科学者としての興味に逆らう事も出来なかった。

 伊藤洋太は、ニューマンを使った完全犯罪を遂行しようとしている。

 成功するのか。そして成功した場合どんな結末を迎えるのか。

 殺害対象が屑であるだけに、暗い気持ちに陥る事無くその一部始終を見守る事が出来る。


 伊藤も自分がしようとしている事が悪であるのは充分把握している。

 それでも、このまま何も変わらない日々が続く事だけは耐えられなかった。

 何故自分だけが我慢しなければならないのか。くだらない。馬鹿げている。

 到底容認出来ない。滅ぶに相応しいのは彼等であって自分では無い。

 不思議と怒りの感情が心を覆っても、すぐに冷静になれた。

 こんなに冷めているのは、もう己が普通では無いからだろう。


 伊藤は彰浩からニューマンの機能を一通り聞いた後、出来る限りの要望を伝えた。

「このニューマンの『所有者』になるのは僕ではありません。

 僕の両親2人の生体認証でバッテリーが交換出来る様にしてください。

 全て伝えていますので、明日には両親がココに訪れると思います」

「解った。では所有者登録は明日行うと言う事で良いんだね?」

「そうしてください」

 両親はまだ、伊藤がこのニューマンをどう使うのか知らない。

 自分が虐めにあっている事は事前に伝えていた為、代わりに学校に向かわせるのだろうと思っていた。


 (奴等だって馬鹿じゃない。

 殴ったり蹴ったりすれば、すぐに相手が人間じゃないって事に気付く。

 その前に勝負をつけるんだ。そして僕は……)

 ニューマンが計画を成功してくれる事を信じて、人知れず自殺する。

 人を殺す事の責任を取ると言う意味でもあるし、もうこの世に未練は無い。

 汚れた自分が生き恥を晒して生きていくよりも、綺麗なニューマンに生きていてもらいたかった。

 その夢がもうすぐ叶うのだ。

 伊藤の頭の中にある計画の全貌は、当然ニューマンも知っている。

 エヴォリューションから自宅へ戻る時も、彼は願いが成就する事を信じて疑わなかった。

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