烏谷真咲
見覚えのないカラスさん
「あの」
「どうした」
私たちは、谷上体育館から歩いて帰ろうとしていた。
「さっきから一羽、カラスさんがずっとついてくるんですが……」
「ああ、烏谷のカラスだろ」
天馬先輩は顔をしかめる。
「いえ、なんだか烏谷先輩のカラスさんではないような気がするのです」
「は?」
私の言葉を聞いて、先輩は立ち止まった。
「烏谷先輩のカラス、公園でトシローさんと私に襲いかかってきたカラスさんは、アクセサリーなんて身に着けてなかったんです」
「アクセサリー?」
怪訝そうな顔をする先輩に、私はカラスさんの首元を指さした。
「あのカラスさん、首にネックレスみたいなキラキラしたものを巻いています」
トシローさんやペガさんのように、リボンも巻いています。
けれどもそれ以外に人間のブレスレットくらいの大きさのアクセサリーのようなものを、首元に巻いていて、おしゃれさんなのです。
すると、カラスさんは私の肩に止まった。
『アンタ、センスあるやん。ウチの相方のシュミ、ちゃーんと分かってくれるんや』
ござる口調ではない、関西弁のカラスさんです。
『ウチの相方はな、本人は認めへんけど、かわいいものが好きで、お笑いが大好きなすてきなすてきな王子様やでな』
「王子様……」
『そんな相方が、アンタらに会いたいから連れてきてくれって言ってるねん。申し訳ないねんけど、ついてきてくれへんか?』
「その相方の名前を聞かせろ」
天馬先輩は、警戒してるみたい。
『ウチの相方の名前は、烏谷……』
「ほらみろ猫村、烏谷のカラスじゃねーか!」
天馬先輩がカラスさんの言葉をさえぎって言う。
『人の話は最後まで聞きましょうって、学校で習ったやろ!!!』
カラスさんが、先輩をつつく。
「いたっ! 何しやがるんだ、テメェ。そもそもそんなもん、学校で習ってねぇ」
『ウチの相方は、烏谷は烏谷でも、あの堅物の烏谷やあらへん』
そう、カラスさんが言うのを聞いて、私は思いだしたことがあった。
「もしかして、
「せや! マサキがウチの相方や!」
カラスさんが嬉しそうに言う。
『ウチの名前はクロスケや。よろしく頼むわ』
「クロスケって……、男みたいな名前だな」
『失礼な! ウチはこの名前、気にいってるんや! ほっといて!』
クロスケさんと天馬先輩が言い争っている間。
私はクロスケさんの相方に想いをはせていた。
烏谷真咲さん。私と同じ、中学一年生です。
サッカー部に所属していて、女子からも、男子からも人気があります。
いつも取り巻きの女子たちからは、こんなため息が聞こえる。
『ほんと、マサキ様が男の子だったら、完璧だったのにぃ……』
そう、烏谷真咲さんは、れっきとした女子なのだ。
女子はスカート、男子はズボン、と分かれている学校で、唯一女子でズボンをはいている女子でもある。
そうか、烏谷さんにはお兄さんがいて、なおかつ兄妹そろって、魔法使いなんだ。
「せっかく烏谷さんが待ってくれているのです、行ってみましょう」
私が言うと、天馬先輩は大きくため息。
「まったく、お前は人がよすぎるよ……」
『そうと決まれば善は急げ、や。行くで行くで!』
クロスケさんに連れられて、私たちは歩き始めた。
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