(自称)プロデューサー猫、出会って数分でスカウトする。
家に辿りついてからも少し風変わりな猫との出会いが、頭から
自分の部屋に戻って、ベッドにダイブ!
ベッドには、大きな猫の抱きまくらやら、ぬいぐるみが並んでいる。
「ただいま帰りましたよ! 猫山さんに猫橋さん!」
実は私、猫さんグッズを集めているのが大好きなんだ。
お店に行くたびに、猫さんグッズを見つける度、買って帰ってしまうんだ。
まんまるお目目の猫さんや、一本線のお目目の猫さん。
様々な表情をしている猫さん。どんな猫さんも大好きだ。
猫柄のカーテンを開けて、窓の外を見る。
(あの猫さん、ちゃんとドッキリ番組のスタッフさんと合流できたでしょうか……)
するとちょうど黒いとんがり帽子がゆっくりと、家の前を横切っていくのが見えた。
雨も相変わらず降り続いていて、せっかくの素敵な帽子がびしょぬれです。
(もしかして。ドッキリじゃないのでしょうか……)
そう思ったら、私は自分のかさを持って家を飛び出していた。
もし、本当にドッキリではないのだとしたら。
そして、飼い主さんとはぐれてしまったのだとしたら。
言葉を話せる猫さんをこのまま放っておくわけにはいきません。
そもそもドッキリではないとして。なぜあの猫さんは話せるのでしょうか。
それはあとで直接、猫さんに確認を取ることにしましょう。それよりも。
(悪い人に捕まって、売り飛ばされでもしたら大変です……ッ!)
家の外に出ると、猫さんの小さく丸めた背中が、遠くに見えた。
「猫さん猫さん! 待ってください!!」
私が呼び止めると、ピクッと猫さんが立ち止まる。
振り返った猫さん。その表情は、涙の洪水発生5秒前の顔。
『な、なんなのだ……。魔女になってほしいとは、もう言ってやらないのだ』
さっきまでの自信はどこへやら、猫さんの声はふるえている。
「猫さん、飼い主さんはいらっしゃらないんですか」
私の言葉に、猫さんは、うるうるした目のまま首をかしげた。
『カイヌシ?』
「猫さんにごはんをくれたり、お風呂に入れてくれる人です」
『ワガハイに、そんな人はいないのだ』
うつむく猫さん。なんだか、悪いことを聞いちゃったかな。
でも、他にも聞いておきたいことがある。
「じゃあ、誰に言葉を教えてもらったんですか」
『ワガハイ、自分で覚えたのだ!』
目はうるませたまま、精一杯、胸をはる猫さん。
いやいや、自分で覚えるって言ったって……。
『ワガハイ賢いから、ニンゲンの話を聞いて覚えたのだ。どうなのだ、少しはワガハイのことを見直したのだ?』
そういうものなのでしょうか……。疑問は残りますが、とりあえず。
このまま放っておくわけにもいきません。
「とにかく、うちに来てください。危ないですから」
『ワガハイのその、カイヌシとやらになってくれるのだ? 魔女になってくれるのだ?』
ずずいっと、私の方へ顔を寄せてくる猫さん。ち、近いです。
「魔女になったら、本当に魔法が使えるようになるんですか?」
『もちろんなのだ! ワガハイの弟子になれば、そんなの簡単なのだ!!』
弟子なのに、飼い主。なんだか、あべこべだ。それに。
私の頭の中で、「魔女」という言葉がぐるぐる回る。
ほうきに乗って、高笑いする鼻のながーいおばあさん。
魔女って言われると、どうしても童話の絵本に出てきた魔女を想像しちゃうんだよね。
「見た目がおばあさんになったりは……しませんよね?」
『……それは、お話の読みすぎなのだ……』
猫さんが、呆れて首を横に振る。
『まぁでも、見た目がおばあさんであること以外は、お話の魔女と似ているのだ』
「猫さんも、魔女さんが出てくる物語を読んだことがあるのですか」
『向こうの世界の図書館で読んだのだ。言葉も、図書館で覚えたものもあるのだ』
鼻を鳴らす猫さん。向こうの世界。その
物語の世界と同じように、この世界とは別の世界が、存在している。
そして目の前に、その世界の住人だという猫さんがいる。
ちょっと思っていた形とは違うけど。
でも私が求めていた
このチャンスを逃したら。
もう二度と新しい
このチャンスを、逃しちゃいけない。
「……正直まだあなたのこともよく分かりませんし、魔女のことも信じられません」
私の言葉に猫さんは、しゅんとなる。
「でも、私は自分を変えたいんです。そのためなら、魔女にでも何にでもなりたいと思います。……手伝って頂けますか」
私の言葉を聞いている猫さんの表情が、少しずつ変わってくるのが分かった。
猫さんは、最初に私に声をかけてきたのと同じように自信満々に言う。
『仕方がないのだ。ワガハイが力を貸してやるのだ』
「ありがとうございます」
『ワガハイ、トシローというのだ。カイヌシ、名はなんと言うのだ?』
「私は、猫村美鈴です」
『ミスズ。ミスズだな、覚えたのだ』
猫さん……――トシローさんは、私の名前を何度も繰り返した。
『とりあえずミスズ、ワガハイを家に連れて帰るのだ。ワガハイの自慢の毛並みが台無しなのだ』
猫さん……――トシローさんはぐっしょりぬれた、自分の毛を見てため息をつく。
「はいはい、まずはお風呂に入れてあげますよ」
私が言うと、トシローさんは肩をおとした。
『……お風呂は嫌いなのだ……。でも、仕方ないのだ』
てくてく私の前にやってきたトシローさんは、かがんだ私のひざに飛び乗る。
どうやら抱えて帰って欲しいようです。困った猫さんです。
トシローさんは、私の傘を見て不思議そうな顔をする。
『ミスズ、ミスズは猫好きなのだ? 仲間の顔がいっぱいなのだ』
見上げれば、大量の猫さんの顔が。
そうだ、この傘も猫柄の傘だった……。
若干恥ずかしくなりながら、トシローさんを抱いて家に帰った。
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