猫にリボン、凡人中学生に非日常。

 始まりは、黒いカラスの大群におそわれている猫を見つけた時だった。


 かさを家に忘れて、学校から家まで雨の中、走って帰るしかない。

 ああ、今日はとことんツイてないです。

 そう思っていた時に、通学路の公園にさしかかった。

 いつもなら小学生が遊んでいる公園。だけど今日は雨のせいで誰もいない。

 そんな土砂降りのなか、カラスに襲われている猫を発見した。


 一刻も早く家に帰ってシャワーをあびたい私と、このままでは帰れないと心の中で叫ぶ私。


 結局心の声が勝利して、私は公園の中、カラスの方へと近づいて行ったのだった。


「弱いものイジメはダメです!」


 かばんを振り回す突然の乱入者にカラスも少し、びっくりしたようだった。

 でもこちらは、一人と一匹。向こうはカラスの群れ。


 圧倒的に不利! 数の暴力、反対です!!!


 ジロッとこちらを見つめるたくさんの目。ひかえめに言って、怖い、です。

 心の中の私が、今度は別の意見を言い始めました。


『これは、負ける! 逃げるのです!』


 いやいやいや!? さっきまで助けに行けと言っていたのはあなたです!!!


 そう心の中で叫び返しつつ、私は猫を抱き上げる。

 黒いとんがり帽子に、大きな赤いリボンをまいた猫。

 少しだけ違和感を感じた。でも。

 困っているのには変わりないです。とにかく助けなければ!


 猫を腕の中に抱え込む。


『ニャッ!?』

「今はおとなしく抱かれていてください! お願いです!」


 空気を読んでください猫さん! 私も空気を読むのは苦手ですが!!!


 不幸中の幸い、猫はおどろいただけで、腕の中でじっとしていた。


「カアアアアッ」


 たくさんのカラスが、地面から飛び上がる。


「ぎゃあああああ」


 何のかわいげもないドスの聞いた悲鳴を上げつつ、私は猫を抱いて走りだす。

 カラスは、私と猫を追うように飛んできたけれど。


 絶対にあきらめません! このと一緒に逃げ切ります!

 そう、心に決めた。その時、不思議なことが起こった。


 猫が身に着けていた大きなリボンの真ん中についていた石。

 それがピカッと光った。

 カラスの群れは、何羽もまとまって近づこうとしてくる。

 でも私と猫の前にまるで見えないかべがあるかのように、近づけない。


 思わず、腕に抱いた猫を見た。

 猫も不思議そうな顔をして、私を見上げている。


 迷っているヒマはないです。今のうちに逃げなくては!


 これ幸いと走って公園を出ようとする。その時、するどい視線を感じた。

 見上げると、電柱の上に一際大きなカラス。


 カラスの群れのリーダーさん……でしょうか。


 そんなことを思いつつ、公園を出る。カラスは、追ってこなかった。


 それを背中ごしに確認して、走るスピードをゆるめた。

 さっきまで冷たかった雨つぶの感触も、今はなんだか心地いい。


 ああよかった、逃げ切れたようです。

 一安心して家の近くまで来た時、抱えていた猫を地面に降ろした。


 きょとんとした表情の猫に、私は語りかけた。


「ここまで来たら大丈夫なはずです。雨が降っていますから、お気をつけて」


 そう言って、家に向けて歩き始めた。

 

 雨の中、ほうっておくのは気が引けますが飼い猫だといけませんし。

 後ろ髪をひかれる思いで歩いていると、後ろから声がした。


『待つのだ! 話を聞くのだ!』


 そして、今に至る。






 

 







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