ワガハイは(プロデューサー)ネコである。

ワガハイは、(話せる)ネコである

『ワガハイのために、魔女になるのだ! 魔法が使えるようになるのだ、悪くない条件のハズなのだ!』


 ……えっと。ちょっとどういう意味なのか、分からない。


(そもそも目の前に広がる光景に理解が追いつきません)


 私は思わず、頭を左右に振る。


 目の前にいる生き物。それは私が知っている限りでは、猫という……と思う。

 白と黒のまだらもようの、猫。首にまかれた大きな赤いリボンが似合っています。

 でももしこの生き物が本当に、猫なんだとすると。

 明らかに、私の知っている猫とは違っているところがある。


 一つ目は、黒いとんがり帽子をかぶっていること。

 これに関しては、飼い主がかぶらせているだけかもしれません。


 二つ目は、二本足で立っているということ。

 これもまた、動物園の人気者が二本足で立ったというニュースは見たことがある。

 もしかしたらお仲間さんかもしれません。


 そして三つ目。これが一番の問題。

 それは、この猫と思われる生物が私に向かって日本語で話しかけてきたことです。


 もう、どこからツッコミを入れるべきなのか、分からない。

 ……少なくとも普通の猫ではないように思います。

 ネコさん(と、ひとまずそう呼ぶことにします)は、首をひねった。


『日本語が伝わらないのだ。日本人じゃないかもしれないのだ。でもワガハイ、英語、分からないのだ……』


 ドゥーユー、スピーク、イングリッシュ、そう困った顔で言うネコさんに告げる。


「えっと……、日本語なら分かります……よ?」

『アイアム、ア……ん?』


 ネコさんが、まんまるの金色お目目で私を見た。

 私を見上げたまま動きを止めたネコさんと、そのネコさんを見つめる私。

 数十秒後。


『それならそうと、早く言うのだ! 恥ずかしかったのだ!!!!』

「すみません……」


 私が謝ると、ネコさんは大きくため息を一つ。

 それから、腰あたりに手をあてて鼻をならした。


『フンッ。まぁいいのだ。プロデューサーネコであるワガハイは、海より広いのだ』


 ドヤ顔をしているネコさん。けれどネコさん、少し日本語間違っています。

 それだと、ネコさんが海のように広がってしまいます。

 とはいえよかった、とりあえず許して頂けたみたいです。

 ネコさんは小さな体を目いっぱいそらして、大きく見せようとする。

 その姿は、かわいらしいというほかない。


『それより返事を聞かせるのだ! 魔女になります、ならせてください、なのだ!』


 いやいやいや!? ならない、ならないですよ!?

 だいたい、初対面の人(猫?)急にそんなことを信じられるワケが……。

 

「あ、もしかしてコレは!? 世に言うドッキリ番組というヤツですね!!」


 私の頭の中に広がるイメージ。

 私が魔女になる、と答えた瞬間に、テレビ局の人が飛び出してきて。

『ドッキリ成功』という看板を、カメラに向かって振るのです。


 そうはさせません!


「魔女にはなりません!! ドッキリ失敗、残念でした! さよなら!!!」


 私は、猫さんの立っている方向とは逆方向にダッシュ!

 さよなら非日常、さよなら! 名残惜しいけど、ネタバレ見たいけど、さよなら!

 全速力で走ったあと、後ろを振り返る。

 猫さんは、何を言われたのか分かっていない表情で、立ち尽くしていた。


 

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