第28話 ゴッドファーザー
「待たせたね」
そう言って男は円卓会議室に入ってきた。
一見ただの老人である。見た限りでは70代の後半程であろうか。しかしその歩調はゆるやかだが確かなもので、むしろわざと遅く歩いているのではないかとソールウィンド伯爵夫人は疑った。
翁は席につくと水を一口飲んでふうと息をついた。いやはや老体には堪えるよ、とまるでソールウィンド伯爵夫人もリンドバーグも居ないようにそう言った。周りの大幹部達は笑いながら、パパももう年なんだから無理しちゃダメだよ、とまるで家族の団欒のように言った。
「さて、今日は一体なにがあったんだい?」
翁は大仰に手を広げて周りの幹部たちにそう尋ねた。そして付け加えるように
「こんな美しいお嬢さんまで呼んで」
とソールウィンド伯爵夫人を見ながらそう言った。
ぎり
ソールウィンド伯爵夫人は奥歯を噛み締めた。伯爵夫人をつかまえてお嬢さんとはよくもまあ言ったものだ。ひょっとして本当にボケているんじゃないか? しかしその考えは即座に凍結した。
「ほらお嬢さんも怒ってるじゃないか。私をボケていると思っているぞ」
ソールウィンド伯爵夫人は知らなかったがそれは
「では私から」
「ウォーリスがとある手記を見つけてきましてね」
まるで散歩の途中で財布でも拾ったように言った。
「それがちょっとあちらに都合が悪いものなのですよ」
ソールウィンド伯爵夫人の方に丁寧に手を向けてそう言った。
「それはお困りだろうねえ」
翁はしみじみと同情するようにそう言った。
「しかしウォーリスの友達はそれを届けようと言っていまして」
届ける。つまり公表しようと言う事だ。ソールウィンド伯爵夫人が条件を提示しようと声を上げる前に先に翁の声が出た。
「何故なんだい?」
翁は不思議そうにウォーリスにそう聞いた。
「彼はその手記の持ち主と知り合いなのですよ」
「じゃあ彼の物だな」
翁はそう言った。それはつまりフェリクスの意思を尊重するという意味だ。ソールウィンド伯爵夫人がまた声を出そうとした時にまたも翁に先制された。
「しかしお嬢さんがお困りなのだろう?」
翁はそう言った。
「
翁はそう言ってさらに言葉を続けた。
「その友達にはよく説明して納得してもらいなさい」
つまり示談だ。ソールウィンド伯爵夫人はほっとしたが翁はさらに続けた。
「ただし所有権は彼にある。お嬢さんには内容だけお伝えして手記は彼のものだ」
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