第27話 伯爵夫人と秘密の竹簡
「その手記はどうなるんですか?」
リーザはそう訊いた。
「まだ判らんが、可能性のひとつとして王国騎士団への恐喝ネタになるかもだ」
フェリクスさんは無表情でそう言った。今更暗黒騎士がこれを公表しても手記自体の信憑性に言い掛かりをつけられている内に闇に葬られる可能性があると言った。
「…それでいいのですか…?」
リーザは複雑な思いだった。あの憎い神聖騎士が目の前にいる。しかしこの人は自らの意思で捕虜を助け、神聖騎士を辞め暗黒騎士に身を投じて勇敢に戦い続けた人だ。しかも個人的にはリーザを助けてくれた恩人でもある。しかし
「もうひとつの可能性として、普通にこれを公表するかもだがな」
まだどっちになるかは判らん、とフェリクスさんは付け加えた。
「フェリクスさんはどうお考えなのですか?」
シオンはそう訊いてみた。答えは明確だった。
「俺は公表したい。
それを聞いて二人はほっとした。やっぱりフェリクスさんはフェリクスさんだ。しかしどこか偽悪的なフェリクスさんはやや人が悪くにやりと笑って付け加えた。
「王国騎士団もその後ろ盾のソールウィンド伯爵家も金なんかないしな」
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円卓会議。
それはかつて神聖騎士団と暗黒騎士団の最高幹部専用の会議場であり、ここでの意思決定は事実上の国家軍事の決定となった。しかし今やその会議場は公的に唯一の騎士団と、公的には存在しない騎士団の密談の場になっていた。
王国騎士団司令官パトリシア・ソールウィンド伯爵夫人と王国騎士団団長デニス・リンドバーグは苛立ちながら参加者を待っていた。本来なら彼女たちを待たすなどあり得ない事である。
「随分とお時間がかかるのね」
ソールウィンド伯爵夫人は嫌味たっぷりにそう言った。
「申し訳ありません。些か遅れておりまして」
「まあもう少しお待ち下さい。急いても何も変わりませんよ」
中央の男、当代最強の暗黒騎士と呼ばれる
暗黒騎士の戦闘力は今更言うまでもないが、その中でもキッジアの力はもはや次元が違う。その力は騎士というよりは魔道士のそれで、戦争中なんと
この化け物どもが。ソールウィンド伯爵夫人は心の中でかろうじてそう反発した。いくら貴族とは言え所詮ただの若い令嬢には理解を超越した存在が目の前に居るのだ。
そしてその化け物どもは唐突に立ち上がり、入り口に最敬礼をした。
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