第26話 おもひでボロボロ
「今の王国騎士もひどい様だが、神聖騎士の頃はそれはもうな」
フェリクスさんはそう語り始めた。
当時の捕虜収容所で起こった事を聞いてイヤな気持ちになった。つまりそれは捕虜への婦女暴行が公然かつ日常的に行われていたという事だ。
「その爺さんはウォントモリの神職でな」
捕虜収容所内ではまとめ役のような立場だったという。信仰心の低いウォントモリでは特別尊敬されている訳ではなかったらしいが、困った時の神頼みというより年の功で捕虜の面倒を見ていたという。
「その爺さんを介して俺は捕虜への援助をしていたんだ」
一尉官ができる事などたかが知れているが、それでもその援助は捕虜達への大きな助けになったらしい。
「爺さんはそう言ってくれたが、実際にはどうだったかな」
食料は大量に必要なので難しく、せいぜい病人が出たら一般薬を少し渡せる程度だったとフェリクスさんは自嘲気味に言った。
「…その手記はそのお爺さんが書いたものなのですか?」
リーザは話の流れを推測してそう訊いた。しかしフェリクスさんは首を振り、それはまだ判らんと言った。
「三ヶ月ほど経つと唐突に爺さんは死んだと聞かされた」
それはどういう状況だか分からなかったという。言われたのも捕虜からではなく監視の一人からだった。
「でも、何でフェリクスさんが収容所なんかに?」
考えてみれば不思議である。暗黒騎士は最前線で戦っていたのでは? なんで暗黒騎士が捕虜収容所に?
「言わなかったか? 俺は当時神聖騎士だったんだ」
ええ!? シオンだけではなくリーザもびっくり仰天の顔だ。
「これでも代々騎士の家系でな。士官学校を出た頃は真面目だったんだぜ」
フェリクスさんはにやりと笑ってそう言った。
老人の死後、フェリクスは司令官室に呼び出されて前線勤務を言い渡された。
「これでも当時中尉だったのにたった一人で前線勤務だとさ」
一応立場は暗黒騎士団の督戦士官という名目だったが要するに口封じだった。しかし個人的な戦闘技術に優れるフェリクスは督戦などそっちのけで戦い続けたという。そんな彼の奮闘は当の暗黒騎士の将官の目に止まった。
「若いの。なかなかやるじゃないか」
当時のウォーリス准将は最前線に出てきてそう彼を称賛してくれた。
「どうせ神聖騎士のはぐれ者だろ?」
いっそ俺たちの仲間になるか? と訊いてくれた。さすがにフェリクスは一瞬迷ったが二つ返事でそれを承諾した。安全に腐るより勇敢に死にたかった。
そして彼は
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます