第25話 夢みるふたり
シオンはリーザと共に夕方頃にフェリクスの事務所に行った。部屋を出たのは昼前だったが、そのままリーザの部屋に行き一時の逢瀬を愉しんだ後であった。二人は腕も組まず手も繋がず、しかし絶妙な距離感を保って一緒に歩いていた。誰に見られるかも分からないし、シオンは当然ながら実はリーザも恥ずかしかったのだ。
この二人は奇妙なもので、逢瀬を重ねる毎にかえって二人だけ以外の場所だと一緒に居る事が恥ずかしくてしょうがなくなっていた。またリーザは部屋ならほぼ裸なのに、一緒に外に出る時は「恥ずかしい」と言ってそのチャームポイントのショートパンツもノースリーブも着なくなった。今は革パンツに長袖である。
「ほらシオン、しっかりしなきゃ」
聞く人が聞けばもうすっかり恋人の口調である。シオンもうんと答える。先に階段を登り、事務所の前まで行くとノックをする。
「はいどちら?」
見慣れない中年の女性事務員が応対してくれた。来訪の理由を告げるとはいはいと応接に案内してくれる。しばらく待つとフェリクスがやってきた。
「何か見つかったか?」
フェリクスはそう言ったが、あまり期待はしていなさそうだった。それともなければリーザと一緒に来たので別の事に思い至ったらしい。
「まあ、お前らが結婚するなら別に俺は構わんよ。ただ仲人は勘弁な」
イヤイヤイヤイヤ! 二人はむしろうっすらとそんな事を思い始めていたので、逆に二人揃って首を高速に横に振って全力で否定した。そんなの早すぎます!
「いや、そうじゃなくて、これを」
そう言ってシオンは背嚢から例のチクカンを出してフェリクスに渡す。フェリクスは何だこれ? と言った感じで受け取り、シオンは手を伸ばして紐を解いた。
「…! でかした!」
フェリクスはその鋭い目を見開いてシオンを褒め称えた。そして無言で立ち上がると奥の部屋に行き、しばらくして戻ってくると札束を握って戻ってきた。
「5000ボルドくらいと考えていたが祝儀も兼ねてやる。ほら」
と言ってなんと1万ボルドをシオンとリーザにそれぞれ手渡してくれた。太っ腹!あ、いや、祝儀ってそれまだ違うんですけど。
「あの、質問していいですか…?」
リーザはおずおずとフェリクスにそう訊いた。ん? と言った感じで続きを促す。
「それ、一体なんなんですか?」
リーザはさすがにこんな大金に疑問に思ったのだ。こんなものにそんな価値があるのですか? シオンはちょっとと制止した。それは多分訊いちゃいけない事。
「ああ、これはな」
しかしシオンの予想に反してフェリクスはあっさりと回答してくれた。
「戦争中の捕虜収容所の実態を記した手記だ」
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