第20話 トライアル・ネバー・ダイ

「お前、本当に魔道士になるの?」

リオンはエールを飲みながらロズワルドにそう訊いた。


「なれるかは分からないけどね」

ロズワルドはそう回答した。


魔法使いと魔道士の間には非常に大きな格差がある。魔法使いとは言わば魔法さえ使えればそう名乗るだけの自称であり公的なものではない。対して魔道士とはこの大陸中で認められた公的な存在でありその数は少ない。


魔道士は彼自身が言わば独立勢力と見なされる。公的にはいかなる国の国民でもなく当然どこにも従属しない。国家間条約で魔道士と専任契約をする事は許されず、また過去の経緯から魔道士と契約する国はなかった。


その認定は一応試験という事になっているが、実際には試練と言ったほうが適切で、その再受験率は5割を切る。つまり半分は死ぬのだ。実務経験3年以上というのは、つまりその程度は魔法に精通していなければただ死ぬだけと言う意味であった。



「なんでそんなもんに挑戦するかねえ」

リオンは呆れてそう言った。


「それは指向の問題だよ」

ロズワルドはそう言った。これこそ誰にも言っていない事だがロズワルドには研究目的がある。それは古エマール文明に於ける体細胞代謝の秘術の研究だった。分かりやすく言うと治癒と不老の秘術の研究である。


現在でも魔道士や高位の聖職者の中には治癒の術ヒールを使える者は居るが、これは正確に言うと治癒ではない。触媒で体細胞をコピーして縫合しているだけであり、触媒の状態次第でその結果は大きく変わる。これを自らの美容整形に使う女魔道士も居るが、それは回を重ねる毎に非人間的な不気味さが出てくる。


しかし自らの代謝を活性化させる秘術があれば、少なくとも直接細胞となる触媒は必要ないはずである。細胞活性化そのものには触媒は必要だろうが。


そしてこの秘術を研究するにあたり、前提として魔道士としての叡智と情報と魔力、そして特権が必要なのである。


ロズワルドは幼い頃に父を病気で亡くした。それそのものは何の悲しみもなかった。神聖騎士として家庭でも暴君だった父を彼は嫌っていたのである。しかし父の病気は長患いであり、その病死に至るまでの過程で精神状態が悪化していくのを見た彼は、いっそ病気を悪化させたほうが父自身も含めて家族が幸せになるのではと考えた。


そこから始まった彼の病気に対する興味は古エマール文明の秘術に行き着いた。現在も謎の秘術であるが、治癒の術自体は既に確立していたのであまり興味を持たれる題材ではなかったのである。


幸いな事にロズワルドは知性と魔法の才能に恵まれた。中等学校では魔法科を専攻し、その中でも優秀な成績を修め上級学校への推薦も獲得したが、魔導士試験を重視した彼はそれを辞退して暗黒街へと身を投じたのである。

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