第19話 アホと叡智の助応
「おいリオン、ちゃんとテント設営しろよ」
ロズワルドはぞんざいにリオンにそう命令した。リオンはしおらしくハイハイと言いつつふたつのテントを設営し始めた。
一応ロズワルドはリオンの先輩ではあるが、それを笠に着て偉そうにしている訳ではない。ロズワルドはもう少しミッドウォールで調べ物をしたかったのだが、今日の昼頃に娼館の店員が現れたのだ。
「あんたの友達から紹介されてな」
その一言でロズワルドは事情を察した。あのバカ!
しょうがないのでお金を持って娼館を訪れた所、予想通りリオンは従業員控室で正座をさせられていた。言うまでもなくお金が尽きて足りなかったのだ。
「でもあの娘、いつでもまた来てねって言ってたんだぜ」
テントの設営をしながらリオンはそう文句を言った。えーとバカに付ける薬は、と。うんトリカブトでいいかなもう。
一応貸すという体裁だが、この男は少し金が入るとすぐに娼館に飛んで行くので全く期待はしていない。まあ元々お金にはさほど困っていないし、むしろこの男に少し貸しを作ったままのほうが便利かも知れないと思うロズワルドであった。
ロズワルドも全てをリオンに任せっきりにしている訳ではない。むしろ焚き火など自分がやったほうが早い。リオンがテント設営に集中しているのを見計らってロズワルドは小さく呪文を唱えて炎を熾した。炎は小さいが長く燃え続け、少し湿った葉や枝を焦がし始めた。
先日は攻撃魔法など使えないと言ったしそれは嘘ではない。しかし基準が違う。リオンなどの素人からすれば
本物の魔道士にとって攻撃魔法とは、城塞をも打ち砕く
それでもそれを言わなかったのは、謙虚さだけではなく、魔法使いらしい秘密主義、また最後の切り札を残しておきたかったという理由がある。素人には無限の力に思える魔法だが決してそうではない。むしろ炎の術など使えてせいぜい3回程度。それを使い切ったら精神力の問題からも行動不能に陥ることもあり得るのだ。
「ふー終わったおわった。できたぞロズワルド」
まるで積極的にそうしてやった、というような体でそういうリオンであった。
「はいはいお疲れ、焚き火は熾ってるぞ」
ロズワルドはそう言ってお湯を沸かし始めた。
グループ一番の知恵者と一番の大馬鹿者の二人は、本人達も認識していなかったが案外相性は良かった。お互いが自分の長所を誇り、相手の短所に同情するという些か歪な関係ではあったが。
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