第18話 暗黒の騎士

暗黒騎士と呼ばれる彼らは、王国の騎士団として編成される際にそのまま暗黒騎士団となった。彼らは別にそれに異議を唱えなかった。彼らには自分たちを称する言葉があったが、それは沈黙の掟オルメタにより公言するものではなかった。


そして戦争が始まると、暗黒騎士団はその戦闘力で大いにウォントモリを苦しめた。しかし元々少数の彼らはあくまで局地戦で勝利し続けただけに過ぎず、軍事行動全体を優位に導くには至らなかった。


双方の疲弊により停戦意見が出てくると、まず一番に暗黒騎士団の解散が条件として提示された。それはキリウス側も受託した。実際問題としてキリウス政府にしてみればこの強力かつ独自色が強すぎる部隊を持て余していたのだ。


そして勇猛果敢に過ぎた暗黒騎士団と、部隊の秩序自体に問題が多い神聖騎士団は共に解散し、新たに王国騎士団として統一された。しかしその実態はあくまで暗黒騎士と、問題行動が目に余る神聖騎士の排除を目的としたもので、新たな騎士団に編成された暗黒騎士は存在しなかった。


暗黒騎士団が解散した現在、当然ながら軍人としての暗黒騎士になれるものは居なくなった。しかし本来の意味での暗黒騎士、つまり「名誉ある者ザ・オナー」になれなくなった訳ではない。クレイブがなりたいのはそちらだったのだ。


「でも、そうしたらますます魔法が重要になるんじゃ?」

ベリーニはそう疑問を呈した。


「そこはフェリクスさんに訊いたら必ずしもそうじゃないってさ」

魔法を使えるほうが優位なのは確かだが、全員が魔法を使える訳ではないとの事だ。


「だから魔法はいいかなって」

クレイブにも夢がある。今はただの傭兵だが、いつかは暗黒街の顔役のひとりになりたいのだ。その際にはフェリクスさんの下のままでいい。むしろそれがいい。口は悪いが優しくて頭のいいフェリクスは彼の理想の上司だったのだ。


「むしろフェリクスさんの役に立ちてえよ」

クレイブは心底フェリクスを慕っていた。まだ彼がこのグループに入った当時、フェリクスの前ではそんな事はしなかったが、裏では先輩たちに随分と煮え湯を飲まされたものだ。それを見抜いて色々と助けてくれたのだ。


またフェリクスは一人の戦士としても非常に強く、まだ新米傭兵だった彼を助け、そして多くの知識を授けてくれた。上司であり恩人であり師匠だったのだ。


「…へえ…」

ベリーニはちょっと言葉を濁した。このクレイブがそこまでフェリクスさんを慕っていたとは。ベリーニもフェリクスには感謝しているが、それは後ろ盾として適当な相手だったからで、上司や戦士としてのフェリクスを頼った訳ではないのだ。

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