第17話 デイ・アフター・フューチャー

「よくそんなの着て歩けるよね」

野営の焚き火の前でベリーニはクレイブにそう言った。


「いやこれは軽いぞ。相当いいものだ」

クレイブは満足げに言った。


クレイブはさっそく分け前の鎖帷子を着ていた。自慢の為に着ている訳ではなく、前からの鱗鎧と一緒に持ち歩くのは重かったしもう必要ないので、古い方は売ってしまったのである。


クレイブとベリーニは二人一緒に帰路についていた。別に待ち合わせていた訳ではなく、昨日の朝クレイブが帰ろうとしたらベリーニと会い、帰るなら一緒に行くと同行を申し出たので一緒に帰る事にしたのだ。


「そんなのより魔法でも覚えりゃいいのに」

ベリーニは呆れたように言った。戦闘能力だけならもうクレイブは充分暗黒騎士として合格点である。しかし魔法はてんでダメなのである。


「俺はさ、厳密には暗黒騎士になりたい訳じゃないんだよ」

クレイブがなりたいのは「ソルジャー」だと言った。


現在、正式には暗黒騎士という騎士は存在しない。フェリクスなどは厳密には勲位を持つ予備役の士官という扱いになっている。しかし彼ら暗黒騎士は、軍隊との階級とは別に彼ら独自の階級を持っていた。


まず最下級の者は「アソシエート」と呼ばれる。これはクレイブ達のような準構成員または兵隊を指す言葉で、厳密には暗黒騎士とは見なされない。これはクレイブのようなグループのリーダーだろうが新米のシオンだろうが同じである。


その上がフェリクスのような正規の暗黒騎士で、彼らは「ソルジャー」と呼ばれる。名前だけ聞くと使い捨ての突撃兵のようだが、実際には暗黒街の名士であり、そこらの組や組織の長でも恐れ入る程の権威を持つ。


その上にさらに「カポ・レジーム」と呼ばれるソルジャー達を統括する存在が居る。これは正規の軍隊では准将または少将に相当する顕職であり、一般的に暗黒騎士の中では大幹部と呼ばれる存在である。クレイブなど会った事もない。


更にそれらを統括する「アンダー・ボス」と呼ばれる存在が居る。これは騎士団団長に相当する存在で、大規模作戦時の総指揮を担う雲の上の存在だ。


更にさらにその上には、軍事行動だけではなく団全体を統括する「ボス」がいる。これは暗黒騎士団の運用そのものを決定する司令官に相当する顕職で、もはや神に等しい存在だった。


アソシエートは枠外として、ソルジャー、カポ・レジーム、アンダー・ボス、ボスという階級に当てはまらない「コンシリエーレ」という存在も居る。これは暗黒騎士間の調整役であり監視役でもあり、アンダー・ボスやボスの相談役である。正規の騎士団では参謀長に相当する。


「別に正規の軍人なんてなりたくもないしな」

クレイブはそう言った。


ここで些か矛盾した事実がある。暗黒騎士とは本来は沈黙の掟オルメタに拠って繋がる秘密結社を外部が勝手に呼んだ言葉であり、彼ら自身がそう名乗ったわけではない。彼らの剣と魔法を駆使した戦闘力と秘密主義は列国を大いに恐れさせた。それをキリウスは正規の騎士団として彼らと契約したのである。

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