第14話 シュレッドリーンで昼食を

「これが本?」

リーザはチクカンを見て不思議そうにそう言った。ここはちょっとおしゃれなカフェである。コーヒーと紅茶とミックスサンドイッチとスパゲティを二人で食べててふと思い出して見せたのだ。


「ウォントモリの古語が書かれてるのかは分かんないけどね」

僕はそう言った。ひょっとしたら元修道女見習いのリーザなら何か分かるかな?と思って見せたのだがまるで分からないようだった。


「まあ見せるだけは見せたほうがいいよね」

リーザは常識的な意見を言うと食事をしながら色々と話を始めた。というかナンパの愚痴だ。リーザじゃなくても興味のない相手からのナンパなど迷惑なだけである。


「大体男ってちょっとかわいい女を見るとすぐ抱こうとするからね」

シオンは何と言っていいか分からなかったので相槌だけうって聞いていた。というかリーザの表情をぼんやり眺めていた。まあナンパする気持ちだって分かるよ。


リーザはかわいいというよりキレイ系だがまだ19歳である。シオンにとってはお姉さんだが世間一般ではまだ少女と言っていい。そしてこれは妙な言い方だが、その大人びた顔つき故に逆にどこか幼く見えるのだ。なんというか、大人の女性がある日突然若返ってしまったような。ちょっとしたタイミングで幼さを感じる。


「なによ、聞いてるの?」

ええ聞いてますよ。片耳だけど多分それほど聞き漏らしてませんよ。


「…もう疲れちゃった。シオン、ちょっと家まで荷物運んで」

ええ、ちょっとそういうのいいの?


---


もちろんリーザの部屋なんて行くのは初めてである。というか場所も知らなかった。バー・オリオンから少し離れたメゾンの2階がそうだった。


「いいところに住んでるんだね」

シオンは素直に、そしてちょっとうらやましくそう言った。


「まあ今は収入がいいからね」

そう言えばリーザは何の仕事をしているんだろう? スリや詐欺でこんなところに住めるものなのだろうか?


「風俗の斡旋」

リーザ自身は決して身体を売らなかったがスカウト自体は今でも非常に多い。そして彼女には修道院という独自のネットワークがあり、そのふたつをくっつけてるうちにこれを商売にし始めたという。


「あんまりいい仕事じゃないけど、なぜか今までで一番感謝されるのよ」

荷物を部屋まで運ぶと冷やした紅茶を出してくれた。


「…やっぱりそこの修道院だとそういう話が多いの?」

シオンは興味が出て訊いてみた。リーザはこくりと頷く。


「王国騎士の慰み者になるくらいなら自力で稼いだほうがいいしね…」

リーザは実は自分でも心の整理がついていなさそうにそう言った。斡旋した中には妹のように面倒を見た者も多いという。


「あたしね、いつか孤児院をやりたいの」

いや孤児院じゃないね、と彼女は付け加えた。


「あたしたちみたいな女の子を保護できるようなところ」

どんな形になるかは分からないけどそういうものが必要だと彼女は言った。

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