第13話 チクカン絶唱

「こりゃあ竹簡だ。珍しい物を手に入れたな」

チクカン?


強奪の翌日みんなはそれぞれ一旦別れ、さて久々の独り身だと思ったが、よく考えれば一足先に帰れば同じ事だし余計な宿泊費もかからない。道中だって一人旅である。ないとは思うが司直の手が伸びる事も考えたらこんなところに長居する理由なんて全くない。ので強奪の翌日昼からシオンは一人で帰路についた。


一人旅だったので旅程も早く、二日後の夕方にはシュレッドリーンに戻ってきた。部屋に戻ると旅装束やテントのほこりを払って風通しの物陰に干す。本格的に洗うのは明日にするが、こういうものはちゃんと洗って干さないとすぐダメになる。後はお宝を隠して部屋の鍵をかけて共同浴場で汗を流してその日はおとなしく寝た。


翌日は予定通り旅装やテントを洗って干し、昼食がてらなんでも屋のスコットにお宝を持ち込んだ。とりあえず訳が分からないものはスコットのところに持ち込めばなんとなったりするものだ。


「昔の本だよ。まあこれはそんなに古いもんじゃないがな」

これが本なの? ああじゃあこれがフェリクスさんのお目当ての物かな?


枕かと思っていた物は一応使ってみたが首が痛くなるだけで全然寝心地が良くない。頭をずらしているうちに紐がほどけ、それが単に木のような謎の小札を巻いてあるだけのものだと気がついた。なんだこれ?


という事でそのチクカンとかいうのだけ残して他のものは売っぱらった。香木かと思ったものはその通りで、なんとこれだけで1500ボルドにもなった。やったあ。


なんと手持ちで6000ボルド近くもある。そろそろ危なっかしいから為替に口座でも作ろうかな。別にいつでも作れるものなのだが作る理由がなかった。貧乏人にはなぜかお金を奪う悪霊がついてまわるもので、シオンは1000ボルド以上のお金を持ち歩くことなど滅多になかったのだ。


いやいやまてまて。このチクカンをフェリクスさんのところに持っていったら高値で買い取ってくれると言っていたぞ。ひょっとして夢の1万ボルドになったりして。そうなったら為替に行くのは後のほうがいいかな、いやこれがそうとも限らないし…などと考えていたら


「ちょっとシオン!」

と声をかけられた。振り向けばなんとリーザがいる。あれなんで?


「道中も待ってって随分声をかけたのに!」

そんなの全然気が付かなかった。何でもリーザは一人で宿を探している最中にまたも他のグループの男共からナンパされまくり、辟易して逃げるようにミッドウォールから出たという。遠目にシオンが見えたので声をかけたがシオンは気づかず、また足が速いので一日遅れてようやく今戻ったところだと言った。


「か弱い女を放置した罰よ、なんかおごりなさい」

別に引け目はなかったがシオンだって男である。リーザと半ばデートだと思えばそれほど悪い気もしない。何より今は懐も温かいし。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る