第10話 フィフス・リーズン

ロズワルド先程の話をかいつまんでまた二人に話した。要するに自分の目的はあくまで魔道士であり、それはフェリクスさんも了承済だという。


沈黙の掟オルメタさえ厳守するなら構わん」

フェリクスさんはあっさりそう言い、ついでに立場があったほうがいいだろうと彼をその場で従士に認定してくれたという。やさしい。


「ボクは後ろ盾が欲しかったんだよね」

ベリーニはそう言った。彼は元々ホストであり、新人の頃から女性扱いに優れていたが、しかし当然先輩たちからいじめられ、その難を逃れるために暗黒騎士の下部組織に参加したという。


「簡単な魔法も覚えたから接客では受けもいいしね。よかったよ」

確かにそっちが本業なら割と便利かも知れない。実態はともかく剣と魔法を使える、という触れ込みの優男なら女性客にモテるだろう。暗黒騎士になる気はさほどでもなく、別に今の立場のままでも構わないと言った。


「独立したってどこかに上納金は収めるのは変わらないしね」

そしたらフェリクスさんの下のほうが安くていいと言った。確かに。


「そういう意味じゃあたしも後ろ盾目当てだなあ」

リーザはそう言った。彼女は修道院で育ったのだが、その修道院は王国騎士団、というより神聖騎士団の息のかかった施設で、彼女のような修道女はその毒牙にかかることが多かったという。リーザは連中から暴行されそうになって逃げ出したという。


「とにかく身体を売るのだけは絶対にイヤだった」

世間知らずの修道女見習いの戦災孤児が、身体を売らずに一人で生きていくには誰かを頼るしかない。逃げ出した二日後に偶然フェリクスさんに拾われ、彼の試験を合格してグループに参加したのだ。


フェリクスさんはリーザの願いを二つとも聞き入れてくれた。彼女を下部組織のメンバーとして保護し、また希望通り決して売春はさせなかった。しかしその分、女が役に経つことなら何でもやらせた。スリや詐欺はもちろん、最終的に身体には決して危険がないと約束して美人局をやったこともある。そこでいろいろ知識を吸収し、今やベリーニ次いで安定した収入を得るまでになっていた。


「二人は何で?」

リーザが逆にそう訊いてきた。実は僕とリオンはさほど大きな理由はない。


「俺らは孤児院を出て製糸工場に就職したんだけどさ」

とにかく仕事がキツくて給料が安くていじめもひどくてやってられなかったのだ。丁度その頃リオンは女を知り、給料の半分が一日でなくなるような状況にも耐えられなくなったのだ。


「シオンなんてシーフのほうが良かったんじゃない?」

失礼だなあ。僕は「借りる」だけで決して人のものなんか盗まないよ。ただ返すのを忘れたり返すタイミングを見失ったりするだけ。

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