第8話 怒り人

夕方頃まで行軍して、最初の野営地に到着すると各々野営の準備を始めた。地面を慣らしてテントを設営し、火を熾してお湯を沸かして配られたレーションを戻してもそもそと食べる。当然ながら各グループ同士でまとまっていた。


「なんで誰も助けにこないのよ」

リーザはグループのみんなを見渡してそう言った。


「いやまあ女性のプライベートには口を出さないものだよ」

ベリーニはまるで相手を思いやるようにそう言った。ベリーニはリーザと仲が悪いわけではないが、ホストの彼はプライベートでは女性に全く興味をもっていないのだ。


「いい男はいなかったか?」

リオンはそう言った。いたってイヤに決まってるでしょうがと返した。まあこんなところでナンパされたら割り切りで終わるのは目に見えている。というかどちらかが本気で相手を好きになったらもっと面倒だ。


「おかえり」

ロズワルドが戻ってきたクレイブに声をかけた。おう、と返して一座の中に座った。


「なんか妙な作戦だぞ今回は」

どんな作戦?五人の無言の質問に促されてクレイブは言葉を続けた。


「お目当ては本らしい」

本? 魔導書かなんか? ロズワルドを見たが頭を振った。


「価値のある魔導書なんて素人には持てないよ」

確かに。僕でも読める程度の魔導書なんて活版印刷で普通に本屋で売っている。その程度でも読んでて意味が分からないけど。もちろんもっと高度な魔導書もあるしそれは価値があるものだが、そういうのは色々な封印がされてるものだ。


「じゃあお金にはならない?」

僕はそう訊いた。クレイブはいやそれはないと答えた。


「それはあくまでフェリクスさん自身のお目当てで、お宝は切り取り放題だと」

要するに部隊としての目的はお宝だが、フェリクスさん自身はその本を探しているので間違って汚したり焼いたりするなよ、という意味らしい。なるほどね。


「え、となると大変じゃない?」

ベリーニは疑問を口にした。それはつまりフェリクスさん自身が目的のアジトに侵入するという意味で、そうなったら抜き足差し足では済まないのではないか。


「いや、なんでも目的のアジトは近々強制捜査が入るんだと」

その隙を突いてみんなでバケツリレー的にお宝を運び出すのが今回の概要らしい。そんなにうまくいくのかな? でも思っていたよりは危険はなさそうだ。


「それと目的のお宝はアジトじゃないってさ」

強制捜査が入るという情報は盗賊団も掴んでおり、そのため価値のあるものはせっせと運び出しているらしいとの事だ。では戦闘になっても相手は少数の見張りだけか。


よしよしこれなら割と安全そうだ。サクセス前に死んだらたまったものじゃない。

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