第7話 愚連隊行進曲

戦争中、暗黒騎士は尊敬の対象だった。外征を担当していた彼らは、神聖騎士と違って国民を圧迫したり憎まれたりする事はなく、勇猛果敢に戦うその姿に国民は彼らこそが騎士道の体現者だと称賛した。


「暗黒を冠するものが騎士道を体現し、神聖を称するものが腐敗の温床となる」


週刊紙がそのような見出しを載せるほど両者の立場は逆転しており、それが後の暗黒騎士の凋落に繋がったと聞いた事がある。要するに嫉妬だ。


とはいえそれはシオンが幼い頃の話で、シオンがようやくそういう社会的なニュースを意識する頃にはもう暗黒騎士団も神聖騎士団もなくなっていた。両騎士団は合併して新たに王国騎士団となったという形だが、そのほとんどが元神聖騎士だという。


フェリクスさんは確か36歳くらいのはずなので、10年以上前には多分尉官として日々戦っていたのかも知れない。その頃にはこんな立場になるなんて思いもしてなかっただろうな。シオンはそんなことを考えた。


南門を出てのどかな田園風景を1時間ほども移動すると最初の休憩の号令が飛んだ。目的地は二日ほどの行程らしいのでまだまだのん気な旅気分だ。


「よしみんな集まれ、今回の概要を軽く説明する」

フェリクスさんの号令で下部組織の20人程がわらわらと集まる。


「今回の目的地はミッドウォールだ」

まあ予想通りだった。この方向ならあそこだろうなと思っていたのだ。


ミッドウォールはウォントモリとの国境方面にある交易街で、その立地条件から戦争には巻き込まれず、でも比較的前線から近いので戦争中は兵士たちの歓楽街として賑わった街である。当然というのはおかしいが治安は悪化しており、ならず者のたまり場としてはうってつけの場所だった。


「具体的な作戦は後で近侍に通達する。三名は野営時に俺のテントまで来い」

フェリクスさんは各リーダーをまとめて言い表す時はそう呼ぶのだ。


「まあ予想通りだな」

リオンもそう言った。僕もだが少しほっとしていた。これが荒野にある盗賊の根城などと言われたら死者も覚悟しなくてはならないが、街中ならこちらもあちらも警邏を警戒してそれほどの激戦にはならないだろう。まあ戦闘はあるだろうけど。


「これならロズワルドが活躍してくれそうだな」

ベリーニはそう言った。確かにこういう時は彼の魔法は役に立つ。


「それはどうかな」

ロズワルドは疑問を呈した。もし自分の目くらませ魔法でどうにかなるなら最初からこのグループだけで行動したはずであるという。確かに。


リーザはこの場にいなかった。さっそく他のグループからナンパされている。というか「行軍」中、ずっと何人かからナンパされていた。ひょっとしたら夜はそのままどこかのテントでお盛んな事になるかもね。


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