第6話 やつらの名は
「…あいつらもなのか…?」
「行商なんじゃないか?」
「あの女はちょっといいな」
周りからそんな声が聞こえてくる。悪うございましたね。
一週間はあっという間に過ぎ、なめし革販売の売上を少し残してナイフだけ研いだシオンは、これでも可能な限りの旅装に身を包んでいた。
革の軽い前掛けやグローブとチャップスとブーツ、背嚢には10日ほどは想定した荷物。まあこういうのはシオンは何時でも「借りる」ことができるのだが、揃えてみれば確かに「よく言って旅人」である。
幼馴染であり同居人でもあるリオンにも幾つか「借りて」きたが、彼には小さかったり大きすぎたりで結局前からこういう時に使ってる革鎧を私服の上に装着しているだけである。一応剣は佩いている分だけシオンよりはましかも知れない。
一応それっぽい格好をしているのはリーダーのクレイブだけで、彼だけはそれなりに様になっている。元々クレイブは傭兵活動を収入源にしているので今回の仕事もさほど違和感はなさそうだった。
ベリーニは完全に旅装だった。どうせまた女の子に買ってもらったのだろうが、ぱっと見にはこれからハイキングにでも行くとしか思えない。
ロズワルドはいつもの黒ローブではなく、なるべく目立たない旅装と、一応小剣のような鞘を腰に下げている。魔道士志望の彼は逆にこういう場所で魔法使い然とした格好を好まなかった。
逆にリーザは白い法衣を身にまとっている。これまたこれで素性を隠すためなのかもしれない。ただしフードをかぶっていないので尼僧でないのは一目で分かる。
そんなてんでバラバラな格好しているのは僕らのグループだけで、他の2グループはちゃんと着るものが統一されていた。クレイブああいうの買ってよ。
7時丁度にフェリクスさんが馬に乗って現れた。
「おはよう。我が友よ」
いつも通りの挨拶である。3グループそれぞれちゃんと礼をした。こういう時は上官に対して謙虚に振る舞うほうがなんとなく格が上っぽく見えるのだ。
「じゃあ出発」
静かにそう言って馬を巡らせ南門の前に進んだ。ここは市街だし、正規の軍事行動ではないのであまりおおっぴらな事はできないのだ。
「何者だ!」
門番達は槍を交差させて氏名を問う。
「予備役少佐アルゴス勲爵士である、密命により御免罷る」
おお、と驚きの声を発して門衛達は槍と門を開けた。予備役少佐で勲爵士と言うのは要するに暗黒騎士という意味である。中央では冷や飯食いではあるが、末端の兵士たちには最強部隊の威名とその後の冷遇ぶりは尊敬と同情の対象だった。
「どうぞお気をつけて」
門番はそう言ってくれた。それは尊敬より同情の成分が多かった。というかほとんどの人がそうだった。
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