第4話 ミッション・ディフィカルト

フェリクスさんはいつものように長めの黒髪をそのままにしていた。黒い服は私服の背広だが、どこか暗黒騎士の制服をイメージさせた。見たことはないけど。


「やあ、我が友たちよ」

フェリクスさんは無表情にそう言った。さりげない言葉だがそれがフェリクスさんと僕らの関係を正確に言い表していた。


「我が友」とは正規の暗黒騎士が、その下の準構成員を言い表す言葉である。もちろんこちら側がフェリクスさんにそんな事を言うわけには絶対に行かない。ちなみに正規の暗黒騎士同士の場合は「我等が友」と言う。これは明確な違いがある。


フェリクスさんは僕らの他にもいくつかのグループを配下に収める正規の暗黒騎士だった。つまり軍隊の階級で言えば士官にあたり、僕らはその士官の命令を受ける兵士である。下士官に相当するのは、敢えて言えばクレイブだろうか。


「今月の分です」

クレイブがうやうやしく上納金を差し出す。


「いつもご配慮ありがとうございます」

上納金ではあるのだが、形式上これは寄付という事になっているのでフェリクスさんは座る前に一礼してそれを受け取った。それはわりと優雅な振る舞いで、やはりこの人は正規の騎士なんだなと思った。しかしフェリクスさんが紳士っぽいのは大体いつもこのあたりまでだ。


「おい姉ちゃん、エールだ」

座るなりウェイトレスにコインを投げてぞんざいに注文する。


「お前ら来週から一週間空けとけ」

エールを一口飲むとフェリクスさんがそう言った。仕事だ。


「どんな内容ですか?」

クレイブがそう訊いた。


「盗賊団への強襲だ」

うわあという声はしなかったが、内心みんな同じことを思った。この六人の中で武闘派なのはリーダーのクレイブだけで、あとはかろうじてリオンが人並みには戦える程度である。優男のベリーニ、魔道士希望のロズワルド、女のリーザ、そして僕シオン。四人とも多分武器なんかナイフくらいしか持ってない。


「なあに心配するな」

フェリクスさんはそう言った。


「今回は合同作戦だ。お前らは強奪班だ」

…となるとそれはかなりお宝が多いということで、その分盗賊の数も多いということで、もちろん宝物庫なんかには見張りなんかもいるということでは。


「まあヤバくなったらクレイブとリオン、お前らが何とかしろ」

わあ大雑把。


「詳しいことは後だ。来週月曜日の朝7時に南門前集合。以上!」

そう言うと残りのエールを飲み干してさっさと帰ってしまうフェリクスさんだった。


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