第5話「雪合戦:猿山バージョン・起」
第一に、俺は昨日十時半に寝た。
子供は九時間睡眠が基本である。俺が七時半に起きてもなんもおかしいことはないのだ。
第二に、寝るのが遅くなったのは塾の先生が遅くまで説教して下さったからだ!
よって、遅刻したのは塾の先生に責任がある。俺じゃない!
こう、目の前で小言を言っている先生に目で訴える。先生に侵られている時は目で対抗するしかない。分かって貰えるはずだ。
しかし理性は言う。
ゴジップ追いかけて塾に遅刻したお前が悪いよね?十時までテレビ見てたの誰だっけ?
自分から攻撃されるとは。不意打ちを食らい、、フラフラしながら俺は席に着いた。
席に着くと、隣の奴ら(今日は佐々木除く)が、ドンマイ、みたいな顔で見つめてきた。同情してくれているのか。優しい。
先生が
「ノートとテキストを出せー」
と、俺の遅刻を気にしないような感じである。優しい。
茂と龍人は、こちらを見つつ、目が合うと
「ニカッ」
みたいな感じの顔をしてくる。此奴ら。仁の精神を1から教えなくては。(仁の精神くらい知ってるよ。確かコウシさんの思想でしょ。maybe。)
授業が終わり、先生が出ていったのと同時に餌に群がる鯉のようにみんなが俺の周りに集まる。
「まだ入学してから一か月しかたっていないのに遅刻が3回なんて新記録じゃねえ?」
「俺たちは人を見る目がなかったようだ。」
「また遅刻したね、学級委員長!」
次々に浴びせられる非難の声。野党の追及のようで耳が痛い。野党に避難されている官僚(俺)は、
「記憶にございません」
と、かわすことが出来る訳もなく(現場を見られてしまったのだ)一般の手だとうなだれるしか手段がない。しかし、俺も小学校で問題児扱いされていた男なのでもうひとつのしゅだんがかのうなのだ。
寝たふり。
これが一番有効である。
「うるせえぞお前ら(茂は二回遅刻してたくせに)」
と言い、(カッコの中の言葉を心の中にしまっておいただけ大人である)ねむったふりをするのだった。
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知らないうちに2時間目が始まっていたらしい。隣の奴ー佐々木亮が肘でつついてくれた。
教壇の上では初級催眠術師と呼ばれている南野先生が色々言っていた。眠気を誘っているとしか思えない。
単項式がどーのこーの、負の数があーだのこーだの、0が正の数にも負の数にも属さない云々。
もう寝てもいいかな?分かりやすく言ってちょーだい。先生なんだしさ。
俺のこの入道雲のようにむくむくと湧き上がってくる不満に気づかずに初級催眠術士は話を進めていく。
眠気との戦いに負け、リングに落ちようとした寸前、
「びわが良くなっているな…」
先生がこうつぶやいていた。
俺たちの教室の近くには、学校の裏庭があり、そこには、立派なびわの木がいくつも植えてある。気づいていなかったが、確かに沢山実がなっている。
何気なく茂の方を見ると、ニヤニヤしていた。
この顔ー悪いことを思いついたときの顔だ。この顔になったらろくなことを考えていない。
ここまで考えたところで俺はリングに突っ伏した。
勝負あり。眠気のK.O.勝ちである。
当然この時の俺は気づいてなかった。
この後、このクラス初の反省文を書くやつが出てくるのだった。
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