ひろし、ハイレベルな戦いを目にする

 試合がはじまるとイリューシュは目を閉じ、視界が真っ暗になった。


 スッ……、ザワッ……、カンッ


 遠くから何かの音がすると、突然視界が開けてイリューシュが矢を放った。


 ヒュン……ドッ!


 その瞬間、木の上からプレイヤーが落ち、途中で消滅した。


 ザッ!


 イリューシュは再び音に反応して振り返ると、今度は片手剣の騎士が猛然もうぜんと突きを放ってきていた。


「でやぁぁ!」


「はっ!」


 カンッ!


 しかしイリューシュは軽やかに弓で剣を弾くと、騎士の腹に手を当てて、物凄い速さで呪文を詠唱した。


「大地の力を司りし精霊よ、この者に大地の刃を!」


 ドドドドドドッ!


「うっ!」


 するとイリューシュの手のひらから小さな岩の塊が無数に飛び出し、騎士を後ろへ吹き飛ばした。


 そして素早く矢をつがえ、吹き飛ぶ騎士に弓を引き絞って矢を放った。


 ヒュッ……、ドッ!


 ヒュッ ヒュッ ドドッ!


 さらに、二の矢三の矢を浴びせると騎士は消滅していった。


 イリューシュが新しい矢を手に取ると、今度はイリューシュの目の前に召喚士しょうかんしの魔法陣が現た。


 ブゥー……ン


 そして、魔法陣の中から体の半分が機械で出来た戦斧いくさおのを持つ大男が召喚された。


「ふふふ。軍神零式ぐんじん、ぜろしき。なつかしいですね」


 イリューシュが静かに呟くと、召喚された軍神零式は目を光らせて戦斧を力強く振り下ろした。


 ブンッ!


 スッ……


 イリューシュは素早く反応して斧を横によけると、軽やかにステップを踏んで矢を2本放った。


 ヒュッ、ヒュッ……、ドドッ!


 イリューシュの矢は正確にヘッドショットを決めたが、零式は何事も無かったように体を回転させた。


 そして目を光らせると雄叫おたけびびを上げながら豪快な水平斬りを放った。


「ウォォオオオオ!!」


 ブンッ!!


 イリューシュは再び冷静に下がって戦斧をよけると、膝をかがめてから一気に走り込み、スライディングして零式の股の下を抜けた。


 ズァァァアアアア!


 そして、零式の背後に回ると軽やかにステップを踏んで反転し、零式の最大の弱点、後頭部の制御ユニットへ矢を放った。


 ヒュッ、ガンッ!


 パパン!


 後頭部の制御ユニットは正確に射抜かれて破裂し、さすがの零式も大幅にHPを減らしてひざをついた。


 ガオン……


 予想外の大ダメージに驚いた零式の召喚主は、零式を魔法陣に戻そうと詠唱を始めた。


「……ゥ…ッ………ィ……」


 イリューシュは、かすかに遠から聞こえる詠唱を聞き逃さなかった。


 ヒュッ ヒュッ ヒュッ!


 ドッ ドドッ……


「うっ!!」


 イリューシュは音のするところへ矢を3本放つと、隠れていた零式の召喚主に3本とも命中させた。


 「くそっ、この場所がバレるなんて!」


 召喚主はくやしそうにそう言うと、零式と共に消滅していった。



 この凄まじい速さで展開するバトルを見ていためぐたちは、バトルがあまりにも高度すぎて驚きを隠せなかった。


 アカネは目を輝かせて興奮しながら大声をあげた。


「すげー! こんなバトルしてみたいなー!」


「すごいよね! わたしも早くベテランクラスで戦ってみたい!」


 めぐが嬉しそうに言うと、おじいさんもウンウンと頷いた。



 この時、すでにほとんどのプレイヤーが脱落していて、残り13人になっていた。


 イリューシュは森の道を進むと、今度は前から珍しい装備をしたプレイヤーが現れた。


 そのプレイヤーはイリューシュの前まで静かにやって来ると、イリューシュに一礼した。


 それを見たイリューシュも一礼して話しかけた。


「ふふふ。魔術武闘家さんですね。よろしくおねがいします」


「ふっ。その余裕は普通じゃないですね。よろしく頼みます」


 魔術武闘家はゆっくりとファイティングポーズをとると、詠唱をしながら地面に向かって拳を打ち付けた。


「全てを焼き尽くす魔神よ、我に灰塵に帰す力を与えたまえ!」


 すると、地面に炎が巻き起こり、一直線にイリューシュを狙った。


 ブォォオオ!


 イリューシュは美しくステップを踏んで避けると、魔術武闘家は素早く踏み込んで飛び上がり、勢いを乗せた空中回転回くうちゅうかいてん、まわりを放った。


 ブワッ……、ガンッ!


 しかしイリューシュは即座に反応して弓で攻撃を受けると、素早く右手を後ろへ引き、なんと手刀で魔術武闘家の首を突いた。


 ドッ!


「うぐっ!」


 魔術武闘家は予想外の攻撃に思わず大きく後ろへ下ると、少し考えてイリューシュに言った。


「ふっ。これは恐れ入りました。やはり、あなたは普通ではないですね。ぜひベスト8の闘技場で戦いたい。この挑戦受けて頂けますでしょうか」


 イリューシュは笑顔で答えた。


「はい喜んで。ふふふ」


 それを聞いた魔術武闘家は、会釈えしゃくをして森の中へ消えていった。


 ◆

 

 それからしばらくすると、アナウンスが流れた。


『さぁ~、とうとうプレイヤーが脱落していってベスト8になりました! みなさん一旦戦闘をストップしてください! 闘技場へ移動しますよ~……Go!』



 イリューシュたちは闘技場に移動すると、8人がそれぞれ円を描いて立っていた。


 イリューシュが周りを見渡すと、先ほど戦った魔術武闘家、騎士が3人、弓使いがイリューシュを含め3人、そして最後に珍しい職業の賢者がいた。


 賢者は魔法使いか僧侶から転職でき、魔法使いなら4つすべての属性をマスターし、僧侶なら司教、大司教と転職する必要があった。


 そして、賢者になった後もステータスを上げなければ戦えないという、非常に難しい職業であった。


 すると外国人らしき賢者のプレイヤーが呟いた。


「Oh my. I'll waste my time. (まじか。時間を無駄にするわ)」


 イリューシュはそれを聞いて答えた。


「Do you really think so? There are some great players here.(本当にそう思いますか? ここには素晴らしいプレイヤーも居ますよ)」


 それを聞いた賢者はイリューシュを指差して言った。


「Shut up, loser. (雑魚は黙ってろ)」



『さぁ~て、ヒートアップしてきました! ではそろそろ試合を開始しますよ~! では~……。試合~開始!』


 試合開始のアナウンスが響いた瞬間、賢者は何重にも連なった魔法陣をイリューシュの上に出現させて、複雑な詠唱を唱え始めた。


 ヒュッ!


 しかしイリューシュは笑顔になりながら賢者へ矢を放つと、詠唱を中断された賢者は舌打ちをして片足を踏み鳴らした。


 ドンッ!

 カッ


 すると詠唱も無く魔法の氷の壁ができてイリューシュの矢を弾いた。


 しかしその瞬間、魔術武闘家がすでに賢者の死角に入り込んでローキックを放っていた。


 バッ!


 それを見た賢者は冷静にローキックをかわすと、魔術武闘家はニヤリと笑って上を指差した。


「Huh!?(はぁ?)」


 賢者が上を見ると、なんと空からイリューシュたち弓使いが放った曲射きょくしゃの雨が一斉に賢者を狙っていた。


「Damn it! (くそっ!)」


 賢者は不意を突かれ、あせって詠唱を続けようとしたが、すでに魔術武闘家が美しい姿勢でハイキックを繰り出していた。


 シュッ…… パンッ!


 ハイキックは曲射の雨の狭間はざまって正確に賢者のアゴの先をとらると、賢者は脳震盪のうしんとうを起こして体をガクつかせながら倒れた。

 

「Jeez……」


 ドサッ


 ヒュッ ヒュッ ヒュッ ヒュッ ヒュッ


 そこへ弓使いたちが放った矢が何度もヘッドショットを決めると、賢者は消滅した。

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