ひろし、驚愕する

『さぁ~、お待ちかね! ベテランクラスが始まりますよー!』


「「「わーーー!」」」


『さて、ベテランクラスは人数が多いので、今回も闘技場で選抜戦を行います! では、10人ずつに別れて~、転移っ!』


 ベテランクラスのプレイヤーはランダムに10人ずつに別れて、それぞれが闘技場に転移した。


 その時、めぐはイリューシュにボイスチャットを繋いで尋ねた。


「イリューシュさん、お忙しいところゴメンなさい。もし良かったら視聴リクエストしてもいいですか? ベテランクラスの戦いを見たくて……」


 するとイリューシュは優しい声で答えた。


「はい、構いませんよ。ひろしさんも見ますか?」


 イリューシュが視聴を許可すると、めぐの視界にはイリューシュの視界が映し出され、美しい弓を持つイリューシュの腕が見えた。


 めぐはおじいさんに視聴リクエストのやり方を説明した。


「おじいちゃん、右下のフレンドからイリューシュさんを押してみて」


「あ、はい」


「そしたら、視聴リクエストっていうのを押してみて」


「あ、これですね。はい」


 おじいさんの視界にはイリューシュの視界が映し出された。


「あぁ、これはすごいですね!」



 しばらくするとアナウンスが流れた。


『さて、みなさん準備ができたみたいですので、始めましょう! 予選~開始っ!』


 イリューシュは闘技場の端をゆっくり歩きながら照準を合わせると次々と矢を放った。


 そして矢はすべて完璧なヘッドショットで会心ダメージを与え、一気に4人を仕留めた。


「……」


 おじいさんとめぐは、あまりの技の正確さに口を開けて見守った。


 その時、一人の弓使いがイリューシュに向けて矢を放ったのが見えると、イリューシュは物凄い早さで詠唱をした。


「大地の力を司りし精霊よ、我が身を守り給え」


 するとイリューシュの目の前の空中に直径50cmくらいの岩が現れて矢を防いだ。


 そしてイリューシュは岩の下に滑り込んで岩の前に出ると、そのまま低い体勢から矢を放った。


 ヒュッ……ドッ!


「ぐわっ!」


 矢は一直線に飛んでゆき、正確なヘッドショットを決めて弓使いを倒した。


 イリューシュが立ち上がると、この時すでにイリューシュと武闘家の2人だけになっていた。


「すごい! イリューシュさんすごい!」


 めぐが声を上げると、イリューシュは優しく答えた。


「ふふふ。ありがとうございます」


 イリューシュはボイスチャットで話しながら弓を引いて構えると武闘家の頭に狙いを定めた。


 バッ……、カンッ!


 そして横へステップしながら矢を放つと、武闘家は素早く斜め前にかがんで矢を避け、そのまま大きく踏み込んでローキックを放ってきた。


 バッ!


 しかしイリューシュは、新しい矢をつがえながらジャンプしてローキックをかわすと、そのまま武闘家の側面に着地した。


 ザッ ザザッ


 そして軽やかなステップで体を武闘家のほうへ向けると、弓を引き絞って素早く矢を2本放った。


 ドッ! ドッ!


 矢は2本ともヘッドショットを決め、イリューシュの視界に「Win!」の文字が表示されると武闘家は消滅していった。


 そしてイリューシュが「決勝バトルへ進む」の文字を押すと、視聴リクエストが解除され、おじいさんとめぐの視界が戻った。


「こりゃぁ、おどろいたなぁ」


 おじいさんがビックリした顔をしていると、めぐも驚いて言った。


「イリューシュさん、弓も凄いけど魔法も使えるなんて……」


 するとアカネがめぐに話しかけてきた。


「イリューシュって人、凄いの?」


「うん。すごく上手な弓使いなのに魔法も使えるの」


「へぇ、そりゃ凄いな!」


「あ、そういえば、アカネさんって無職だよね。でも、何で無職にしたの?」


「あたし? あたしずっと柔道やってたんだけどひざ怪我けがしちゃってさ。で、先輩のすすめでこのゲーム始めたんだ」


 アカネは少し自分のひざを見つめると話を続けた。


「このゲームで素手で戦える職業って無職くらいしかなくてさぁ」


「武闘家じゃダメだったの?」


「あたし、なぐるは出来ないから。投げるの専門!」


「へぇー、かっこいいね! 早くひざの怪我が治るといいね」


「そうなんだよなぁ。なんか時間かかるみたいでさぁ。感覚だけは忘れないようにゲームで鍛えてるんだ」


「それはグッドアイディアだね!」


「そうだろ!」


「「ははははは」」

 

 アカネとめぐはお互いに笑い合った。


 するとその時、めぐはアカネにおじいさんを紹介するのを忘れている事に気づいて、慌てて紹介した。


「あ、忘れてた! こちらのおじいちゃんは、ひろしさんです。フレンドなの」


 紹介されたアカネは慌てて挨拶した。


「どうもっす。アカネです」


「すみません、自己紹介が遅くなりました。ひろしです。宜しくお願いします」


 アカネとおじいさんはお互いに頭を下げると、アカネがおじいさんに話しかけた。


「じいちゃん、さっきはカッコよかったよ。建物壊しちゃうなんて最高じゃん!」


「いやぁ、大変お恥ずかしい。ははは」


「あ、そうだ。じいちゃんフレンド申請を送ったよ! 友達になろうよ」


「これはこれは、ありがとうございます」


 アカネがおじいさんにフレンドリクエストを送ると、会場にアナウンスが流れた。


『さぁ~、決勝戦がもうすぐ始まりますよ。今回の試合会場はぁ~、森だ!』


 すると大画面の左側に森が映された。


 めぐは試合が始まりそうだったのでイリューシュにボイスチャットで話しかけた。


「イリューシュさん、さっきは凄かったです! またおじいちゃんと一緒に視聴リクエストしてもいいですか?」


「ええ、もちろんですよ。ふふふ」


 めぐとおじいさんは視聴リクエストを送ると視界がイリューシュになった。


 するとアカネがめぐに話しかけた。


「あたしもイリューシュさんに視聴リクエストできないかなぁ。すごい人のバトルって見てみたいんだよな」


「うんわかった、ちょっと聞いてみるね」


 めぐはイリューシュにボイスチャットで話しかけた。


「イリューシュさん、決勝前にごめんなさい。わたしのフレンドさんが視聴したいみたいなんですけど、いいですか?」


「ええ、もちろんですよ」


 めぐはフレンド紹介機能でイリューシュにアカネのフレンド申請と視聴リクエストを転送した。


 すると、すぐにアカネのフレンド申請と視聴リクエストが受理されて、アカネもボイスチャットに参加した。


「はじめまして、アカネっす! イリューシュさん、勉強させてもらいます!」


「アカネさん、はじめまして。宜しくお願いしますね。ふふふ」


「いやー、イリューシュさん上品な女子のしゃべり方っすね。いいなぁ」


「「ははははは」」


 それを聞いたみんなは思わず笑ってしまった。


 ◆


『さぁ~、決勝バトルの準備をしてください! 決勝進出者たちは森の中へお願いします!』


 するとイリューシュはゆっくりと道を進んで真ん中に立つと、めぐたちに優しく言った。


「ごめんなさい、決勝バトル中はボイスチャット切りますね。わたし耳が命なんです。ふふふ」


「はい、頑張ってください!」


 イリューシュはそれを聞くと右手を振ってボイスチャットをオフにした。



『どうやら準備が整ったようです。では~、ベテランクラス~……試合~開始っ!』

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る