ひろし、イベントに参加する

 おじいさんはイリューシュと話していると、おじいさんの視野の右下に文字が表示された。


『めぐさんがオンラインになりました』


 ーーーーーーーーー

 フレンド


 イリューシュ

 めぐ

 ーーーーーーーーー


 おじいさんはそれに気づくと、イリューシュに言った。


「あ、もしかしたら、めぐちゃんが来たかもしれないのですが時計台に行っても宜しいでしょうか」


「ふふふ、昨日のお友達ですね。良かったら、わたしもご一緒してもよろしいですか?」


「ええ、はい。もちろんです」


 おじいさんとイリューシュは一緒に時計台へ向かった。



 時計台に着くと、めぐが少し暗い表情で待っていた。


 めぐは、おじいさんを見つけると駆け寄ってきて頭を下げた。


「おじいちゃん、ごめん! 今日のイベント最低3人必要なの。だから、とっても強いフレンドに来てもらう事になっていたんだけど……、休日出勤になっちゃって……」


「ははは。いえいえ、わたしは構いませんよ。またカフェにいきませんか?」


 おじいさんが笑顔でそう言うと、おじいさんと一緒にいたイリューシュめぐに話した。


「もしゲーム時間500時間以上のベテラン・メンバーが必要でしたら、わたしがお手伝いしましょうか」


「えっ、本当ですか! ちょうど500時間以上のメンバーが欲しかったんです。お願いしてもいいですか」


「ふふふ。もちろんです」


「ありがとうございます!」


 こうして、めぐとイリューシュはフレンドになり、チームが結成された。


 ◆


 めぐはイリューシュとしばらく話をすると、初心者のおじいさんにイベントの説明を始めた。


「おじいちゃん今日のイベントはね、ゲームのプレイ時間ごとにクラスを分けてバトルロイヤル方式で戦うの。おじいちゃん、左下のイベントってボタン押せる?」


 おじいさんは「?」になりながらもコントローラーで「イベント」ボタンを押した。


 ーーーーーーーーーーーーーーー

 【サンデー・バトロワイベント】

 フレンド同士で結成したチームでステータスポイントをGETしよう!


 クラス:プレイ時間ごとに以下の3クラスに分けて戦います


 1)50時間未満のビギナークラス

 2)50時間~500時間未満のミドルクラス

 3)500時間以上のベテランクラス


 参加資格:3人以上のフレンド・チームで各クラスに参加可能であること


 順位計算:各クラス三位までの入賞者に点数を割り振り、チーム全員の合計点で争います。


 ただし、三位以内に同じチームのプレイヤーが入った場合は高い方の得点だけが加算されます。


 クラス優勝:300点

 クラス二位:200点

 クラス三位:100点


 賞品:三位までのチームに下記のステータスポイントを進呈します


 優勝チーム:チーム全員に100p

 二位チーム:チーム全員に70p

 三位チーム:チーム全員に50p


 なお、イベント中はリスポーンしてもステータスポイントは奪われません。

 ーーーーーーーーーーーーーーー


 おじいさんが「??」になっていると、めぐが話しかけた。


「おじいちゃん、簡単に言うとイベントが始まったら全員が敵でね、敵を倒して最後まで生き残ればいいの」


「あぁ~、そうですか。わかりました」


 おじいさんは笑顔になると、時計台からアナウンスが流れた。


『みなさん、こんにちは! 運営のタックです! 今日もバトロワイベント、楽しんでいきましょう!』


「「「わーーー」」」


 プレイヤーたちから歓声が上がった。


『では、チームリーダーの皆さん、エントリー開始ですよー!』


 その言葉にめぐは手で視界のパネルを操作してエントリーを完了させると、おじいさんの視界の左下に文字が表示された。


『チームめぐ:ビギナークラス・ひろし』


「おじいちゃん、これでエントリー完了だよ。一緒にがんばろうね」


「はい。イリューシュさんも宜しくお願いします」


「ええ、頑張りましょう」


 めぐたちはみんなで握手をし合うと、めぐは杖の選定やアイテムの準備、イリューシュは弓の調整を始めた。


 おじいさんは、地面に落ちている大きめの石をできるだけ拾ってジャージのポケットに入れた。


 ◆


 参加者が準備を終えるとタックのアナウンスが流れた。


『どうやら時計台広場の全員がエントリーしたようなので、早速イベントを開始しましょう! 転移しますよ~、Go!』


 時計台広場にいたプレイヤーたちは一瞬にしてビギナークラスの試合会場へと移動した。


 試合会場は二階建てのレンガ造りの建物で、ビギナークラスのプレイヤーたちは建物の前にある広い場所に集められた。


 空中には大きな画面が現れ、参加者全員の名前が表示されて横には「生存中」と表示された。


『では~、ビギナークラスのみなさん。建物の中で準備を始めてください!』


 アナウンスが流ると、ビギナークラスの参加者たちは次々と建物に入り、戦いやすい位置を探し回った。


 しかし、おじいさんはゆっくりと建物に近づき、入口の手前で止まった。


『おおっと、ひろし、さん。そこで大丈夫ですか~』


 おじいさんはアナウンスに向かって大きな声で答えた。


「はい! 練習してから入りますので!」


『はっはっはっは。いいですね~。初心忘るべからず。ビギナークラスの鏡です! では準備が整ったみたいですので始めましょう……。ビギナークラス!! 試合開始!!』


 プァァアアア!


 試合開始の合図が鳴ると、おじいさんは練習のために地面に転がっていた野球ボールくらいの石を拾い上げた。


 そして頭のイメージをゲームの中の自分に没入させて投球姿勢を整えると、甲子園のマウンドをイメージしながら大きく振りかぶった。


 スッ……


 そして静かに息を吐くと、全力を込めて石を壁に投げつけた。


 ブンッ!

 シャッッ……


 ドゴォォオオオォォオオン!!


 するとなんと、おじいさんが投げつけた石は建物の壁にぶつかって破裂し、壁を爆発させたかのように崩してしまった。


 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ


 そしてさらに、壁が崩壊した建物は連鎖するように崩れてゆき、最終的には建物の半分以上が崩れてしまった。


 ゴゴォォォン!!!


『ええーーー! ひろしさん、予想外すぎる攻撃ーーー! 建物の弱いところを外部から破壊したーー!!』


 アナウンスが興奮気味に叫ぶと、空中の大きな画面に表示されていたプレイヤーたちはほどんと「脱落」になり、「生存中」は6人だけになった。


 ワァァァアアアア!!!


 会場全体は一瞬にして驚きに包まれた。が、一番驚いていたのは、おじいさんだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る