ひろし、初めて戦う

 おじいさんは、めぐと節子さんに教えてもらいながら、どうにか自分のアバター(ゲーム内の分身)と画面の操作のしかたを覚えた。


 すると、遠くから見ていた数人の若者たちのうち、一人がおじいさんに近づいてきて話しかけてきた。


「なぁ、さっき走ってきてぶつかっただろ? このアクセサリー壊れちゃったんだけどさぁ。弁償してよ。100プクナ」


「あぁ、これは大変申し訳ありませんでした。どうやって100プクナをお渡しすれば良いのでしょうか」


「右上にあるアイテム欄の横にさぁ、オプションってあるだろ?」


「はい」


「その中にプクナを渡すってあるだろ?」


「はい」


「で、『近くのプレイヤー』ってとこからデオリって選んでよ」


「はい」


 ポーン


『デオリさんに100プクナ送金しました』


「はっはー! ありがとうな、じいさん!」


 デオリは嬉しそうに走り去ると、おじいさんは去っていくデオリに深々と頭を下げた。


 すると、それを見ためぐはおじいさんに忠告した。


「ひろしさん、えっとね、あんまりプクナをあげちゃダメだよ」


「あ、すみません。わたしがご迷惑をかけてしまったので……」


「うん。でもね、あの人嘘ついてると思うんだ」


 すると、ひろしは笑顔で答えた。


「ご忠告、ありがとうございます、めぐさん。めぐさんは優しいですね」


 それを聞いためぐはクスリと笑うとおじいさんに言った。


「うふふ。ひろしさんて本当に優しいのね。ねぇ、ひろしさん。おじいちゃん、って呼んでいい?」


「ははは、構いません。わたしはおじいちゃんなので」


「えっとね……。わたしね、自分のおじいちゃんがとっても優しくて大好きだったんだ。でも小さい時に病気で……。……ひろしさん、おじいちゃんに似ていて……」


 それを聞いたおじいさんは少し悲しい表情を見せたが、すぐに笑顔になって話しはじめた。


「そうですか。でも、めぐさんのおじいちゃんは、今ごろ天国でめぐさんの自慢をしてらっしゃいますよ。こんなに優しくて素直なお孫さんですから」


 それを聞いためぐは小さくうなずくと、おじいさんを見て安心したように笑顔になった。


「おじいちゃん、今日このゲーム始めたばかりなんでしょ?」


「はい」


「じゃあ、一緒にカフェに行かない?」


「カフェ?」


「うん!」


 めぐは、おじいさんを近くのカフェへ連れて行った。



 おじいさんとめぐはカフェの中に入ると現実世界の喫茶店と同じように、コーヒーやケーキを楽しんでいる人たちがいた。


 めぐは戸惑っているおじいさんに話しかけた。


「おじいちゃん、この世界の食べ物は、ちゃんと味がするんだよ。今日は、わたしが御馳走ごちそうするから好きなものたべてね」


 おじいさんは、それを聞いて慌てて答えた。


「いえいえ、わたしは……がちゃ? ……でプクナをたくさん頂きました。今日は色々教えて貰ったお礼に御馳走ごちそうさせてくれませんか?」


 すると、めぐは一瞬戸惑いっしゅんとまどったが嬉しそうに笑って大きく頷いた。


「ありがとう、うれしい! じゃあ、チョコレートパフェ頼んじゃおうかな! おじいちゃんは?」


「え? ええと……」


 おじいさんはメニューを覗き込むと、抹茶ケーキを注文することにした。


 ◆


 しばらくすると、注文した抹茶ケーキと、チョコレートパフェがやってきた。


 それを見ためぐは目を大きくして笑顔になると、おじいさんに言った。


「おじいちゃん、ありがとう! じゃあ……、いただきまーす! はむっ」


 おじいさんは、嬉しそうにチョコレートパフェを頬張るめぐを見て笑顔になると、自分も抹茶ケーキをフォークですくい上げた。


 そして半信半疑で一口頬張ひとくちほおばると味がすることにとても驚いた。


「……これは、おいしいですね」


「でしょ、おじいちゃん。おいしいよね」


 めぐは笑顔で答えると、おじいさんに気になることを聞いてみた。


「そういえば、おじいちゃん。職業ってなに?」


「ええと、無職です」


「えっ!? 無職選んだの?」


「はい」


 おじいさんは笑顔で答えると、めぐは慌てて説明した。


「おじいちゃん、無職ってこの世界だと、何にも武器が持てないんだよ」


「武器? ははは、そうですか」


 おじいさんは特に気にする様子もなく抹茶ケーキを頬張った。


 めぐは、おじいさんを心配しながら、しかし気遣きづかいながら説明をした。


「おじいちゃん、無職はアクションゲームが上手な人たちだけしか選ばないんだよ。とっても難しい職業で環境生物とか、地形ダメージとか……」


 しかし、おじいさんがキョトンとしながらめぐの話を聞いていると、めぐは我に返って笑顔になった。


「あっ、でも……、選んじゃったんならしょうがないよね。私が一緒にいるから、助けるね」


 おじいさんは、その言葉を聞くと嬉しくなった。


「ありがとうございます。めぐさん、本当にありがとう」


 嬉しそうなおじいさんの笑顔を見ると、めぐも嬉しそうに答えた。


「大丈夫だよ。おじいちゃんは絶対助けるから。わたし、魔法使いなんだ! あと……、えっと……、めぐちゃん、って言ってくれたら嬉しいな」


 それを聞いたおじいさんは、笑顔になって答えた。


「はい、めぐちゃん」


 おじいさんがそう言うと、めぐは満面の笑みを浮かべた。



 ガタン!!


 その時、カフェに数人の若者が入店し、おじいさんのところへやってきた。


「なぁ、じいさん。さっきぶつかってきたの、じいさんだろ? 俺さぁ、大事な剣が折れちゃったんだけど」


 そう言うと若者が折れた剣を差し出した。


 すると、めぐが立ち上がって若者に言った。


「おじいちゃんがぶつかっただけで、剣が折れるわけがないでしょ!」


 それを聞いた若者は答えた。


「うるせぇ」


 若者がめぐをにらみつけると、おじいさんが若者に話した。


「これは、すみませんでした。おいくらでしょうか」


 すると若者は薄ら笑いを浮かべながら答えた。


「1万プクナ」


「……ええと、すみません……。あと2000プクナしか持っておりません」


「はぁ? 足りねぇじゃねぇか! そっちの女はいくら持ってるんだ?」


 若者はめぐを指差すと、めぐは若者の目を見て言い返した。


「あなたたち、さっきのデオリって人の仲間でしよ」


「は? だったら?」


「運営に通報します」


 すると、カフェの外からも若者たちが入ってきて二人を取り囲むと、若者は舌打ちをして、めぐに言った。


「チッ。運営なんて無能だろう? ぜんぜんバレねぇんだよ。ちょっと、町の外まで来いよ」


 おじいさんたちは若者に囲まれると、めぐと一緒に町の外へ連れて行かれてしまった。


 ◆


 町の外へ出ると若者が大きな声で言った。


「金は許してやるよ。そのかわりステータスポイントをもらうぜ。町の外なら殺し放題だからな!」


 それを聞いためぐは、顔をこわばらせたまま硬直した。


 おじいさんは、深々と頭を下げながら若者たちに言った。


「どうか、許してもらえませんか。わたしが差し上げられるものなら、いくらでも差し上げます」


 しかし、若者たちは笑って答えた。


「じいさん、金ねぇんだろ? じゃあ死ね」


 若者たちは一斉に襲い掛かってきた。

 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る