ひろし、フレンドができる

 ポイントの割り振りが終わると、節子さんがおじいさんに話しかけてきた。


「今度は、ひろしさんの外見を決めるよ!」


 すると、画面にはたくましい若い男性が表示された。


「わたしの外見ですか? ははは、わたしは75歳の老人ですので」


 おじいさんがそう言うと、画面には渋い顔の髭をたくわえた老人が映し出された。


「いやぁ、わたしはそんなに男前ではありませんので。ははは」


 すると節子さんが言った。


「では、顔と体をスキャンするね。目をつむってね!」


「あ、はい」


 おじいさんが目をつむるとVRグラスから一瞬光が発せられた。


「終わったよ! これでいいかな?」


 おじいさんの目の前には、おじいさんの顔が映し出された。


「ああぁ、これはわたしです。宜しくお願いいたします」


「これで決定でいいかな?」


「はい、お手数をお掛け致しました」


 おじいさんは節子さんに深々と頭を下げると、また大きな時計台の前に戻ってきた。


 設定を終えたおじいさんの頭の上には「ひろし」と表示され、沢山の人たちで町は賑わっていた。


 すると再び節子さんが現れて説明をはじめた。


「頭の上に名前がある人たちはプレイヤーで、名前の無い人たちはNPC(AI制御の非プレイヤー)だよ!」


「ええと、N……、EC……??」


「多くの人はプレイヤーネームを非表示にしているけど、する?」


「え、あ、ええと、はい……」


「非表示にしたよ! でも『近くのプレイヤー一覧』には表示されるから気をつけてね!」


「あ、はぁ……」


 よく分かっていないおじいさんを横目に、節子さんは笑顔で話しを続けた。


「ここは始まりの村ピンデチ。町や村では戦闘は出来ないけど、外に出たらプレイヤー同士も戦闘できるので気を付けてね」


 節子さんがそう言うと、おじいさんの視界の左側にHPとMPが表示され、その下にミニマップ、そして右上にアイテム欄が表示された。


「左側のHPが無くなると、この大きな時計台の前にリスポーン(復活)するよ。でもリスポーンすると、とっても痛いから気をつけてね!」


「リスポ?」


「それと、ひろしさんが倒されたとき、相手がプレイヤーだった場合はステータスポイントを奪われちゃうから、それも気をつけてね!」


「はぁ」


 おじいさんは何が何だか全く分からない。


「相手がモンスターだった場合は、倒された場所にステータスポイントが落ちてるから回収してね!」


「ステー……?」


「うん、そうだよっ! それとね、今、初心者応援キャンペーンで無料のガチャが10回引けるんだ!」


「がちゃ?」


「そう! コントローラーの丸ボタンを押してね!」


「え、ええと、これかな?」


 すると、ガチャが自動で10回引かれた。


 鉄の剣 ★★

 鉄の剣 ★★

 魔導士の書 ★★

 限定ジャージ ★★★

 プクナ 1000p ★★★

 鉄の盾 ★★

 プクナ 100p ★★

 魔導士の杖 ★★

 復活チケット ★★★★

 ステータスポイント 1000p ★★★★★


「ひろしさん、すごいよ! ★4の復活チケットは死んでも復活できるアイテムだよ! ★5のステータスポイント1000pは大当たり!」


「あぁ、そうですか。これは#大層__たいそう__#なものを頂きまして」


 おじいさんは節子さんに深々と頭を下げた。


 すると節子さんはおじいさんに尋ねた。


「さっそく1000pのステータスポイントを割り振る?」


「あ……、はい?」


『1』


『0……00000000000000』


 ガチャガチャ……


 結局こうなってしまった。


 物理攻撃力 1100

 魔法攻撃力 なし

 物理防御力 0

 魔法防御力 0

 素早さ   0

 器用さ   0


 プクナ 2100p


 ステータスの割り振りが終わると節子さんが説明した。


「プクナはこの世界の通貨だよ! 最初に配布される1000pとガチャでGETした1100p、あわせて2100pが使えるよ!」


「ぷく……?」


「ひろしさんは、武器をGETしたけど、職業が無職だから装備できないんだ。ごめーんね!」


「あ、はい。これはどうも、すみません」


「でもね、限定ジャージは着れるよ。着る?」


「あ、では、せっかく頂きましたので」


 おじいさんは#小豆色__あずきいろ__#のジャージを装備した。


「じゃあ、歩いてみるよ! 脳波でイメージするか、左のレバーを動かしてね!」


 おじさんはコントローラーの左レバーを動かしてみた。


 VR世界では小豆色のジャージを着たおじいさんがフラフラと歩き出し、周りのプレイヤーたちは驚いて道を開けた。


「つぎはR2ボタンを押して走ってみるよ!」


 おじいさんは良くわからない。


 するとコントローラーの画像が表示されて、R2ボタンの場所が赤く光った。


「あぁ、このボタンですね」


 スタタタタタタタ


 すると小豆色のジャージを着たおじいさんが一直線に走り出し、他のプレイヤーたちにぶつかりながら物凄い勢いで走り続けた。


「あぁ、すみません。すみません。すみません」


 おじいさんは謝りながら走り続け、最後は建物の壁にぶつかると引っかかって止まった。


 しかし、壁に向かって走り続けたまま止められなかった。


 その時、それを見ていた女の子が慌てて駆け寄ると、おじいさんに話しかけた。


「だっ、大丈夫ですか?」


「あぁ、すみません。慣れないものでして。ははは」


 女の子は壁に向かって走り続けるおじいさんを見てクスッと笑いながら説明をした。


「うふふ、初心者さんですね。もし、コントローラーで操作してたらコントローラーから手を離してみてください」


 それを聞いておじいさんはコントローラーから手を離すと、VR世界のおじいさんは立ち止まった。


 おじいさんはホッとすると、一息ついて女の子に話しかけた。


「これは大変助かりました。ありがとうございます」


 おじいさんは深々とお#辞儀__じぎ__#をすると、VR世界のおじいさんも深々とお辞儀をした。


「うふふ。本当におじいさんみたいですね」


 女の子がそう言うと、おじいさんは笑顔で答えた。


「はい、75歳の老人です。どうぞ宜しくお願いいたします」


 すると女の子は一瞬驚いたが、すぐに笑顔になって話しかけた。


「こちらこそ、宜しくお願いします。わたし、めぐっていいます」


「あ、ありがとうございます。わたしは、ひろしです」


 こうして、おじいさんは初めてフレンドが出来たのであった。

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