第9話 さるぐつわおいしい

「今日は一日しっかり働いたから、ご飯はちょっと豪華にいこうかな」


 一日のご褒美、夜ご飯はしっかり食べる。それがフレッドの流儀。

『きょうは疲れたから、ご飯は適当でいいか』とはならないあたりが、生真面目な彼らしい。



 フレッドも、ただ真面目だからというだけで夕食を作っているわけではない。


「やたっ!」


 フレッドの言葉を聞いて、ソフィアがガッツポーズと共に笑顔を咲かせる。世話好きのフレッドにとっては、これ以上ないご褒美だ。



 今日のディナーはローストチキン。朝のうちに仕込みを済ませておいたので、あとはそれほど手間はかからない。

 飛び込み参加のアベルの分は……実は既に用意してあったりする。アベルの急な行動は日常茶飯事だ。ただ、アベルがこの辺りに引っ越してきたのはつい数週前。一緒に夕食を囲むのは何年振りになるだろうか。



「……フレッドって、用意が良すぎてたまに怖いですよね。なんでもお見通しなんじゃないかって」


 気がつくと、ソフィアがフレッドの肩越しに……は身長的に無理なので体越しに手元を覗いていた。


「私もなにかおてつd——」


「登山の荷物片付けそびれたから、片付けお願いしていい?」


「了解です!」


 リュックサックを言い訳に、話を逸らす。

 おっちょこちょいのソフィアを台所に立たせたら、心臓がいくつあっても足りない。



 朝のうちにタレに漬け込み、気温の低い床下で寝かしておいた鶏肉を取り出して、オリーブオイルを引いたフライパンに載せる。

 焼き色がついたら、漬けダレを加えて蓋をする。


 鶏肉を蒸し焼きにしている間に、サラダを用意する。



「他になにか手伝えること……むぐっ!?」


 片付けを終えて戻ってきたソフィアの口に揚げたてのフライドポテトを突っ込んで、完成した料理をテーブルに運び始める。


「おいしい?」


「ふぉいひいぇす!」


 ソフィアがモゴモゴと喋ったそのタイミング。

 ドアがバーンと開いて、


「たのも——わっふゎっふぁっふぁ」


 どあをばーんとあけたあべるがさっととびだしたあるふれっどにくちにみにころっけをつめこまれてもがいた。早口言葉。地味に登場する三品目。


「今度から鍵閉めるようにしようかな」


「あ、美味しい。……アルって俺にだけ辛辣だよな」


「アベルのコロッケ詰めがなんか言ってる」


「人を食べ物みたいに!ピーマンの肉詰めみたいに!」

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