第8話 闇取引

「えっ、マジで見つけてきたの!?」


 これが、サンドロップを手渡された依頼主、アベルの第一声。


「自分で依頼しといてそれ……?」


 呆れるフレッドの目線の先にいる亜麻色の髪の男アベルは、「はははー」と誤魔化して、


「……それはさておき、ふたりっきりのピクニック、楽しかった?」


「じー……」


「……なんだよ」


「お前が理由もなく俺に利する依頼を出すとは思えない……」


「俺をなんだと思ってるわけ!?」


 アベルの悲痛な叫びに、まあいいか、と矛を収める。



 そこに、半分フレッドアルフレッドの影に隠れていたソフィアが顔を出す。


「山登り、楽しかったです!」


 アベルとソフィアが顔を合わせるのはこれで3、4回目だろうか。すれ違いざまに一言二言言葉を交わした程度のことも数えての数字だ。

 これで案外人見知りの彼女が、自分から声を発するのはなかなかに珍しい。彼女なりに勇気を振り絞って、緊張しながら発した言葉。


 アベルもそれを察したのか、フッと声音を柔らかくして、


「そりゃよかった。正直キミが喜んでくれるかわからなかったから」


 長身のアベルは目線の高さをソフィアに合わせ、いたずらっぽい笑みを見せる。

 こういう時だけは気の利く男である。


 こういう時だけは。つまりは普段から気を利かせるようなタイプではないわけで。

 二言目に何を言い出すかと思えば、


アルアルフレッドとの同棲は楽しい?」


「っは、はい!」


 そして彼はフレッドに向き直り、


「だってさ、両思いだって!よかったな!」


 キザな笑顔でサムズアップ。わぁムカツクこの笑顔。

 脳天をチョップして、さっさと受付兼玄関から追い出した。



 アベルの去り際の一言。「今日の晩ご飯、俺の分も用意しといて!」

 今回の依頼、正直結構楽しかったから、無下にもできないんだよなぁ……

 と、追い出してから感謝するフレッドだった。




  .                 ⌘                 .




 サンドロップを片手に、ウキウキとした様子で市場を歩くアベル。


 しかし、ある商店の前で突然立ち止まる。キョロキョロとあたりを見渡し、人目を忍ぶようにしてその店に滑り込む。



「例のブツを頼む。は言ってあった通りの量を。ただは少なめにしてくれ」


 5分後、アベルは商店を後にし、速やかに帰宅した。

 人目を忍んで行われたこの取引を、アルフレッドは知るよしもない。

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