第7話 陽光の放つ恩寵
——
……嫌な予感がする。
ソフィアと自分を死地から引っ張り出したつもりが、また別の死地に誘い込んでしまったような。
そんな、嫌な予感が。
とはいえ、もうレースは始まっている。右隣を見れば、ソフィアが楽しそうにそりで滑っている。この笑顔に水を差したくはない。
そうして、視線をソフィアから前に戻すと——
「岩ぁぁぁぁぁっ!?」
よそ見をしていたうちに、フレッドの眼前に大きな岩が迫っている。
ソフィアの滑ろうとしていたコースよりはマシなものの、それなりに傾斜の急な斜面。岩になんて衝突すれば、悲惨なことになるのは目に見えていた。
「だらぁぁぁっ!」
全力で左に舵を切る。衝突まで3秒、2秒、1秒——
ギリッギリ。岩を回避した。ちょっと掠った気がする。続いて襲いくる浮遊感に息を呑み——
……浮遊感。なんとか岩との衝突は避けられた。しかし、完全には避け切れず——跳ねた。
「ふ……どわぁぁぁぁっ!!」
一瞬の浮遊感に次いで、地面に勢いよく衝突した痛みを味わう。
「お尻痛……。さっきから叫んでばっ……かぁぁぁぁ!?」
またも前方に岩が立ち並ぶ。右に、左に。直進。左。
回避を続けるうちに、ソフィアの滑る比較的安全なコースから外れてしまった。
少し離れてしまったソフィアの顔は——超楽しそう。
——あ、これ気付いてないな。ソフィアたまに周り見えなくなるからなー。危ないよなー。
「よし、もうちょっと頑張ろう」
多分あのソフィアには止まるように言っても聞こえない。そしてソフィアを一人で滑らせたら十中八九迷子になる。
だから、うん。もうちょっと滑っていよう。決してソフィアが楽しそうにしているからじゃない。ここで止まったら危険だから。うん。
右!右!肘掠った痛ぁ!直進!ひd右ぃっ!そしてジャンプッ!
「……なんで!?」
ジャンプ台っぽい岩を前にして本能的に突っ込んだ……!なぜ!?
「ボケはソフィアの領分なのにぃぃぃぃぃ!!」
先程以上の大ジャンプに、そりとフレッドが空中分解。そのまま斜面を遮るように木々が立ち並んだ林に突っ込み、ゴロゴロと生身のフレッドが転がっていく。
……ちょっと滑稽な絵面だが、割とシャレにならない。一瞬、死を覚悟する。
最終的に思いっきり木にぶつかり、ようやく勢いの収まったフレッドはその場にぐったりとして放心状態。
——木々の隙間から射す木漏れ日が綺麗だ。
こんな状況にありながら、そんな風に感じてしまうのはおかしいだろうか。
ふと視線を横にずらすと、陽が当たって明るく、どこか幻想的にも思える陽だまりが目に入る。
——今日は、美しい景色に沢山出会える。
「——っ」
幻想的な陽だまりのなかで一際目立つ岩の上。そこに目をやってフレッドは息を呑む。
「サン、ドロップ……!」
その名に恥じぬ威光を放つ、
フレッドが岩に駆け寄り、遅れてソフィアもやってくる。
ふたりは手を取り合って、目標の達成を喜び合うのだった。
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