第3話 サンドロップ探索隊

 朝食の時間はあっという間に終わり、そして彼のが始まる。

 そう、彼の仕事は何でも屋。便利屋とも言われるその職業は、屋という字面から或いは想像されるかもしれない後ろ暗いものではなく、至極穏当なサービス業である。

 業務内容は例えば犬の散歩。例えば子供に勉強を教える。例えばプロポーズのアシスト。人々の幸せをちょっとだけお手伝いする、そんな仕事だ。



 ともあれ、今日の仕事は山菜の採取だ。しかしただの山菜じゃない。目的はただ一つ、”サンドロップ”の採取だ。

 サンドロップは初春のこの時期に旬を迎え、山中の比較的日当たりの良い場所に自生する。とても希少な植物で、「食べたらその一年幸せになれる」と言われている。


 と、地味に大変そうな依頼だが、その実、「探索期間は1日、サンドロップは発見できなくても構わない」という条件付きの依頼だ。ようはただのピクニックである。依頼主が気前良すぎる。


 とまれかくまれ、山に入るのだ。それ相応の準備は必要になる。

 フレッドもソフィアも、今日の服装は長袖長ズボン。背負ったバッグには昼食と飲料水が入っている。



「ソフィア、そろそろ出発するよー」


「もうすぐで準備できるんでちょっと待ってくださーい!」


 1階のリビングから2階のソフィアに声をかける。条件が緩いとはいえ、依頼は依頼だ。今朝は普段より早めに出発する。

 2階からドタドタとソフィアの駆け回る音が聞こえる。


「何を準備してるんだろう……?」


 着替えは既に済んでいるし、荷物だってフレッドが今朝のうちに2人分の準備が終わっている。後はソフィアの私物を入れるだけのはずなのに。



 と、ソフィアがリュックサックを前に抱えて、注意深く階段を降りてくる。抱えているリュックサックを見ると、沢山付いているポケットの全てがパンパンに膨らんでいる。


「ええ……。あんまり荷物多いと歩くの大変だよ?」


 フレッドができる限り軽いものを詰めたはずのリュックサックのはずが、ソフィアはいかにも重そうによろよろとした足取りで階段を降りている。


「タオルと水少ししか入れなかったのに……」


 この男、ソフィアの分の荷物を自分のリュックサックに詰め込み、彼女の持つ量を最大限減らしている。天性の過保護。自覚無しである。



 ソフィアが、最後の一段を飛び降りる。前に抱えたリュックの重さに少しよろめいて、


「サンドロップ探索隊、出発です!!」


 ソフィア隊長に続き、フレッド隊員がときの声を挙げる。



 ——伝説の至宝、日輪の雫を求める旅が、ここに始動する。

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