第2話 でぃぐれっしょん
フレッドの背に揺られ、彼の肩に頭を乗せる。
「人生の幸せ……」
「今日そればっかだね…?」
「ニュアンスの違いを読み取ってくださいね」
「さいですか」
「フレッド」
ソフィアの声に、フレッドが少し頭を動かす。……顔が近い。でもそれ以上に——
「足元、気をつけてくださいね」
フレッドの肩越しに足元を見やると、ちょうど階段に差し掛かったところ。
「あっ」
「不穏な声が……ゎふっ」
急な衝撃に頭が揺れる。フレッドが階段を踏み外しかけて、一段飛ばしに跳んだ衝撃。フレッドの肩にあごを思いっきりぶつけてしまった。
「わっ、ごめん!大丈夫?」
フレッドは優しくてしっかり者で——時々、おっちょこちょいだったりする。大抵のことはスマートにこなすのに、突発的にドジをすることがあるのだ。
……そこがまた可愛いと、ソフィアは思っていたりする。
「そういうところが、放っておけないんですよね……」
もっとも、おっちょこちょいなのはソフィアも同じなのだが。
フレッドがソフィアを背中から下ろして、椅子に座らせる。
目の前に並べられたスクランブルエッグには手をつけず、トーストを焼き始めたフレッドをぼんやりと眺める。それがソフィアの朝の日課。
一度、何か手伝おうとして食器を割ったのも今では笑い話だ。
トーストが焼ける匂いがする。
「オリーブオイルですか?」
「うん、シンプルだけど、美味しいって聞いたから」
フレッドがオリーブオイルを取り出し、トーストにかけている。いくらか塩をふってから食卓に運び、そのまま自分も席に着く。
フレッドが席に着き、2人揃ったタイミングで、
「「いただきます」」
オリーブオイルトーストに
「うぅん!美味しい!」
普段は引き立て役のオリーブオイルが、今度ばかりは主役に回っている。なんだかエモい。
ソフィアがどこかズレた感想を全身で表現していると、フレッドが彼女に話しかける。
「何回も言ってるけど、別に俺を待ってなくていいのに。スクランブルエッグ冷めちゃうし」
ソフィアはブンブンと首を振って、
「ご飯は1人で食べるより2人で食べた方が美味しいんです!」
それはこの一年間で初めて知れた、温かな時間なのだから。
この幸せな時間が好きだ。そう、思っている。
そっか、と笑って、フレッドもトーストを齧る。
「あ、これ美味しい」
この日から、2人のトーストの恒例の味付けが一つ増えたのだった。
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