何でも屋と聖女様

初見 皐 / 炉端のフグ

第1話 ぷろろーぐ

 村の何でも屋、アルフレッドの朝は早い。

 日が登る頃には目を覚まし、身なりを整えたらまず店中の鉢植えに水をやり、次に庭の手入れを軽く済ませる。


「今日はこんなところか……」


 長身に落ち着いた赤茶色の髪、柔らかな印象を抱かせる赤い目をした彼は、そのそれなりに整った容姿と人当たりの良さもあって、村では人気者である。もっとも、ある理由から告白などされることもなく、本人には自覚もないのだが。



 井戸水で手を洗い、朝食作りに取り掛かる。

 今日はスクランブルエッグを作り、ついでに井戸水で洗ったトマトを切った。


 食器の準備をしてから、同居人を起こしに行くまでが彼の朝の静かな日課。ここから、賑やかな朝が始まる。



 リビングダイニングから個室のある2階へと続く階段を登り、コンコン、と個室のドアの一つをノックする。


「ソフィア?そろそろ起きる時間ー」


「どうぞー」


 ソフィアの眠たそうな声が聞こえて来る。


「いやどうぞでなく」


 俺が入ってどうする。

 いいからー、という声に従ってとりあえずドアを開けると、そこには上半身だけだらーんとベッドからずり落ちたソフィアの姿が。しかも既に寝間着から着替え済み。


 ほんのりと緑がかった薄いベージュ色の長髪を床に垂らし、透き通った碧眼を上目遣いにして俺を見上げる。相当に整った容姿だが、こうもだらけた姿では残念感が拭えない。

 しかし人前では猫をかぶるため村一番、いや、”村の中では国一番”の美少女で通っている。何故か村では告白をされたことはない。なぜか。

 とまあ、暖かい村なのである。


「おはよう、フレッド!」


 そんなソフィアが、何やら気取った声で挨拶をする。


「……おはよう、ソフィア?」


「今日は早く起きたので既に着替え済みなのです!」


 ふふん!、と胸を張るポーズ。いやその姿勢で言われても。


「二度寝は体に良くないって聞くけど」


「バレてる……っ!?」

「ぅ……でも二度寝は至福なのです。人生の幸せを奪わないでほしいのです……」


「大袈裟な……。まあそんなに言うなら構わないけど」


 ソフィアが、だらんとした体勢のまま、ほいっと手を伸ばしてくる。


「体がだるいのでダイニングまで連れて行ってください」


「やっぱり朝から疲れてるじゃんか……」


「人生の幸せ……」


 うるうるとした目で見つめられ、耐えきれず降参するのだった。

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