フライトオフ (短文詩作)

春嵐

フライトオフ

 何もなかった。

 最初からそうだったし、きっと最後もそうだと自分で決めてかかっていた節がある。

 何もない。

 青と、ほんの少しの、灰色。太陽は直視しない。

 落ちていく。どんなに最強だと言われても、結局、撃たれたら落ちる。それだけの話。

 何もない。

 そう。

 ただ落ちるだけ。

 彼女のことを、ほんの少しだけ考えた。

 もうすぐ爆発する。少しでも衝撃を遅れさせるため、機体を回転させて散ったオイルや機体の破片を飛ばしておく。


「ああ」


 終わった。まあそこそこ楽しかった。ブースを出る。はじめての撃墜か。

 なぜか、歓声。

 駆け寄ってくる彼女。


「え。なにこれ。わたし何もしてないけど」


「そんなわけないでしょ。何もしてないわけないじゃない。何もしてるわよ。すごいよ。三十対一で勝ったのよ」


「勝った。わたしが?」


「最後相撃ちで、あなたのほうが落ちるのが遅かった。ぎりぎりで勝った。勝ったんだよ」


「そうか」


 機体を回転させた分、耐えてくれたのか。


「でも、機体はなくなった」


「また作ればいいじゃない。ゲームなんだから」


 何もなくなったけど。どうやら勝利は手にしたらしい。

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フライトオフ (短文詩作) 春嵐 @aiot3110

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