孤独の姫と攫い屋の少年
俺氏の友氏は蘇我氏のたかしのお菓子好き
孤独の姫と攫い屋の少年
とある国に、一人の姫が居た。
雪のように真っ白な手足に、花々のように鮮やかな頬。
そして、人形師も驚くほどの作り込まれたその顔の造形。
神様が直接彼女に美を与え給うたといっても、おかしくないくらいの美しさ。
そんな美しき姫は―――――――堕ちていた。
この世界では人間が南北に分かれて、血で血を洗う戦争をしていた。
彼女の国は北の最後の砦と言われるほどの大国であった。
人々は数百年続く戦争の中でとある力を手に入れたのだ。
その名は、血縁。
文字通り、血の繋がりである。
血が繋がったものへと自らの力を集中させることができるその力は、いうならば怪我したものが元気なものへと力を渡すことができるようなまさに画期的な力だった。
そして姫である彼女は、戦場に赴く兄のためその力の大半を譲った。
いや、正確には譲り続けている。
今代の王の血縁はとても少なかった。
王と王妃は政務があるため、力を渡すことができない。
そのため、まだ幼い彼女に白羽の矢が立ったのだ。
美しき姫はその外観はそのままに、精神力、気力、体力。その全てを吸い取られている。
白の最上階の天蓋付きのベッドから起きることもなく、彼女は眠るように生きていた。
そんな堕ちた姫の体を、様々な人間が欲した。
中身がどんない空っぽでも、見た目は寵愛を受けたかのような美しさ。
むしろ、中身が無いほうがいいなんていう人間たちも居た。
腐っても中身がなくても、一国の王女。
無理矢理にさらうことなんてしたら、国賊として殺される。
楽には逝かせてくれない。民の前でゆっくりとじっくりと、生まれたことを後悔するくらいに――――――嬲られながら殺される。
だから、彼女の身を狙う人々は短い謁見の時間を余すことなく、彼女を救う言葉や、褒める言葉で満たした。
でも、彼女はなびかなかった。
中身が空っぽで絶望のさなかであるはずの彼女なら、すこし肯定の言葉をかければころっと行くと思ったのに。
人々は疑問に思いながらも、次の謁見のため仕事に戻った。
それは何故なのか。
理由はとっても簡単。
彼女の中では、上辺だけで誉めて貶そうとしてくる男共を、心の中で見下すのが喜びになっていたのだ。
もちろん彼女だって救われたいわけではない。
きっかけは何であれ、誰かを愛してそれだけに集中するのはきっと素敵なことなのだろうと、彼女は常々思っていた。
「救われたい。けど、救おうと藻掻く奴らの薄っぺらな心に救われる。」
姫は力を吸い取られたことによって、歪んでしまっていたのかも知れない。
戦火のさなかにあるとは感じられないほどの、単調な日々が流れていたある日。
―――――姫を誘拐すると、予告状が届く。
王と王妃は最大限の警備を施した。
ただでさえ、兄のため――――国のためにその身を削らせている。
さらに彼女に負担をかけることなんてしたくなかったのだ。
王は一週間後の日付が書かれたその予告状を握りしめて、悲しき
そしてとうとう、犯行の日が訪れる。
予告状には時間までは書いてなかった。
ピリピリとした緊張感が城をまといながら、日は流れて、何事もなく夜が訪れた。
城を守る騎士たちの中では、デマではないかという雰囲気が漂っていた。
一部の騎士は、本当にくるかで賭けを始めるものまで居た。
倍率はもっぱら、来ないに傾いている。
日が変わろうかという、亥の刻。
その中頃に、とても静かに姫の部屋の小窓が開いた。
警備をしていたはずの騎士たちはその存在に気が付かず、やっぱり嘘だと笑っている。
窓に腰掛けた犯人を、姫は薄目を擦って見た。
自分を襲いに来るなんてどんなに欲にまみれた人だろうか。
中年の小太り気味な貴族だろうか。
それとも爽やかな仮面をつけた青年だろうか。
もしかしたら、敵国のスパイかも知れない。
そんな事を思いながら、姫は月のあかりで照らされた窓辺に目をやった。
そこにいたのは―――――――――汚く醜い少年だった。
ところどころほつれた真っ黒な上着をたなびかせて、少年は
姫はなぜ、どうして、どうやって、なんで、どこに、いつ―――――そんな沢山の疑問符を投げかけようとして開いた口を、ゆっくりと閉じた。
少年は何も言わずにただ咲っていた。
漆黒の薔薇が花開くように咲っていた。
月の光すら置き去りにした
姫はいつのまにか、汚く醜いはずの彼から目を離せなくなっている。
――――あなたは私を褒めないの。
――――造りこまれた甘美な台詞で私を攫おうとしないの。
――――見かけだけの愛でその本心を隠そうとしないの。
少年は彼女を助けるでもなく、褒めるでもなく、月光の下で咲いながら一言――――
「一緒に死にましょう。」
――――そう言った
孤独の姫と攫い屋の少年 俺氏の友氏は蘇我氏のたかしのお菓子好き @Ch-n
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