第50話 一歩後なら

 テスト二日目件最終日。外が熱い。

 他には頭からつま先まで体中全てが痛い。でも、不思議と脳のコンディションは最高と言っていい。


 快晴の太陽が体に熱を照り付けさせる、心が燃えている。

 今日が終わればひと段落着く。

 

「今日も頑張らなきゃな」

「うん、頑張って」

「す、すずどうして家に?」

「幼馴染だから」

「それは家に入れる方法だろ、なんで朝にいるのか聞いているんだ」

「幼馴染だから」

「なるほど分かった、おはよう」

 独り言を聞かれた時ほど恥ずかしい瞬間はない、しかし、幼馴染はそんな僕の心情を全く察する気も無さそうに平然としていた。


 テスト期間は家に朝飯を食べにこず、家の前で登校時間を一緒に過ごす程度の幼馴染だったが、今日は家の前で待っているわけでなくこうして家の中にいる。


「学校行くか?」

「うん」

 それ以降会話もせず、教室へ向かい昨日と同じようにテストが始まり、テストが終わった。


 めちゃくちゃ眠たい、あと気持ちが悪い。

 それがテストが終わって一番初めに出てきた感想だった。周りの学生たちが大体遊びに行こーとかテスト後数日間の休みを大喜びしている中僕は机に突っ伏して動けなかった。


「やっと終わったぜー!鷺ノ宮遊び行こうぜ!」

「菊池か、見ての通りこっちは死にかけなんだ頼むから寝かせてくれ」

「いや、ダメだ!テスト終わったら遊ぶって約束してただろ?」

「してない」

「いいや、した俺の記憶に間違いはない」

「じゃあ、テストの回答した時の記憶思い出してみろ」

「元々無いものは思い出せないだろ」

「確かに、とりあえず眠いから眠らせてくれ」

「おい寝るな、寝たら死ぬぞ」

「死にはしないだろ」

「間違いなくお前は君の幼馴染に殺されるぞ」

「凉はそんな怖いことしないだろ」

「いやでも鷹河さん凄い顔でお前の子とみてるぞ、俺もあの表情だけは殺意だってわかるぞ」

「凉が殺意なんて出すわけないだろ、何言ってるんだ。」

「いいから、あれ見ろって」

 そう言われ、眠い目を擦りながら顔を上げる。

 クラスの端の方を見ると凉が凄い形相でこちらを見ていた。

「あれは、なんだ見たことない顔してる」

 じっとこちらを見て、何かを訴えているような気がする。殺意の顔でないことは確かなのだが、彼女はこちらに何を伝えたいのだろうか。


「どうしたんだ凉?」

 凉が下を向いて近づいてくる。

「大丈夫?」

「僕は大丈夫だけど?」

 僕の事は割とどうだっていい、凉は大丈夫なのかただそれだけが気がかりだった。

「じゃあよかった、秀倒れるのかと思った」

「僕は倒れないよ。」

 彼女は嬉しそうな顔に変わる。

「心配した」

 凉がこちらに飛びつき、彼女の腕がこちらの体に絡まる。近い、彼女の熱が移ったかのように顔が熱くなる。

 今脈が速いのはきっと寝不足だからだろう。

「大丈夫だよ」

 彼女の耳に言葉が伝線すると、腕がほどかれ、その幸せな時間が終わってしまった。


 テストの結果はきっと彼女に叶わなかっただろう、それは答案を見なくても理解できる。それでも自分の全力を尽くしたら、彼女に抱きしめてもらえた、きっと僕の努力はそれで報われたのだろう。


 帰り道、彼女の少し後ろを歩く。 

 彼女を見ていると思うことがある。綺麗な髪、美しい瞳、聡明な頭、どこを取っても一歩もかなわない。

 でもやっぱり、一生遠くから追いかけているのは辛い。

 だからきっと僕はこれからも足掻きもがき続ける。彼女の後ろを歩くなら遠くよりも近くがいい。


 だって、一歩後ろならこんな風にハッキリと彼女の美しい後姿を見ることが出来るから。





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