第49話 心に業火を

 テスト一日目が終わった感想は今までで最高の感触というものだった、凄まじい集中力を発揮できたというか、ゾーンに入るという感覚がこういうものなのか。

 すっと文字が頭の中から指へと伝達される、記憶の引き出しがすっと開かれていく感覚。

 

 ラインで天川先輩に良い感覚だったと報告すると「気を抜いてるんじゃないわよ、しっかりと明日の分も勉強しなさい! でもよくやったわね」と先輩らしい優しさを見せた返信をくれた。

 「頑張ります」とだけ返し、家へと帰宅した。


 先輩に言われた通り、慢心をせずしっかりと勉強をしよう。

 机に座り、参考書を開き始める。

 眠い。勉強をしなければならないのに、眠気が止まらない。朝から寝不足だったこともあり座っているだけで頭痛も激しくなってきた。


 ヤバイ、このままじゃ倒れる、でも勉強しなければまた幼馴染と差がついてしまう。

 これ以上おいていかれるわけにはいかない。

 机に倒れこんだ必死に体を起こし 勉強を続ける。中間試験あと一日、あと一日だけ今回はこのまま続けよう。

 

 鈍ってきた頭を働かせてとにかく長時間机に向かう、集中できなくても集中を続ける。

 だんだん気分も悪くなってきた。ああ、嫌になるほど眠い。

 そんな体に大量のコーヒーでカフェインを取り込む、これで吐きそうになろうとも眠気は軽減されてくれるはずだ。

 それでも体が限界に近づいているような気がする。このまま続けたら間違えなく倒れる。

 でも、それでも続けなければならないんだ。


 数時間勉強と気分の悪さと格闘をしていると、夜になった。

 何か栄養が欲しい。

 よろよろとした足でキッチンの方へと行くと記憶のない袋が無造作に置かれたいた。中にはタッパーがあり、そこにカルボナーラらしきものが入っている。


「いったい誰が…」

 思わず声に出してしまう、いや、誰なんて決まっているだろ。

 この家のカギを持っている人物なんて一人しかいないはずだ。

 いつもあれだけ行動の邪魔をしてくるのに、今日に限ってどうしてそう空気を読むんだ。

 

 袋からタッパーを取り出すと、「コトッ」と音を立てて床に何かが落ちた。

 なんだこれ、床に落ちた紙らしきも拾い上げる。


 「好物作った。頑張って。」ただそれだけが書かれていた。


 タッパーに入ったカルボナーラをそのまま食べた。正直に言うと不出来で味もばらついている、おまけにソースが焦げていたりそれはもう酷いありさまだった。


 でもなんで、こんなにおいしいんだろうか。料理なんかしたことがない人が作った、他人の好物がなんでこんなに温かくおいしいんだ。


 その不出来な料理は体中に業火ともいえる熱をもたらした。

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