第46話 挫折なんて言葉じゃ足りない

「あなた達、なんで付き合わないの?」

 先輩は眠そうな目を擦りながら聞いてくる。


「それって答えなくちゃだめですか…」

 上手く話せる自信がない。それに自分の心の中に留めていることだ。


「深刻になるなら答えなくていいけど、私は秀に勉強を教えてあげたんだから秀もこの麗しい先輩に教えてくれてもいいんじゃないかしら。」

 麗しいと自分で言えるタイプの先輩には話したくないという匂わせは通じないみたいだ。


「あんまり話したくないんですよ」

「秀ちょっとくらいいじゃない、あなただって私の日記見たでしょ」


「それは…」

「いいから優しい先輩に話してみて」

 優しくない笑みを浮かべながら強引に先輩は聞いてくる。


 確かに、心に留めているが隠し通すほどの物でもないし、ノートの事を言われると耳が痛い。

「そんな面白い話じゃないっすよ」

「いいから話しなさい」

「はい」


「凉は優秀なんですよ、半端じゃなく」

 幼馴染に聞かれないくらいの音量で僕は静かに語り始めた。


「僕は彼女より明確に優れているというものが一つもないんです、勉強も運動も習い事も、僕がずっと前から始めていたピアノですら彼女が初めて直ぐに抜かされました。」

「よくある話ね。」


「もちろん僕はそこで負けるつもりはありませんでした、努力していつか追い抜くぞ、カッコイイ所を見せるために努力を続けるぞって思ってたんですよ。」

 そう、最初は負ける気なんか微塵もなかった。


「そこから努力を初めて、誰にも負けないくらいの量を続けて続けてそれでも凉に勝てなかった。」


 今でこそ持っていないプライドって物がその時にぐちゃぐちゃにされたこと。ある程度上手くいってた人生で、守ってあげるべきだと思っていた女の子に先を行かれて、挙句の果てに体格でも負けて、彼女に僕は何も勝てなくなっていったこと。


 初めての挫折なんて言葉じゃ表せない、そんなレベルの劣等感を幼馴染に植え付けられたんだ。


 日に日に劣等感は増幅していく。誰にも話すわけでもなくただただ一人で嫉妬に苦しんでいく。


 誰かに助けて欲しいとも思わない、ただ今もずっとがき続けていること。


 ぐちゃぐちゃな文脈と落ち着いた声で先輩にそんな事を話した。


「あなたが凉に勝てないのは分かったわ、でもそれがなんで付き合わないって話になるの?」

「凉は幼馴染の僕から見ても美人で、可愛くて、ちょっと意地悪で料理は出来ないけど優しくて、自分が人生で出会う女の子の中で一番いい子だと思います」

 本当に自慢の幼馴染だ。


「そうね、私から見ても凉を選ばない男は馬鹿よ」

 畳みかけてくる先輩の言葉が耳に響く。言われなくたってそんな事僕が一番分かっている。


「あなたは凉ちゃんの気持ちを考えなさい、凉はあなたの事大好きじゃない?気が付いてないとは言わせないわよ」


「気が付いてるに決まってるじゃないですか」 

 小さいがハッキリとした口調で僕は語った。

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