第40話 捻じ曲がる倫理観

 皆で黙々と勉強していると勉強以外の事で喋ることも減っていく。

 常世先輩は天川先輩が勉強を教えてくれた時に椅子の業務から開放され、そのまま自分の勉強をしていた。 

 さっきの写真やノートの事はとても気になるが、テストに比べたら無視できる。

 今は一単語でも多く覚えなければならないのだ。

 

 だいぶいい時間になり、流石に帰る雰囲気が空間に流れる。


「結構いい時間ですね」

「そうね、どうするみんな泊まってく?圭はどうせ泊まるでしょ」

「うん、いつも通り泊めてもらおうかな」

 そういえば前常世先輩で聞いた限りだと二人はカップルではないらしい、カップルでない男女が「いつも通り」というレベルで家に泊っているのは倫理的にどうなのだろう。


 いや、しかし常世先輩の奴隷っぷりをみると特に問題はないんだろうか。


「二人はどうする?」

「泊ってもいいんですか?」

「そう言ってるじゃない」

 あまりにも当然だと言わんばかりに先輩は答える。


「先輩のご両親とかにご迷惑じゃ」

「うちの両親、基本家に居ないのよ」

「でも…」

「はっきりしない男ね、凉代わりに決めてあげなさい」

「……………」


「凉?」

「……………」凉はピクリとも反応せず、目の前のノートの集中している。


「先輩すみません、凉集中するといつもこうなるんです、肩を揺らせば流石に気が付くんですけど」

 肩を揺らし、幼馴染の意識をこちらへ向ける。すると幼馴染がこちらに覆いかぶさるように抱き着いてくる。


「秀どうしたの?」

「凉、天川先輩に質問されてるぞ、あと離して」

 凉はあたりを見渡すと、自分の状況を思い出したように巻き付けていた腕をほどいた。


「愛咲ちゃんどうしたの?」

「凉、あなたやっぱり面白いわね…。秀も凉も良かったら私の家に泊っていきなさい」 

「やったー愛咲ちゃんのおうちにお泊り嬉しい」

 小学生が新しいおもちゃを買ってもらった時のような喜びようを彼女は見せた。


「じゃあ、決まりね、私と圭がこの部屋、凉と秀が向こうの部屋でいいかしら?」

「いい!」


「凉、それは本当に良くない、先輩も勝手な事言わないでください流石にまずいでしょう」

「何がまずいのかしら?圭は私に手を出すほど勇気はないし、秀もどうせ同じような感じでしょう?」

 不敵な微笑を浮かべて先輩は答える。


「まずいものは、まずいですよ、普通に考えて凉と天川先輩、僕と常世先輩の男女で別れるじゃないですか」

「別にいいじゃない、どうせギリギリまでこの部屋で勉強させるんだから、それとも秀は凉にやましい事をしたいの?」


「しません、しませんけど とにかく男女別で分けてください」

「そこまで言うなら仕方ないわね」

 不服そうな顔をしながらも先輩は許可を出してくれた。

 天川先輩と話していると価値観や倫理観を捻じ曲げられていくような気分に陥る、夜常世先輩とコッソリ話して倫理観を常識近くまで戻してもらうことにしよう。

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