第38話 綺麗なマフィンは宇宙味!!

「おー来た来た」

 待ち合わせ場所に向かうと常世先輩が手を振っている。

「お待たせしてすみません」

「お待たせって、まだ集合時間前だから全然待ってないし大丈夫だよ!」

 常世先輩は優しく笑いながらそう述べる。


「あら、凉の私服可愛いわね、きっと秀を悩殺出来るわよ」

「ほんとう?嬉しい」

 確かに凉の私服は似合っているが、制服の時のマッチと比べたらいまいちパンチが足りない。彼女の私服姿など見すぎてて悩殺されるわけがない。

 

 私服と言えば、私服の天川先輩はやはり小学生にしか見えない。普段は制服で多少先輩感があるが、微妙に親が選んでそうな高い服装がやたらと小学生感を引き立たせている。


「じゃあ早速だけど、行きましょう」

 先輩の家は学校より僕たちのアパートとちょうど真ん中くらいの場所にあった、町で一番の豪邸とまではいかない物の立派で小奇麗な一軒家だ。

 玄関を開けるとぼぶちゃんが尻尾を振りながら迎えてくれる、白いタイル張りの床とこれまた白く綺麗な壁紙が何とも綺麗な空間となっていた。


「ぼぶちゃん、かわいい」

 犬を見るなり凉は飛びついて遊び始めた、家の様子から見てどうやら先輩の親はいないようだ。


「ぼぶにご飯をあげるから、私の部屋に先に行ってて」

「分かった~」

 常世先輩は何も迷いもなく天川先輩の部屋へと向かっていく。


「ガチャ」

 案内されて付いた天川先輩の部屋はなんというかメルヘンだった。


 白いタイルや壁紙というのはリビングや廊下と共通してたのだが、やたら大きく薄いピンク色でフリフリがいっぱいついたベッドや可愛いカラーを基調としたものがやたらと多い印象だ。


 それだけ奇抜なものが多いのに部屋全体は上品さを保っている。


「じゃあこの机使おうか」

 常世先輩はどこからか折り畳み机を四つほど取り出しくる、常世先輩はやはりこの部屋の事を知り尽くしているようだった。


「おまたせ、これ食べていいわよ」

 天川先輩はそういって手作りであろうマフィンを出してくれる。

 僕はまだ手を付けづに勉強を始めた。


「先輩すいません、ここ分からなくて」

「ああ、ここは教科書に載っている公式よりも、ちょっと公式を変えたこれがいいわよ。テスト中公式に頼るんじゃなくて自分でいつでも公式を変えられるようにしておきなさい」

「なるほど、先輩の教え方本当にわかりやすいです!」


「私が教えてるんだから、秀あなた今度学年で一位を取りなさい」

「流石にそれは無理ですね、二位じゃだめですか?」

「ダメよ、それに無理じゃないわ、あなた容量もいいしきっと出来るわよ」

「そうならいいんですけどね」

 僕は部屋の端で犬と遊んでいる幼馴染を頭に浮かべながら答えた。


「大丈夫、今回は私が付いていてあげるわ」

「先輩」

 これほど嬉しい言葉はない。

 期待をされている、それだけで勉強をするモチベーションが心の底から湧き上がる気がした。

 近くの机で黙々と勉強している常世先輩のシャーペンの音が僕のやる気に火をつけていく。


「一度休憩にしましょう」

 二時間くらいたった頃、先輩が一度休憩の提案をしだした。

「僕はまだやれます!」

「秀、やる気はいい事だけど、集中力がどうしても落ちてきているから休憩は必要よ」

「分かりました」

「いい?秀糖分と休憩は大事よ、私の焼いたマフィンを食べなさい」

「はい、いただきます」


 出されたマフィンを一口貰う、これは…


 一口食べると宇宙の味が口いっぱいに広がる。


 何か甘くしょっぱすぎる物が口に染みこみ、なんというかとてもまずかった。


「おいしいです」引きつった笑顔を顔に張り付けながら、僕は精一杯の建前を先輩に伝えた。


「秀なら分かってくれると信じてたわ!」


 目を逸らすと、こちらになんとも言えない顔を向けている常世先輩と目が合った、その目は救えない生贄に対して申し訳なさを向けているようだった。


 

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