第37話 ドSな先輩が優しい日があってもいい

「圭、なんでぼぶを保護したことをもっと早く言わなかったの?」

「いや、なんとなくなんだけど直ぐに会える気がしたからさ」

「なにそれ、あんた私のこと大好きすぎでしょ」

 天川先輩は少し嬉しそうな声でそう述べる。


「ぼぶ、もうどこ行ってたの」

 犬の元へ辿り着くと同時に天川先輩は動物の方のペットに説教を始めた、当然ぼぶちゃんは悪びれる様子もなく尻尾をぶんぶんと振りながら天川先輩の元へと駆け寄っていく。


「ぼぶちゃん本当に可愛いね」

「でしょ凉、私の自慢のペット2号なの」

 一号が何なのか察しがついているが、あえて僕たち男組は声を出すことが出来ない。


「今度また、ぼぶちゃんと遊ばせてほしい」

 少しもじもじしながら凉は天川先輩に恥ずかしそうにお願い事をしていた。彼女が人に頼みごとをするのは少ないからなのか、凉は緊張しているようだ。


「凉ならもちろん大歓迎だわ、秀と一緒に来なさい」

「愛咲ちゃんありがとう」

「ありがとうございます、テスト終わったらお邪魔させていただきます」

 とてもありがたい話だが、今は先輩の家に行くことよりもテスト勉強を優先しなければいけない。


「テスト終わったらと言わず明日来なさいよ、土曜日だし、なんならテスト勉強教えてあげるわよ」

「え、天川先輩がですか」

「何?私に教わるのに不満があるわけ?」

「いや、不満というわけじゃ」

 天川先輩は何となくだが凉と同じように教えるのが下手くそな気がする。

 

「愛咲は意外と教えるのがうまいよ、鷺ノ宮君がどうしても不安なようであれば僕も教えてあげるよ」

 常世先輩が言うのであれば教えてもらった方が効率的なのではないだろうか。先輩は天川先輩に弄られているときでこそ頼りにならないが、それ以外の場面では全体的にそこそこカッコいい先輩ではあるし…


「じゃあお願いしてもいいですか」

 恐る恐る聞いてみると当然だと言わんばかりの顔をして「じゃあ明日私の家に来なさい、待ち合わせは学校の前でいいかしら?圭に迎いに行かせるわ」

「わかった」

 凉は犬を撫でながら楽しそうに返事をしている。


「せっかく後輩たちを招くんだから、愛咲も一緒に迎えに行かないか?」

「あら、圭そんなに私と一緒に歩きたいのね、圭がそこまで言うなら仕方がないわ、私も付いていってあげる」

 今日はやたら天川先輩がデレデレしているような気がする、いつもは上裸で筋トレを永遠にさせ続けたりしているのに。


「凉、僕たちは帰ろっか」

 先輩たちを邪魔しないような声量でそう伝える。

 なにも言わずに微笑みながら頷く幼馴染を確認して、先輩たちに礼をしてその場を離脱した。

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