第35話 かわいいを撫でると幸福が生まれる

「乙女の秘密を聞きたいなんて秀は大胆ね」

 いや先輩乙女って見た目じゃない

 …などとは口が裂けても言えない、このドSの先輩の報復がかなり怖い事を常世先輩を見ていれば安易に想像が出来る。


「そういうわけじゃないんですけど、先輩なんか今日雰囲気違くないっすか?」

「実はペットの犬が逃げ出しちゃったの」

 先輩はかなりショックそうな表情を浮かべながら困りごとを話し始める。

 常世先輩の事か、そりゃ毎日女王様の尻に敷かれてれば逃げたくなる日も一日くらいあるよな。

「探すの手伝いましょうか?」

「いいの?あなた私の犬見たことあるっけ?」

「体が大きくて、優しそうなのであってますよね」

「そうそうそんな感じの子よ、私が記憶違いするなんて珍しい」

「自分凉待たせてるんで、一回凉に報告してから探すの手伝いますね、凉ならきっと手伝ってくれると思いますよ」

「ありがとう、優しい子達はモテるわよ」

「そりゃどうも」

「あと、出来れば外を散策してほしいんだけど頼めるかしら?」

「了解です」


 先輩と別れ凉に報告をした。

 凉曰く「愛咲ちゃんの探し物なら手伝う」と二つ返事で了承してくれ、二人で帰り道を中心に探し回ることにした。

 凉は犬、もとい先輩探しに思った以上に乗り気で楽しそうに外をキョロキョロと眺めている。

「常世先輩も大変だよな」

「大変ってなんで?」

「そりゃ天川先輩に常に振り回されてるからだよ」

「でも圭くんは嬉しそうだった」

「確かに常世先輩はそういう趣味の人かもしれないけど、それが毎日続いたら辛い時もあるんじゃないか?」

「そういう趣味って?」

「まあ人間には色々あるってことだ」


 そんな話をしながら学校付近の緑道を歩いていると前にそれらしい影を見つけた。

「常世先輩こんちゃー」

「鷺ノ宮君と、鷹河さんも一緒か久しぶり今帰りかい?」

「半分くらいそうだったんすけど、今日は先輩に用があってきたんですよね、それよりそこにいる犬なんですか?」

 先輩の後ろに大きいモフモフとした塊を見つけた、凉の髪の毛と同じ色をした大型犬だ。


「この子はゴールデンレトリバーのぼぶちゃん可愛いっしょ、それで僕に何の用だい?」

 凉は先輩の話を聞き終わる前に、恐る恐るゴールデンレトリバーに近づきゆっくりと頭を撫でて遊び始めた。


「天川先輩が常世先輩の事探してましたよ」

「愛咲がおかしいな?」

「おかしいってなんかあったんですか?」

「うーんいや、なんでもない、ありがとう」

 先輩は少し不思議そうな態度でお礼を言う。

「いえいえ、じゃあまた」

 先輩に用事を伝え終え、帰り道を歩きだそうとすると凉が僕の手を引き留めた。

「ぼぶちゃん可愛い」

 ぼぶちゃんに対する凉の興味スイッチがどうやら入ってしまったようだ。

 確かにこのサイズのゴールデンレトリバーはかなり可愛い、大きくてモフモフしてて優しそうなで常に楽しそうな目をしている。

「確かにかわいいな」

「もう少し一緒にいたい」

「先輩、天川先輩の所まで同行してもいいですか?」

「ああ、もちろん構わないよ」

 今度は返答を聞いてから凉はぼぶちゃんの頭を再び撫でまわし始めた。

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