僕の芝生は青くない

第31話 幼馴染の奴隷ではありません！

　変な話を無理やり飲み込むように彼女は納得した素振りを見せた。

「僕が言うのもあれだが、星崎さんはなんでこんな話を信じてくれるだ？」

「怖い話が苦ってていうのもあるけど、鷺ノ宮あんたが鷹河にベトベトされてる男なんでしょ」

「まあ、そうだね」星崎さんは知っていたのか…

「だからあたしはさっきの話を信じることにした、この前夏木から『鷺ノ宮って男にはちょっかい出すな確実にヤバい事になる』って聞いたし」

　そういえば昔鷹河家に圧力をかけられて転校していった子がいたような気がする。

　それにしても夏木さん変なこと言ってくれたな。これでクラスでは完全にミステリアスキャラを演じなくならなきゃいけなくなったぞ。

「それで、菊池って男と幼馴染になるって具体的に何すればいいの？」

　やばい、考えてなかった、凉と僕に面倒くさい噂が立たないように適当な嘘を並べ続けたから、肝心の菊池のやりたいことを聞いていなかった。

　幼馴染って具体的に何すればいいんだっけ。

　そうだ、凉とやってきたことを話せばいいのか！

「そうだな、例えば幼馴染の料理を作って、洗濯して、あとは掃除とかじゃないか」

「幼馴染ってそんな奴隷みたいなことしてるの？」

「奴隷とは失礼な！お世話係だ」

「どっちも変わらないわよ、あんたまさかあの可愛い子にそんな事させてるの？」

「いや全く、むしろ普段はほとんど僕がやってる」

「あんたがあの可愛い子に好かれてるのって、奴隷として好かれてるんじゃない？」

「まあそうかもな」

「あんたはそれでいいの？」

「彼女が必要としてくれるなら僕はそれでいいよ」

「あんたおかしいよ、私は絶対そんなことしたくない」

「でも幼馴染ってそんなもんだぞ」

「あたしのイメージの幼馴染ってもっと一緒に楽しく遊んだり、お互いがお互いを完全に信頼しあってるみたいな関係だと思ってた」

「それは幻想だけの世界だ」

「あんたそんなんじゃ鷹河に捨てられちゃうよ」

「そんなこと言われなくても分かってる！」

　そんなことは分かってる、捨てられたくないからこそ、彼女に相応しい人間になりたかったからこそ彼女のいない土地を求めて、彼女の助けを必要としない場所に来たんだ。

　それが今では彼女に少なからず意義をもらっている自分がいる。

　どこか嫌な空気がこの空間に流れ込む。

「ごめんて、なんか気に障る事言ったみたい」

　申し訳なさそうな表情をしながら彼女はその言葉を言った。

「いや、僕の方こそ」

「そうだ、私いいこと考えた、数日間一緒に帰ったら幼馴染っぽくない？」

「そうかもな」

　確かに幼馴染とは一緒に帰るものだ、星崎さんと菊池が帰り道が一緒なのか分からないが、菊池に恩を売るという意味でも一緒であることを願っておこう。

「じゃあそんな感じで、先生には勘違いでしたって適当に伝えておいてくれ」

　僕はどこか居心地の悪い空間を抜け出すように無理やり会話を締めくくった。