第30話 捻じ曲げるには異常で

「はあ?私がストーカーって感じたんだからストーカーでしょ?」

 この正論に乗ってはいけない、異常さこそが真実を捻じ曲げるには都合のいいものだ。

「菊池は騙されたんだよ」

「騙されたって誰に?」


「星崎さんはこの学校の七不思議って知ってる?」

 一呼吸置き口火を切るように一か八かの嘘を付き始めた。

「七不思議?何それ」

「この学校には明らかに高校生じゃない、不思議な人物がいるんだ」

「それがなんなの?」

「菊池はその人に騙されたんだ」

「まってまって、あたしそういうの苦手だからやめて」

 彼女はやたらと上ずった声を発した。

「菊池の名誉のために言わせてくれ、菊池は多分その人物に騙されたんだ」

「なんであんたがそんなこと知ってるの?」

 少し恐怖と怒りを混ぜた声で彼女はそう言い放った。


「クラスに鷹河凉っているだろ」

「うん、あの怖いくらい可愛い子でしょ」

「あの子が大したことない男とよく一緒にいないか?」

「噂で聞いたことはある」

「おかしいと思わない、あれだけ美人な子がどうしようもない男に付きまとうなんて?」

 本当におかしいと思う。

「それが私がストーカーされたことと何の関係があるっていうの?」

「鷹河凉も菊池もその七不思議の人物に吹き込まれたんだよ」

 星崎は怯えるように目をあちらこちらに動かしている。どうやら彼女は相当なビビりらしい。

「七不思議の人の言うことを聞かなければ酷いことになるって脅されて、菊池は異性の幼馴染を作らなきゃならなくなったんだ」

 言葉をたたみ掛け、出来る限り低いトーンで真剣に嘘を伝える。

 普段なら高校生がこんな話をしたとしても誰も信じてはくれない、そして目の前の女もきっと冷たいトーンで「馬鹿じゃないの」と言っただろう。

 しかし、このやや奇妙な相手からの不思議な話、相手はかなりの怖がり、ストーカーなんているはずがないという菊池が馬鹿であったからこそこの嘘が信じてもらえる可能性が出てくる。


「あたしそんなの知らない、あたしには関係ないっ」

「確かにそうだ、ただこのままじゃ菊池は酷いことになる、狂った人間は何をしだすか分からない、今度はストーカー行為じゃすまないかもしれない」

 感情を殺したような声で告げた。

「あ、あたしは何をすればいいの?」

「今回の事を許して、菊池の事を数日間でいいから幼馴染扱いしてあげて欲しい」

「分かった、分かったからもう怖い話をやめて」

 言質を取り、僕はその言葉に足して頷きという形で僕は了承をした。

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