第32話 ヒダリ手奪わレ道を歩ク

 教室に戻り、授業を受ける。

 戻ってきたのが二回目だからか皆からあまり注目されることもなく、多少居心地のよい場所になった。

 しかし、少ないがやけに後ろの方から視線を感じる。

 先生の何を言っているか分からない授業と、謎の視線に耐えながら僕はその授業を過ごす。


「秀大丈夫?」

 授業が終わった瞬間心配そうな顔で幼馴染がこちらに飛びかかるようにやってきた。

「もう大丈夫」

「ほんとうに?」

「大丈夫」

 彼女は心底安心しているようだった。 

「秀は私から離れちゃダメなんだよ」

「なんで?」

「幼馴染だから離れちゃダメ。」

「凉痛いって」

 戦地から帰ってきた夫でも抱きしめるかのように彼女は僕の体に力強く腕を回す。

「凉痛い、離して」

「ダメ」

 腕を振り程そうとすると力を強められてしまいどうすることも出来ない、クラスメイトを助けようにも菊池は教師陣に監禁されている。夏木さんもなぜかいない、斎藤はどうせ勘違いしているから惚気ていると思われて何もしてもらえない。

 完全に積んだ。

「凉、僕ちょっと行きたいところがあるんだけど」

「離れちゃダメって言った」

 それを言ったのは凉であって僕は了承した記憶はない、ただそれを言っても通じない相手だから黙っておくことにしよう。


 そんな僕を救うように予鈴が鳴り、授業が始まった。

 その後は特に何もなく四限目までが終わり、昼休みになると菊池が教室に現れた。


 菊池に対するクラスメイトの視線は僕が受けたものとは比較にならないほど冷たい。

 しかし、星崎さんがうまく説明をしてくれたからなのかどうやら一部のクラスのメンバーは普通の対応をしている。


「俺なんか急に許されたんだよね、どうしてだろ」

「さあな、星崎さんが面倒くさいと思ったんだろ」

「そうだ、お前さっき裏切って帰っただろ」

「裏切って僕の名前を出したのはお前だ菊池、飯くらいおごってもらえるくらいの損害だ」

「そうなのか?」

「そうだ、あとお前にとって嬉しいことがそろそろ起こるぞ」

「なんだ、何が起きるんだ?」

「それは起きてからのお楽しみだな、お前は僕に物凄く感謝することになるぞ」

 馬鹿は僕を責めていたことをすぐに忘れて、都合の良い事だけを耳に入れていた。


 放課後になり、菊池がそわそわしているなか、もう一人そわそわしている人物が同じ教室内に戻ってきた。

「あのさ、菊池一緒に帰ろ」

「ほ、星崎さん?」

「は?顔忘れたの」

「忘れてないです!」

「じゃ、帰ろ」

 動揺する菊池を置いてきぼりに星崎さんは会話を進めていく、そのまま彼女は菊池の手を引き何処かへ去っていった。


 なんであんな誘い方なんだろうなと思い適当に観察していると、僕の左手を取り一緒に帰ろうと幼馴染が誘ってきた。

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